- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784904596050
作品紹介・あらすじ
「激しく、罰せられている。私は、罰せられている。」(「黄泉の女」より)
燦爛(さんらん)たる幻想。自由への憧れ。性の冒険。狂気と孤独。貴重なデビュー前の児童小説を含む、待望の1970年代単行本未収録作品集。皆川文学誕生の秘密がここにある。
「私の中に巣喰う狂気が、さまざまな夢を見させる。文字に定着してしまえば、未だ寒々と貧しい世界。いつか華麗な狂気の世界を、文字の上にもあらわしたいと、一枚、二枚、書きつづけています」
小説現代新人賞受賞の言葉でそう語った皆川博子は、初めから、恐ろしいほどに完成されていた。同人誌発表のシュールな詩のような児童文学4篇を含む、単行本未収録作品12篇を収録。皆川文学の妖美な特色は、むしろ未収録とされた作品のほうに色濃くあらわれている。
※七北数人氏を監修者に迎えた「シリーズ 日本語の醍醐味」は、“ハードカバーでゆったり、じっくり味わって読みたい日本文学”をコンセプトに、手に汗握るストーリーではなく、密度の濃い文章、描写力で読ませる作品、言葉自体の力を感じさせる作品を集成してゆきます。
感想・レビュー・書評
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皆川博子の70年代の単行本未収録短編集(発行は2012年)。今でこそいろいろ過去作品の復刊が進んでる皆川さんだけれど、これはそれに先んじて刊行されててすごい。初期の児童文学作品郡はレア。児童むけとはいえ「花のないお墓」は戦時中の特攻の話でなかなか重いし、幻想性もある。「コンクリ虫」は可愛かった。
他の作品は、今なら一種のイヤミスに分類されてしまう系統かな。近親相姦や不倫、夫婦・恋愛のドロドロものが多く、結構グロテスク。幻想文学に需要がないと言われていた時代、おもに男性ターゲットの娯楽系文学誌への掲載で求められるエロスやサスペンスを、ぎりぎりのラインで幻想に近づけようとするとこうなるのだろうなという作者の苦心が伺えた。
表題作は、お見合いでかなり年上の傲慢な男の後妻に入った女性が、二人の義理息子の両方と肉体関係を持ち、もともと弟にコンプレックスのあった兄による弟殺害計画に感づくも…というドロドロ人間関係でラストも凄惨。
「地獄のオルフェ」は珍しく芸能界もの(フォーク歌手の時代)で、家出兄妹の近親相姦ユニットの成れの果て。
「黄泉の女」は、夫の不倫相手のマッサージ師の施術をしれっと受けにいった主人公が、夫との間にできたその女の赤ん坊を出来心で攫ってきてしまう。
ハッピーエンドがひとつもなく、ラストはいつも壮絶。だけど心理描写が抜群で説得力が半端ない。これはこれでひとつの皆川博子の得意ジャンルなのかも。
※収録
初期児童文学作品(花のないお墓/コンクリ虫/こだま/ギターと若者)
地獄のオルフェ/天使/ペガサスの挽歌/試罪の冠/黄泉の女/声/家族の死/朱妖詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
皆川博子先生の初期児童文学作品が収録された、本書。
それだけでもとても価値があるし、皆川博子先生らしくないただの真白い装丁がとても似合う。
「コンクリ虫」のみ、皆川博子コレクションにて既読。
「花のないお墓」
”死んだ兵士”が言葉も失い語るのは、恐ろしく、そしてむなしい戦争の記憶。
に、人間魚雷…まぶたのない死体…言語障害…オカアサン…。
……戦争を知らない世代から見ても怖くて仕方ないのに、これを戦争を知っている子どもたちに向けて書いたのか……そうか……。
「こだま」
皆川博子節だな…。
たしかにやまびこの”こだま”が主人公っていうのはとても絵本的だけど、その中身は悲しい。自分も周囲も傷つけてしまう、変えられない自分自身の性質を受け入れろという愛情にも見える。
「ギターと若者」
まさかギターが女性的とは思わないじゃないですか…。
なんかラストとかも、松谷みよ子作品みたいな空気感だよな。
まさに児童文学。
欲しいものが手に入ると思ったら、やっぱり違ったんだってのがしぬときに分かるのって、切ないじゃない。人間でも、そうでなくても。
「地獄のオルフェ」
ああ~~~~皆川博子っぽい!!!!!!
でもこれを少女小説雑誌に掲載するのはどうかしてる!!!!!!!!!!
兄妹近親相姦、騒乱する若者の音楽、暴力、自殺…。
今では皆川博子初期作品じゃあそりゃーねと頷いてしまうテーマがこれでもかと詰まっているが、これを読んでしまった少女たちの行く末が心配すぎる…。
それとも、今ではもう同じ穴の貉なんかな…。
「天使」
出た!!美しい甥っ子をあらゆる意味で誘惑する叔母さんネタだ!!!!!!
皆川博子過ぎる!!!!!!!!!!
これも少女小説雑誌に以下略。
やばすぎでしょ。危険な耽美世界過ぎる。
しかし、ああいう死に様はマジで皆川文学だよな…。
剥製…美しい叔母と甥…それを見ていた妹…そして、毒牙にかかる若者…。
「ペガサスの挽歌」
年若い義母と二人の息子、だなんていくらでも陳腐な昼ドラに出来そうなモティーフだけど、皆川博子世界観ではそうは問屋が卸さない。
ミステリと官能と、言い様のない感情の坩堝に突き落とされる。
「試罪の冠」
宗教とは、芸術とは…。
どちらもどれだけ素晴らしいと思っていても、理解できない人間にとっては、ただ意味の分からないものなだけ。
「黄泉の女」
夫を奪った女への暴力と残虐に満ちた妄執。
皆川博子作品における不倫で気が狂う女は、だいたい憎い女よりもその子どもに牙を剝く傾向があります。
「声」
妻を妻とも思わない夫が悪いのか、それとも、妻はもはやひとではない化生となっているのか…???????
ある意味一番怖いかもしれない。
それを突きつけられるのが受話器越しだというのが、なおさら。
「家族の死」
皆川作品の少女といえば、そうそう、この温度感なんだよ…。
暗ぼったくて、悪感情を潜ませていて…っていう。
「朱妖」
恋人の小指を水槽に沈める女っていうのがもう皆川博子すぎるでしょ…。 -
初期作品の単行本未収録を収めた本でした。
児童文学作品は当然ですが読むのは初めて。児童向けと言うもののどこかに毒や何とも言えない雰囲気が含まれていたりしてデビュー当時から皆川作品は皆川作品なのだな、と感じます。
児童文学作品以外の作品はどれも背徳的。けれど受ける印象やじわりと迫るものはどれも違い、解説の『はじめから、皆川博子は恐ろしいほどに完成されていたのである。』との言葉に納得です。 -
デビュー前後(1970年代)に書かれた単行本未収録の短編集。
背徳的、退廃的な内容でありながら、淡々とした語り手ゆえにドロドロ感はあまりないが、怖さ(サスペンス)が増しているように感じた。
共感というか、とても「わかる」部分があるが、それがどこかは秘めておきたい。 -
単行本未収録の初期作品集。児童文学作品も収録されていて、「皆川さんって児童文学も書かれていたのか!」と驚いたのですが。……これが児童文学ですか。子供のころにもしこれを読んでいたら。いい意味でとんでもないトラウマになりそうな作品でした。「花のないお墓」が特に印象的。
「黄泉の女」もいいなあ。ラストの子供に言い聞かせるシーンが鬼気迫るとしかいいようがなく。しかもそのうえであの結末。ほんっと皆川さんはとんでもないぞ。