アウシュヴィッツの手紙

著者 :
  • えにし書房
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本棚登録 : 38
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784908073182

作品紹介・あらすじ

アウシュヴィッツ強制収容所の実態を、主に収容者の手紙の解析を通して明らかにする郵便学の成果! 手紙以外にも様々なポスタルメディア(郵便資料)から、意外に知られていない収容所の歴史をわかりやすく解説。

感想・レビュー・書評

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  • ナチスドイツが行った「ホロコースト」とは何だったのか。そこにはどのような背景があったのか。
    “アウシュヴィッツという町”はどういう町なのかを知ることができる一冊。
    連動企画として「きちんと学ぼう!ユダヤと世界史」が現在もネットチャンネル「チャンネルくらら」で絶賛放送中。
    個人的には中学校や高校の教科書の教材として使って欲しい。
    政策上の必要性があったこととは言え、外界とのやりとりの証拠としての郵便物がこれほど大量に残されているという事実に、ドイツ人の妙な生真面目さが伺え、“狂気”がむしろ増幅された形で訴えかけてきます。
    一方で、アウシュヴィッツでの収容所生活とソ連での拷問双方を経験したポーランドの英雄ヴィトルト・ピレツキが残した言葉「アウシュヴィッツなど子供の遊びだ」が印象的。
    ソ連共産主義の“闇”もまた私たちが考える想像を遥かに超えて“暗く、深い”のだと知らされます。

  • アウシュビッツの歴史を郵便から見る。
    収容所になる前のアウシュビッツ地方の歴史から、アウシュビッツ以外の収容所(政治的な、民族的な)の歴史的事実も、そこにいた人々と外にいた人々との郵便でのやり取りを通してまとめる。
    ちょっと変わった視点からアウシュビッツを考える。

  • アウシュヴィッツがさらに分からなくなってしまった。
    アウシュヴィッツーガス室ーホロコーストーナチスーユダヤ人みたいな単語だけで理解した気になってた頃はどんなに楽にだったろうと思う。
    なんであれ手紙を出すことができ、手紙や郵便物を受け取ることができる。反面、ガス室にガンガン送る。労働力として利用しようと思ってるのに、ユダヤ人を絶滅させようとし、労働力を減少させる。絶滅収容所なんておどろおどろしい呼ばれ方のわりには、ソ連の拷問に比べれば児戯も同じだと言われたり。
    アウシュヴィッツってのはなんて、軽々しく括ることが難しいことだと分かった。
    本書とは関係ないが、ちょうど最近ガス室やホロコーストを否定する人々がいることを知った。エキセントリックなナチ狂信者かなと思えば、そうでもなく、存外冷静に真剣に研究しているようであった。その内容は別にしても、そういう考えがあることに驚いたし、軽い拒否感を覚えた。自分はアウシュヴィッツもガス室もホロコーストもろくに知らないのに、である。知らないくせに、それを否定する人間はこんなヤツだろうと決め付けようとした。
    事実関係は別として慰安婦問題での韓国人の反応が、ホロコースト否定に対して受けた自分の気持ちと同じだとしたら、これはちょっと解決しようがないなと思った。

  • フォトリーディング後、高速を交えて熟読。

    郵便から地域の歴史的変遷を見るスタンスで、アウシュビッツについて語る面白い書。
    アウシュビッツとポーランド、ナチスと周辺諸国の関係について知ることが出来た。また収容された人に郵便を家族に送る権利(義務・収容所がそう悪くないというプロパガンダ)があったことは意外な一面。外から来る小包も、ドイツ人は律儀に収容者に届けていたことも、ナチスとはいえドイツ人の生真面目さがうかがえて興味深かった。

    星三つにしたのは、個人的に求めていたものが一つしか見つからなかったからで、他の人にはかなり面白いと思う。

    以下に付箋を貼った箇所の要約を載せる:

    29:1866年の普墺戦争(ドイツ統一の方式を巡る戦争)でオーストリアは敗北。それゆえプロシア主導で統一。オーストリアは排除。(これでドイツ語圏でドイツとオーストリアが両立し、オーストリアにドイツの皇帝とも言えるハプスブルグ家があったことの、個人的な長年の違和感が解決。)

    35:ハプスブルグ帝国が崩壊したのは第一次大戦時、1918年のヴィットリオ・ヴェネトの戦いの敗北による。カール大帝は国内異人種の統治不能とみて、帝位を降りると表明。(日本の皇室と違い、世界の皇帝は支配階級の意識が強いのだなと、あっけなく素っ気ないその退位の理由から感じた。個人的感想。)

    51:ニュールンベルグ裁判でゲーリングは、ナチスの収容所は英国のボーア戦争時の南アでの収容所を参考にしたと語る。

    56:ナチスによるユダヤ人取り扱いの法律は1935年成立のニュールンベルグ法。(裁判のあった場所であることは興味深い。)
    外国籍のユダヤ人には手は出せなかった。

    58-59:1938年11月9日から10日の水晶の夜の経緯。パリ在住のドイツ外交官殺害の報復的、反ユダヤ主義の暴動。官製暴動。ドイツ各地で発生。

    62:英国委任統治下であるパレスチナは、ユダヤ人の受け入れを制限。他国もナチス統治下のユダヤ人受け入れ拒否。行き場を失うユダヤ人。

    72-73:米国の日本人強制収容について。日本人の規定は4人の祖父母のうちひとりでも日本人がいるもの。(奇しくもニュールンベルグ法の規定とおなじ)。

    95:解放50年目に建てられたアウシュビッツにある記念碑には、その被害者数を150万人と記載されている。

    151:アウシュビッツを解放した時には、戦後の冷戦がすでに始まっており、ソビエトの発表を誰も信じない背景があった。それ以東にあった収容所をソ連が解放。その惨状を伝えるも、ソ連の誇大なプロパガンダと西側が判断したゆえ。
    しかしこれも、英国がベルゲン・ベルゼンの収容所を解放したことで、実情が伝わり様相が変わる。

    176:ダニエル神父こと、ダニエル・オズワルド・ルフェイセン問題。ユダヤ人でカトリックに改宗、イスラエル再建後帰還するも、ユダヤ人とは当局に認められなかった。裁判をするも敗訴。当局はその後ユダヤ人の規定に「他宗教を信じる者を除外する」旨を付け加える。

  • 郵便学というのが面白い。
    よく、これだけ貴重な当時のアウシュビッツやら収容所の写真、手紙を集めたものだ。

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著者プロフィール

1967年東京都生まれ。東京大学文学部卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。切手等の郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続けている。

主な著書
『なぜイスラムはアメリカを憎むのか』(ダイヤモンド社)、『中東の誕生』(竹内書店新社)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)、『切手と戦争』(新潮新書)、『反米の世界史』(講談社現代新書)、『事情のある国の切手ほど面白い』(メディアファクトリー新書)、『マリ近現代史』(彩流社)、『朝鮮戦争』、『リオデジャネイロ歴史紀行』、『パレスチナ現代史』、『チェ・ゲバラとキューバ革命』、『改訂増補版 アウシュヴィッツの手紙』、『日韓基本条約 シリーズ韓国現代史1953-1965』、『アフガニスタン現代史』、『龍とドラゴンの文化史』(えにし書房)、『みんな大好き陰謀論』(ビジネス社)、『日本人に忘れられたガダルカナル島の近現代史』(扶桑社)、『世界はいつでも不安定 国際ニュースの正しい読み方』、『今日も世界は迷走中』(ワニブックス)、『切手でたどる郵便創業150年の歴史 vol.1 戦前編』、『切手でたどる郵便創業150年の歴史 vol.2 戦後編』、『切手でたどる郵便創業150年の歴史 vol.3 平成・令和編』(日本郵趣出版)、『誰もが知りたいQアノンの正体(みんな大好き陰謀論Ⅱ)』、『本当は恐ろしい! こわい切手』(ビジネス社)、『現代日中関係史 第1部 1945-1972』(日本郵趣出版)、『現代日中関係史 第2部 1972-2022』(日本郵趣出版)。

「2024年 『キュリオマガジン2024年3月号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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