- Amazon.co.jp ・電子書籍 (240ページ)
感想・レビュー・書評
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いい本です。再度、読み返したいと思います。
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マンションへの建て替えを了承したものの、ビルに居続ける茂木氏。彼は生きる場所と意味を与えてくれたビルの正統な後継者である友人阿部氏に不義理を働いた女性に、彼女がそこで知るべきことを知らせる義務感から居残っていた。そのビルで育った子供たちの思い出と、彼らを育てた阿部・茂木両氏との思い出とが読んでいく中で重層構造を成していく。思い出に関係のない様々な知識も込められ、知的好奇心が満たされる感覚が良い読書体験として残る。末尾まで来た時に、頭の中に残ったものはとても綺麗なのだけれど、文字では伝えきれない。
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行き場を失った戦災孤児らはかつてビルの庭で、生きるために畑を作り、農作物を育てました。その過程で努力を惜しまないといった生きるためのノウハウを学び、成長してからも現代の社会でたくましく生きていきます。管理人として、このビルに住み込んだ主人公も彼らがかつて耕した庭の畑を耕し、苗を育てていく過程で、戦災孤児であったビルの住居者の会話を聞き、心を繋ぎ止めていく様子が描かれています。
「農」が単に収穫をもたらしただけでなく、人生に精神的な豊かさをもたらした様子が、この作品の中から見えた気がしました。 -
登場人物がそれぞれの子供時代を語るのだが、誰が誰なのか分からない者が多く、2度読み直す。それでも分からない者もあり・・・ニックネームが混乱の素のようだ。
『子供たちは、ふたりの男の知的な答えによって人生を教えられたのではない。その二人の現存在そのものによって、人間として育ち続けたのだ。』
この言葉は、2児の父でもある僕の胸に突き刺さる。
果たして僕は子どもたちに現存在そのものをもって向き合っているだろうか。