グッバイ、レーニン! [DVD]

監督 : ヴォルフガング・ベッカー 
出演 : ダニエル・ブリュール  カトリーン・サーズ  チュルバン・ハマートヴァ 
  • グラッソ(GRASSOC)
3.68
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本棚登録 : 1388
感想 : 261
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4949478460045

感想・レビュー・書評

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  • 大昔に見たのだけど、当時はあまりおもしろいと思わなかった。というか、途中からウトウトして記憶がない、というのが正しい記憶。
    なので、もう1回ちゃんと見よう、と見終わった直後に思って幾星霜。やっと見直した。

    驚いた。切ない映画だった。てっきりコメディかと思ってた。昔の私はそういう理解だった。たいしておもしろくないコメディだと。
    今、見直してみて、この映画の切なさは子供(最初に見た時の私のことですが)には分からんだろう、と思う。

    自分たちが一途に守ってきた国が、価値観が、ある日突然なくなってしまうとまどい。これまで信じて励んできたことが突然、否定されてなかったことにされてしまう。
    正確には東ドイツはなくなったわけではなくて、再統一されて元に戻っただけなんだけれど、でも、気持ちとしては完全否定されてなくなってしまったに等しい。
    日本と同じだなぁ、と思う。

    若い主人公はもちろんその変化に柔軟に対応しているわけだが、心臓の弱い母にショックを与えないためにまだ旧東ドイツが存続しているふりをしていくうち、主人公がその場しのぎの嘘を重ねて描き出した東ドイツは、まるで、かつてあの国が掲げた理想をまじめに正確に追求し、ついに実現したかのような様相を帯びてくる。
    このあたりがなんというか、すごく文学的ですごく切ない。

    戦前の日本とつい重なってしまう。完全にいろいろ間違っていたのは事実だけど、だからと言って、その時代に国の言う嘘を信じて一生懸命生きていた人たちのすべてを否定する気になれないですよね。新しい価値観がより良いものであるという事実は別にして。

    「もしもあの国があのまま進み続けたら」という他愛のない嘘が、次第に絶対にありえないような、奇妙に主人公の理想を反映していると分かった時のあの不思議なおかしさというか、切なさというか。
    この話、そっくり場所と時代設定を戦後の日本に持ってきてリメイクすることが可能ですね。

    ということで、繰り返しになるけれど、この映画のなんともいえずおかしくて哀しい感じ、年を重ねないと分からないだろうなぁ、と思う。少なくとも若いころの私には分からなかっただろうと思う。
    20代くらいまでは自分という人間を生きるのにせいいっぱいで、自分の生まれた国がそれほどの影響を自分に与えているという感覚があまりなかった。
    人間の価値観なんて、簡単にひっくり返されたり元に戻されたり、絶対なものなんて何もない、ってことも分からなかったなぁ。日本文学なんて、ずーっとそういうことばっかり言ってるんですけどね。

  • 東西冷戦時代のベルリン。西ドイツへ父親が亡命したことから、東ドイツとその政治体制を盲信した母を持つアレックス。1989年10月、反体制デモに参加しているアレックスを偶然見かけた母は心臓発作を起こし昏睡状態に陥る。
    8ヶ月後、彼女は奇跡的に目を覚ますが、ベルリンの壁は崩壊し、東ドイツはすっかり西側の資本主義に染まっていた。もう一度大きなショックを与えたら母の命は保証できないと言われたアレックスは、母を自宅に連れ帰りベルリンの壁崩壊前の生活を送ることにする。母のためにピクルスを東ドイツ時代の瓶に詰め替え、映画監督志望の友人デニスの協力を得てフェイクニュースを母に見せる。そんなアレックスに姉や周囲は呆れ顔。恋人のララは母に真実を告げるべきだと主張する。
    ある日母が再び倒れ、父があの時家族を連れて亡命しようとしていたが自分はできなかったと告白する。母が隠し持っていた父の手紙から父の居場所を突き止めたアレックス。父はすでに新しい家庭を持っていたが、危篤の母に会いに来る。ララはアレックスに内緒で真実を母に告げるが、彼女は冷静に受け止め、アレックスの前では何も知らないふりを続ける。
    アレックスは芝居をやめるため、東西ドイツ統一のフェイクニュースを作り母に見せる。現実に東西ドイツが統一した数日後、母はなくなり遺灰を夜空に打ち上げる。

    東西ドイツ統一の影で起こった庶民の悲喜劇をコミカルに描いた傑作。東ドイツはこんな風に資本主義に染まっていったんだなあと興味深い。アレックスのやってることはむちゃくちゃだけど、母親のためを思っているから心から応援したくなる。

  • 2023/03/26

  • ベルリンの壁崩壊のときを生きたある家族の物語。主人公の母親に対する愛情と協力してくれる仲間(協力といっても、単に愛からみたいなかんじでなく、それぞれの想いが人間らしくていい)、ラストにロケットを飛ばす主人公の清々しい顔が素敵でした。

  • レーニンについて知りたくて見てみたらレーニンについての映画ではなく、東西ドイツの統合を変わった形で経験した家族の物語でした。コメディタッチではあるものの腹を抱えて笑えるわけではなく、どこか突き抜けない側面を感じるものの、東西ドイツの文化や価値観の違いが各キャラクターを通して非常に愛らしく描かれた優しい物語は心に残った。

  • 「ベルリンの壁は崩壊した。だけど僕は母を守る壁を作ろうとした」
    感傷に浸りながら作品のキャッチコピーを知ってますますホロリ。

    ディープなヨーロッパ映画への恐怖心、早くも消える。
    「いつバレるのか」とヒヤヒヤの連続。ほろ苦さが残りながらも心が温まった。

    洋画を観ていつも感じること。
    もっと世界史頑張れば良かった。笑
    壁崩壊も生まれる1年前の出来事なのに今一つ分かっちゃいない。映画を観てその疑問が解消されたわけやないけど崩壊前後の人々の変化を大体知ることができた。

    「一つとなった国」での新しい生活に何としてでも順応していくか、何も知らぬまま「存在し得ぬ」世界で生きていくか。
    冒頭で子供達とたわむれる幸せそうなお父さん(この時はまだ声だけの出演)にドイツ人初の宇宙飛行士、国境がなくなっただけでこんなにも彼らが生活の変化に苦しまなきゃいけないことに愕然。
    東ドイツ製品や政策は消え失せ、主人公は母をこれ以上苦しめないようかつての生活を再現するために奔走する。
    息子によって再現されたとは露知らず、大好物の「東ドイツ製」ピクルスを美味しそうに頬張るお母さんがとても幸せそうだったけど観ているこっちとしてはやっぱり哀愁を感じてしまう。笑
    コカ・コーラ社の看板やトラック、解体されたレーニン像と、お母さんの周りで時代が進んでいく描写が本当に上手い。
    (ただドイツなのに何でレーニンなのかがよく呑み込めていない。誰か知っている人がいたら教えて欲しい笑)

    「嘘もつき通せば最後には真実となる」って言うけれど、この場合は世の中ではなく今ではお母さんひとりぼっちとなった世界を救うための嘘。
    ぼろぼろになった息子さんがめちゃくちゃ痛ましく、お母さんが亡くなった時は正直ホッとしてしまった。
    苦労から解放されて彼もホッとするかと思いきや、最後まで守られた母の国ではいつでも彼女との思い出に会えると締めくくられた。優しい親孝行のかたちを目の当たりにし、暗転したスクリーンがぼやけてもーた。

  • 秀作。
    東西ドイツ統合では、色々ドラマあったんだろうね。やっぱ、豊かな生活を求めるんだな。
    数ヶ月で東ベルリンの生活がこんなに変わったとは。

  • 東ドイツに住む主人公
    のほほんと生きているが、国家を熱心に支持する母親にデモでの拘束現場を目撃されてしまう。
    母はショックで倒れ目を覚まさない。
    そうこうする内に、まさかのベルリンの壁崩壊。
    やっと母親は目を覚ますが、安静にし続けねば命の心配も。

    主人公は周りを巻き込み、もう亡くなってしまった『東ドイツ』を作り上げる。

    国や政治に振り回される市井の人々が、コミカルながらたまにしんみりと描かれる。
    家族や同じ集合住宅の住民、友達との大げさでないドタバタ「東ドイツ」ライフ作りは素朴で必死。

  • 思った以上にコメディ・タッチ。
    早回しの家具運搬シーン、なんだっけと思ったら「時計じかけのオレンジ」だったか。

    東西ドイツの統一の熱狂の中、母の心臓を気遣って東ドイツの存続を演じ続ける話。
    失業をはじめとした統一後の旧東ドイツの苦しみと懐古趣味が強く打ち出されていて面白い。

    母から打ち明けられた真実も非常にショッキングだったが、それでも演じ続けるアレックスの、自分自身のためになった目的の変化が非常に物悲しい。心神喪失からやっと回復した母の横でロケットを飛ばしていたあの頃が懐かしいんだな、と。
    最後に統一記念日のビデオのシーンで、アレックスを見る母の眼差しに、昔心神喪失状態の母に声をかける幼いアレックスを思い出される。
    社会的な側面と、非常に個人的・家族的な個別のストーリーをうまく重ね合わせるところが非常に秀逸。

    宇宙飛行士シェーンはまさに過去の栄光の名残の象徴で、彼に出会った後サンドマンを観て、最後はロケットを打ち上げる。東ドイツの言葉で宇宙飛行士を呼ぶあたりまだ彼が亡き東ドイツ(とつながる昔の思い出)にこだわっていることがよくわかる。東西ドイツの統一でアレックスの経済事情に悪いところはないはずだが、政治的思想は無関係に、ただあの頃を懐かしがり固執するところは人間らしくていい。そして彼も最後は前を向く。

    シェーンが父との別れと再会の両方の接点になっているところが面白い。シェーンと東ドイツの栄光のときも、アレックスの家は世の中と正反対の方向に向いていた。もちろん宇宙飛行士を持ち出したことに国境の相対化の意味が含まれているのは間違いないだろう。

    ユーモアセンスも高い。心臓発作の前後で陳情書の記述が正反対なのはさりげないが非常に面白かった。

    毎回ハイ・クオリティのニュース番組を作ってくれる同僚・友人がとても気に入った。映像をつくる人間ならではの人物の描きこみと自虐のようなものが感じられてすごくいい。

  •  西ドイツに夫が亡命したことをきっかけに東ドイツの共産主義に傾倒していた母親があるきっかけで倒れて意識を失っている間にベルリンの壁が崩壊した。流入する西ドイツの資本主義文化により街は急激に様変わりする。意識が戻った母親がショックを受けないように、息子は壁が崩壊した事実を告げずに共産主義のままの東ドイツを母親の前でだけ貫き通すことにする。
     しかしそれには周りの並々ならぬ協力が必要で、友人と一緒にフェイクニュースを作ったり、壁崩壊によりポストを失いアル中になってしまった教授を呼び戻したりと母親のために駆け回る主人公。最後は、見かねた看護師の彼女が母親にこっそり本当のことを打ち明けるのだが、それを知らない息子はいつものようにフェイクニュースを見せながら東ドイツを褒め称える。その様子を感慨深げに見つめる母親は、きっと息子が自分のために優しい嘘をつき続けていたことに計り知れない愛情を感じていたんだと思う。
     友人がフェイクニュースを作るたびにノリノリで本格的になっていくのが面白かった。コカコーラの広告があるだけで笑える映画はこれだけだと思う。あと彼女役のチュルパン・ハマートヴァがとても可愛い

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