重き流れの中に (1950年) (新潮文庫)

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  •  敗戦後の日本社会の圧倒的貧困の中でもがく人物群像をモチーフとした「深夜の酒宴」「重き流れの中に」と、満洲事変以後・日中戦争開戦前、地下に潜った労働運動家の青年のあてどない心象風景を描いた「深尾正治の手記」、計3編を収める。
     
     両国あたりの倉庫を木賃アパートに改造した伯父に憎まれながらも依存し、居候を続ける「僕」を視点人物に据えた「深夜の酒宴」にしても、二軒長屋の狭い空間を3世帯で分け合う生活が綴られた「重き流れの中に」にしても、軍需工場で潤う都市の片隅のドヤに集まった人々のやりきれない時間が描かれた「深尾正治の手記」にしても、椎名麟三の作品世界は圧倒的に狭苦しい。人物たちは、まるで小さな箱の中に押し込まれた虫たちのように愚かにいがみ合い、ささいなことでぶつかりあい、その一方で互いに深くいたわり合っている。この狭さと貧しさ、出口のない感覚が作品世界のトーンを決定している。おそらく1960年代、高度経済成長期以後の日本社会が徹底して忘却してしまった「貧困」のリアリティが、ここにはある。そして、その「貧しさ」こそが、適切な出口を持ち得ず、ただいたずらに生のエネルギーが内攻し、ねじ曲がっていく負のサイクルを生んでいく。占領期から1950年代のこの「貧しさ」の問題を忘れて、思想的・イデオロギー的・政治的な議論はできない、と改めて思う。

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