遊牧民族の知恵―トルコの諺 (1979年) (講談社現代新書)

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  • (2016.07.04読了)(2005.03.18購入)
    副題「トルコの諺」
    最近、シリアの内戦、シリア難民、クルド族、イスラム過激派によるテロ事件、等で、トルコの名前がよく聞こえるようになりました。ということで、今月は、トルコに関する本をいくつか読んでみることにしました。
    トルコに暮らす人々は、今も遊牧で暮らしている人たちもいますが、ほとんどは、遊牧を離れた生活を送るようになっています。しかしながら、考え方の基本に、遊牧民だったころの価値観がかなり残されている、ということで、トルコの諺を解説する中で、日本人や西欧人との考え方の違いを教えてくれます。

    【目次】
    1 草原の思想と田園の思想
     1 「強い者が遊牧し、弱い者が耕す」
     2 遊牧民の個人主義
     3 遊牧民の処世術
    2 家畜との一体感
     1 遊牧民の美意識
     2 遊牧民と馬
     3 「食べること」への執念
    3 騎馬の民の論理
     1 「知恵なき味方より知恵ある敵」
     2 世襲貴族の不在
     3 武士と「アダム」
     4 リーダーの条件
    4 国家より重い友情
     1 トルコ人の最高道徳
     2 ヨコの団結
     3 遊牧民の愛と性
    5 イスラム教と遊牧民
     1 神と悪魔
     2 「大地から生れたものは大地へ戻る」
    あとがき

    ●遊牧(9頁)
    遊牧というと、水と草を求めて、定めなく放浪する生活のように思っている者が多いのだが、実際は部族ごとに夏の宿営地と冬の宿営地が決まっていて、その二ヵ所を往復するのが原則である。しかし、完全な放浪ではないとはいえ、夏の酷熱と凄まじい乾燥、そして冬の酷寒と闘いながら、家畜の大群を管理する、定期的な大移動という生活は楽ではない。
    ●故郷(20頁)
    「故郷とは、生まれた所ではなくて満足した所」
    ●ロバの尻尾を大勢の前で切るな(28頁)
    放っておくと、ロバの尻尾は伸びすぎて邪魔になるので、幼いうちに切ってしまう。しかし、それを群衆の前でやると、ある者は「もっと短く切るべきだ」といい、別の者からは「それでは短すぎる」などとの忠告が出るので、どう切ったらいいのかわからなくなる、というのが表面上の意味である。
    この諺は、いちいち他人の干渉を受け入れると、なにごともできなくなることを教えている。
    ●全員の満足(30頁)
    みなが勝手なことをいいあっていては話がまとまらないとか、なにごとでも全員を満足させられるような名案はない、という意味の、「それぞれの好む所へ、隊商宿は建てられない」という諺がある。
    ●皮なめし屋は、気に入った皮ほど数多くたたく(33頁)
    可愛く思う子どもほど厳しく育てねばならない、という意味だ。
    ●犬と狼(47頁)
    やせた狼と太った犬が山道で出会い、犬は狼に自分と同じように人間に飼われれば、もっと楽な暮らしができる、と勧めるのである。ところが、狼は、「オレは餓え死にしても、人間に『自由』を売り渡すようなまねはしたくない」といい捨てて、去るのである。
    ●騎馬の発明(57頁)
    馬も古くからの家畜だったらしいが、ずっと肉を食べるためにだけ飼われ、やがて車を引かせることを覚えたが、馬そのものを乗り物に使うことは長いこと不可能だった。
    なぜなら、馬を乗りこなすためには、「くつわ」と「たづな」と「あぶみ」と「くら」の四点が必要だからである。
    ●停戦(80頁)
    「降参させたら剣をしまえ」
    「歳月は去るが、復讐心は去らぬ」
    ●友人(121頁)
    トルコ人にむかって、「あなたの最も重視する道徳は何か?」と質問すると、九割以上の人々が「信義」と答える。さらに、その信義の対象は何かと尋ねると、大半の答えが「友人に対して」である。
    ●アラブ世界の諺(133頁)
    「敵には十分に気をつけろ。だが、味方には、それ以上に気をつけろ」
    ●ロシア人の言葉(140頁)
    「ロシア人の言葉」とは、絶対に信用できないことを意味する。トルコ帝国とロシア帝国との間で結ばれた条約が、ひとつ残らずロシア側から破られ、相手が社会主義、こちらが共和国となってからの条約も、大半が一方的に破られたためであろう。
    ●男と女(146頁)
    「男は薪で女は火、いっしょにすれば燃え上がる」
    ●イスラム教(182頁)
    イスラム教の特色のひとつは、数多くの禁忌で、つまりタブーがあることだが、その大半はコーランに規定されたものではなく、後世の聖職者たちが定めたのである。

    ☆関連図書(既読)
    「古代への情熱」シュリーマン著・村田数之亮訳、岩波文庫、1954.11.25
    「埋もれた古代帝国」大村幸弘著、日本交通公社、1978.04.01
    「鉄を生みだした帝国」大村幸弘著、NHKブックス、1981.05.20
    「古代アナトリアの遺産」立田洋司著、近藤出版社、1977.01.10
    「埋もれた秘境 カッパドキア」立田洋司著、講談社、1977.10.30
    「トルコ史」ロベール・マントラン著・小山皓一郎訳、文庫クセジュ、1975.10.10
    「スレイマン大帝」三橋冨治男著、清水書院、1971.09.20
    「シルクロードの幻像」並河萬里著、新人物往来社、1975.03.10
    「地中海 石と砂の世界」並河亮著、玉川選書、1977.12.25
    「トルコという国」大島直政著、番町書房、1972.08.30
    「ケマル・パシャ伝」大島直政著、新潮選書、1984.05.20
    「トルコ民族主義」坂本勉著、講談社現代新書、1996.10.20
    (2016年7月5日・記)
    (表紙より)
    <強い者が遊牧し、弱い者が耕す><明日できることを今日するな><知恵なき味方より知恵ある敵>―トルコの諺には、西アジアの苛酷な自然と闘いながら、一望千里の大草原を駆けめぐり、弱肉強食の世界を生き抜いた、騎馬遊牧民の生活の知恵が、今なお伝えられている。定着農耕民とは異なる移動と闘争の論理に貫かれた彼らの精神風土をあざやかに浮き彫りにする。

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