予兆の島 (1981年)

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  • 「アレキサンドリア四重奏」のロレンス・ダレルは、20歳位の時期一家でギリシアのコルフ島に住んでいた。
    このときの体験談を自然とともに生き生きと書いたのが、ロレンスの一番下の弟ジェラルド・ダレルによる「虫とけものと家族たち」
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4122059704#comment
    そして同じくコルフ島での体験をロレンス・ダレルが日記風風土記風に書いたのがこちらの「予兆の島」。

    ロレンス・ダレルは「アレキサンドリア四重奏」の4巻を「一人称で」「同じ出来事を同じ人物の一人称で見直し」「同じ出来事を三人称で見直し」「三人称で先に進む」という、多方向からの目線で書いている。
    私達読者は、「ダレルさん一家がコルフ島に移住していた」という事実を文士のお兄ちゃん目線と、元気いっぱいの末っ子目線との両方で読むことができる。
    まあそしてロレンスお兄ちゃんと他の家族たちにとって、末っ子ジェラルド・ダレルの「虫と〜」は、自分たちの変なことを書いてるから友人知人から変人扱いされちゃったじゃないか〜!と不本意だったようだが(笑)

    ジェラルド・ダレルの「虫と〜」では、未亡人の母、3人の息子と1人の娘での移住だったが、こちらではロレンスと最初の妻のナンシーとで移住したことになっている。家族のことは、すぐ下の弟のレズリーは少しだけ出てくるけれど、母や妹や下の弟は出てこない。
    「虫と〜」にも出てきた一家の友人である科学者セオドロス、地元運転手のセピロも登場。ロレンスと同じような教養の持ち主であるセオドロスには最高の敬意を示しているけれど、現地の素朴なセピロのことはまあ現地の便利なヤツ扱い(笑)

    ロレンス・ダレルは父親の赴任地である英領インドで生まれ、その後イギリスで教育を受けるが、父の死後一家でコルフ島に移る。第二次世界大戦が近づきイギリスに戻るが、その後も地中海への思いは増すばかりで、地中海の島々を回る。
    彼の島好きはやはりコルフ島の風土記を書くことで深まったのか、この「予兆の島」ではギリシア人気質や、各国の植民地になった歴史、英雄譚や影絵芝居、農作物、自然の風物、気候などを記録している。
    そしてこのコルフ島は、ホメロスが漂流したナウシカアー女王のいた島であり、シェイクスピアがテンペストの舞台とした島という説があり、そして裏切り者ユダの子孫が暮らす島だということ。
    しかし現地の人たちは、子供の通う教科書で初めてホメロスを読み「なんて見事な作り話なんだ!」と大爆笑、ロレンス・ダレルが「その話は世界中で知られ、そしてこのコルフ島こそがその舞台であり、ホメロスとナウシカアー女王が出会ったのはその先の○○海岸だよ」なんて教えて現地の人を驚かしている。現地の人が一番その”価値”を知らず誰も利用もしないというのも素朴なお話。

    話が終わるのは、戦争が近づき、コルフ島に滞在していた人たちもそれぞれヨーロッパ諸国に帰ってゆく、そしてロレンスとナンシーはエジプトのアレキサンドリアに逃れる。そこで別れた友人たちからの手紙を受け取ったり、彼らのその後(セオドロスやセピロも)が書かれる。歴史上は戦地になったコルフ島の町はほぼ壊滅したようで…、なんとも言い難い。

    また更に年月が流れてロレンスとジェラルドはそれぞれコルフ島を訪れているが、その時には町は復興していて、また彼らの小説によりコルフ島はすっかり観光地化したようだ。
    しかし島がリゾート地となり、本来の姿を失ったことには、この兄弟はそれぞれがなんとも言えない感情を持っている様子。
    https://rtrp.jp/articles/1734/

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著者プロフィール

1912~1990。イギリス系植民者の息子としてインドに生まれ、イギリスで育つ。小説『黒い本』『アレクサンドリア四重奏』『アヴィニョン五重奏』、紀行『苦いレモン』、詩集『私だけの国』他。

「2014年 『アヴィニョン五重奏V クインクス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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