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- / ISBN・EAN: 4560285900052
感想・レビュー・書評
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The third man(1949年、英)。
オーソン・ウェルズの怪演が光るフィルム・ノワールの傑作。
『第三の男』は、第二次世界大戦後の荒廃したウィーンを舞台に、消えた男の行方を追うサスペンス映画だ。1949年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した作品で、その完成度は映画評論家の淀川長治をして「映画の教科書」と言わしめたほど。
まず、スタイリッシュな映像美に注目したい。モノクロであるにもかかわらず、というよりモノクロだからこそ強調される光と影のコントラストが、ストーリーに相応しいアングラ感を醸し出している。斜めアングルの効果といい、ダミーのような人影といい、60年以上前にこんなシャープな表現が既に存在していたということに驚く。音楽にも着目したい。ツィター奏者アントン・カラスの奏でるテーマ曲は、映画音楽としては最も広く知られている曲のひとつだ。ノスタルジックな旋律はストーリーや映像美とあいまって、映画とは総合芸術なのだということを改めて思い起こさせる。
罪悪感の欠落した究極のエゴイスト、ハリー・ライムのインパクトは強烈だ。元祖サイコパスというべき悪漢を演じたのはオーソン・ウェルズ。尺としては全体の四分の一くらいしか出番はないが、存在感が凄い。闇に浮かび上がる登場シーン、観覧車での駆け引きのシーン、下水道での逃走シーンなど、彼にしか表現できないような不穏なオーラを常にまとっており、なるほど怪演というのはこういう時に使う言葉なのかと妙に納得してしまう。個人的には、マンホール(?)の鉄格子からにゅうっと指が出てくるシーンがホラーなみにキテると思った。
「ボルジア家の圧政はルネサンスを生んだが、スイスの民主主義が生んだのは鳩時計だけ」(大意)というハリーの科白は有名。ニヒリスティックなキャラクターをよく表していると同時に、敗戦国の人心荒廃やモラルハザードを象徴しているようだ。報われない愛を貫くアンナ(アリダ・ヴァリ)はクール・ビューティで印象的。枯葉の舞う並木道を、男に一瞥もくれず歩き去るアンナの頑なさは哀しく、しかし誇り高い。お涙頂戴的な安っぽい感傷とは無縁の、映画史上屈指と言われるラストシーンだ。
映画を語る上で外せない作品のひとつである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
陰影の使い方と、配置美といってもいいような、計算され尽くした細かな演出と映像が光る、サスペンス名作。
多くの人によって評価され、文章に起こされたあの超有名なラストは、結末を知っていてすら、胸に残る美しさと哀愁があります。
カメラワークの魅せる技をとことん楽しめる作品といってもいいかも。
第二次世界大戦直後のウィーン。米・英・ソ連・仏によって四分割統治され、市の中心部は共同統治として国際警察が置かれている。
そんな混沌とした場所に、友人であるライムから仕事を持ちかけられ、はるばる海を渡ってきた、売れない作家でアメリカ人のマーチンス。
しかし、ライムの家を訪れると、彼は前日に事故死したという。
彼は事故に遭った直後、一緒にいた友人である二人の男によって道路脇に身体を運ばれ、医師の到着を待たずにそこで生き絶えたという。
けれど、彼の体を運んだ男たちは三人いたという証言を、ライムのアパートの管理人から聞くマーチンス。
果たして、ライムを運んだ「第三の男」は誰だったのか。
マーチンスは、図らずも、ライムの恋人だった女優のアンナ、ライムを極悪人と断ずるイギリス軍のキャロウェイ少佐など、多くの人間と接触しながら、友人の謎に満ちた突然死の真相を探ろうとするけれど、彼の行く手を阻もうとするような殺人事件が起こり…。
友人を信じ、その死を探ろうとしながらも、次々に迫り来る展開と、明かされていく事実に、揺れ動くマーチンス。
何があっても、何を聞いても、ただただ盲目的に恋人に忠実であることを選んだアンナ。
彼らの行動を監視し、追うキャロウェイ少佐。
そして、それら全てを利用しようとして、最終的には破滅する「第三の男」。
複雑な事情を抱えて混沌とするウィーンを舞台に、混沌と物語は展開していきます。
本当に、光と影の使い方と、そして、細かな演出が憎い映画。
暗闇の中で浮かび上がる人影や、顔など、現代から見たら古典的な演出になっているはずなのに、それでも見惚れてしまう。
そして、一回目で映像を楽しみながらもストーリーを頭に入れて、改めて二回目を観たら、その徹底した演出と映像ぶりが改めてがよくわかりました。二度観ると、あっ、これ、あそこの伏線じゃん、とか、あのシーンとの対比じゃん、というのもかなりあります。
女が歩き去る、あの超有名なラストは勿論のこと。
真相にたどり着いたマーチンスと「第三の男」が最後の最後に見つめ合う瞬間、袋小路に追い込まれた第三の男の醜く蠢く指先、そして、真相のわからないままの銃声、といった演出などもものすごく巧みで、胸に残って仕方がないです。
一度は観てよい、まさに名作ですね。
個人的には、三度目も多分観ます。 -
ようやく観れて嬉しかったのだけど、期待値が高すぎて……。
演出面は最高、話はありきたりでつまらんかった。オーソンウェルズの登場シーンがピークかな。
ちょい後だけど、こないだ観た『黒い罠』の方が断然面白かった。 -
1949年イギリス映画.BSにて視聴.
私がこの映画を初めて見たのは有楽座・日比谷映画が再開発で取り壊される前,さよならフェスティバルと銘打って名画を連続上映したとき.もう30年くらい前か.そのあと銀座マリオンができたわけだ.ふたつの映画館の大きなスクリーンに映される名画に寝不足で眠い目をこすりながら通った思い出がある.あのころが私の映画への情熱のピークだった.
思い出話はさておき,今長いときを隔てて見てみると,若いころには感じなかった複雑な感情にとらわれる.良い小説の再読に似た感じか.舞台になった戦災でボロボロのウィーンをみると,過ぎ去った時代への強い哀惜の思いを感じる.その内容はサスペンス映画といえば確かにそうだけど,その緊迫感は最後の地下の下水道のシーン以外はそれほど強くない.それよりもホリーとアンナの心の緊迫感がストレートに伝わってきてすごみがある.そこにオーソン・ウェルズが登場すると,役者はそろった,という感じである.音楽も秀逸.シリアスなドラマにある種の滑稽感がつきものであることを如実に教えてくれる.そのラストシーンはやっぱり鳥肌ものだった. -
下水道のシークエンスが素晴らしい。
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光陰のつけ方がどれも印象的で、これは現地に行きたくなる…悪役の登場シーンが短いわりに存在感が際立っていておもしろかったです。恋は切ないなぁ。
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「メディチ家の圧政はルネッサンスを生んだが、スイスの500年の平和は何を生んだ? 鳩時計だけだ」
この皮肉のきいた名セリフを聴きたいがための再視聴。
なにしろ「古典」なので、あっと驚くようなプロットではありませんが、あまり姿を見せないにも関わらず凄まじい存在感を放つオーソン・ウェルズ、4国の共同管理下のウィーンという魅力的な舞台設定(様々な言語がとびかう猥雑な雰囲気が緊迫感を醸し出す)、地下下水道での逃亡劇など、見所は多いです。白黒映画ならではの光と影のコントラストを強調した映像も美しいですね。 -
葬式から始まり葬式で終わる、内容は重いのですが、そこに軽快な音楽が乗っかると悲劇の筈なのに喜劇を観ているかのような気分になる。それが、奇妙で切ない。
20130416 -
原題:The Third Man
(1949/104min/Carol Reed/イギリス) -
名作
ウィーン