2012年11月号の目次
変革を模索するキューバ
国家元首が変わって4年。カリブ海の社会主義国はどこへ向かうのか。希望と絶望が交錯する島を訪れた。
文=シンシア・ゴーニー 写真=パオロ・ペレグリン
半世紀に及ぶフィデル・カストロの支配が終わり、弟のラウルが国家評議会議長に就任して4年。社会主義国のキューバでは、市民が住宅や車を買えるようになったほか、小さな事業を始められるようにもなった。医療費や教育費は無料。最低限の食料品は配給制度によって安く手に入る。
一方で問題なのが、「人民ペソ」と「兌換(だかん)ペソ」という2種類の通貨が流通していること。兌換ペソは外国人観光客が使うための通貨だが、実際には市民生活にも欠かせない存在となっている。公務員や国営企業の従業員は給与を人民ペソで受け取っているのに、化粧品や家具といった高価な商品を買う際には兌換ペソで支払わなければならない。人民ペソで給与をもらう医師より、観光客相手に兌換ペソを稼ぐタクシー運転手のほうが実質的には何倍も高い収入を得られるという、不条理な現実もある。
そんな祖国に見切りをつけて、海外に活路を見いだそうとする人々もいる。ある経済学者の推定では、世界各地の移住者たちがキューバへ送金する額は、合計で年間1000億円をゆうに超えるという。
希望と絶望が入り混じる新生キューバは、どこへ向かうのか。
編集者から
筆者のシンシア・ゴーニーは2011年9月号「少子化とメロドラマ」を執筆したジャーナリスト。今回は、ボートで国外脱出しようとしている35歳の男性をストーリーの中心に据えた、物語風のルポルタージュを届けてくれました。男性は無事、海を渡って米国にたどり着いたのでしょうか。ぜひ最後まで読んで、結末を確認してください。
写真家のパオロ・ペレグリンは写真家集団マグナム・フォトに所属し、世界報道写真コンテストで何度も入賞している実力派のフォトジャーナリストです。(編集T.F)
海を飛ぶコウテイペンギン
水中では飛ぶように自在に泳ぎ回るペンギン。高速で泳げる秘密は、その羽毛と“泡”にあるようだ。
文=グレン・ホッジス 写真=ポール・ニックレン
陸上ではもっぱら、ぎこちないよちよち歩きでおなじみのコウテイペンギン。だが、彼らの実力を見くびってはいけない。水中では驚くべきスピードで、飛ぶように自在に泳ぎ回っているのだ。とりわけ、氷の上に上がる直前の加速ぶりは目ざましい。海中から氷上めがけて高速で飛び出し、豪快にジャンプする。
最近の研究で、コウテイペンギンが高速で泳げる秘密が明らかになってきた。その驚きのメカニズムを紹介する。
編集者から
今月号の表紙を飾ったコウテイペンギン。海中から氷の上に飛び上がる時には、2メートル近くもジャンプするそうです。でも、飛べない鳥のペンギンが、どうやって空中を舞うことができるのでしょう。鍵を握るのは「泡」。人間の世界でも実用化が進んでいるその“ハイテク技術”にご注目ください。(編集M.N)
バイキングと北米先住民
カナダ北東部のバフィン島で見つかった謎の紐。それはバイキングと先住民の交流を示す手がかりだった。
文=ヘザー・プリングル 写真=デビッド・コベントリー
先住民の集落跡から見つかったわずかな手がかりから、カナダ人考古学者の壮大な謎解きの旅が始まった。中世ヨーロッパの海洋民族バイキングが、はるばる海を渡り、新大陸にたどり着いていたというのだ。
恐れ知らずのバイキングたちは、帆船に乗り、濃霧や氷山など危険がいっぱいの海を越えて来たという。10年以上にわたる地道な研究によって、彼らが残した痕跡や、新大陸の先住民との交流などが少しずつ解き明かされてきた。北米大陸に刻まれた知られざる歴史の1ページをひもとく。
編集者から
謎の紐をはじめとするバイキングの痕跡が次々と見つかったのは、カナダの北東、ハドソン湾に浮かぶバフィン島と周辺の地域。そのなかでも、今回本誌が取材したのは、バフィン島のタンフィールド渓谷にある建物跡での発掘調査です。出土品はどれも貴重なものですが、個人的に興味深かった発見は、「バイキングはコケをトイレットペーパー代わりに使っていた(!)」ことでした。(編集M.N)
砂の波 美しき造形
砂丘の美しさに魅せられた写真家がパラグライダーで空を飛び、世界各地の砂漠を上空からとらえた。
文・写真=ジョージ・スタインメッツ
眼下に広がる風景は、まるで巨大なクロワッサン工場のベルトコンベアー。自分はその上を飛ぶ、一匹のちっぽけな虫になったような気がする――。三日月形の砂丘が連なるサハラ砂漠で空撮に挑んだ体験を、写真家ジョージ・スタインメッツはこう述懐する。
刻々と姿を変える砂丘の形や向きを“読み”ながら、危険な風が吹く大砂丘の上空を飛び、シャッターを切る。砂が織りなす景観美に魅せられた写真家は、以後15年間、世界各地で砂漠を空から撮り続けてきた。アフリカや中東、アジア、南米などでとらえた砂漠の姿を紹介する。
編集者から
空飛ぶ写真家の「翼」となるのは、モーター付きのパラグライダー。機材が軽量で、ゆっくりと飛べるのが利点ですが、風を読み違えたり、カメラに気をとられて操作を誤ったりすれば、たちまち一巻の終わり。空を飛びながらの撮影は、文字通り命がけです。
なぜ、そんな危険を冒すのか? その答えは、写真を見れば一目瞭然。命をかけた空撮の成果を、ぜひご覧ください。(編集H.I)
・写真家スタインメッツの紹介と過去の担当特集一覧
・過去の特集「アラビア半島 伝説の大砂漠へ」の「サイト&サウンド」コーナーで、写真家スタインメッツの取材の模様などを紹介しています。
砂の波 美しき造形
砂丘の美しさに魅せられた写真家がパラグライダーで空を飛び、世界各地の砂漠を上空からとらえた。
文・写真=ジョージ・スタインメッツ
眼下に広がる風景は、まるで巨大なクロワッサン工場のベルトコンベアー。自分はその上を飛ぶ、一匹のちっぽけな虫になったような気がする――。三日月形の砂丘が連なるサハラ砂漠で空撮に挑んだ体験を、写真家ジョージ・スタインメッツはこう述懐する。
刻々と姿を変える砂丘の形や向きを“読み”ながら、危険な風が吹く大砂丘の上空を飛び、シャッターを切る。砂が織りなす景観美に魅せられた写真家は、以後15年間、世界各地で砂漠を空から撮り続けてきた。アフリカや中東、アジア、南米などでとらえた砂漠の姿を紹介する。
編集者から
空飛ぶ写真家の「翼」となるのは、モーター付きのパラグライダー。機材が軽量で、ゆっくりと飛べるのが利点ですが、風を読み違えたり、カメラに気をとられて操作を誤ったりすれば、たちまち一巻の終わり。空を飛びながらの撮影は、文字通り命がけです。
なぜ、そんな危険を冒すのか? その答えは、写真を見れば一目瞭然。命をかけた空撮の成果を、ぜひご覧ください。(編集H.I)
・写真家スタインメッツの紹介と過去の担当特集一覧
・過去の特集「アラビア半島 伝説の大砂漠へ」の「サイト&サウンド」コーナーで、写真家スタインメッツの取材の模様などを紹介しています。
追い詰められるチーター
陸上動物の中で最速として知られるチーターだが、生息域の縮小などを背景に、種の存続が危ぶまれている。
文=ロフ・スミス 写真=フランス・ランティング
陸上で最速の動物といわれるチーター。だが、観光産業の拡大、ライオンの脅威、牧畜業による生息地の縮小などの影響で、種としては存続の危機に直面している。アジアやアフリカでの実態をレポートするとともに、したたかに生きるチーターの多彩な能力を紹介する。
編集者から
記事の中で、チーターの雌について、「同時に出産する子の半数は父親が異なる」という説明が出てきます。人間を基準に考えてしまうと、「そんな筈はない。もしや、誤訳では?」と、目を疑ってしまいます。でも、そうじゃないんですよね。生命の不思議に思わず“感嘆”です。(編集H.O)
青春のアーカンソー・デルタ
1960年代、ボランティアとして青春を過ごした米国南部のデルタ地帯を、写真家が40年ぶりに再訪した。
文=チャールズ・ボウデン 写真・キャプション=ユージン・リチャーズ
ミシシッピ川の西に広がるデルタ地帯には、かつて黒人の小作農が多く暮らしていた。彼らは差別と貧困に苦しみながらも、活気ある社会を築いた。しかし、やがて農業の担い手が人間から機械に代わると、彼らの文化は姿を消す。
40年前、公民権運動の嵐が全米を吹き荒れるなか、このデルタ地帯でボランティアとして活動した写真家のユージン・リチャーズ。地元の白人から暴力を受けながらも、黒人たちの生活改善に努めた彼が、ほろ苦い思い出を抱えながら、この地を再び訪れた。
編集者から
日本の読者には少し遠い話かな、と心配をしながら、編集を進めました。1960年代の米国は、若者を中心に「変革の時代」にありました。実は、私は大学の卒論で、1960年代米国の若者による“異議申し立て”に関してまとめました。サイモン&ガーファンクルの曲をキーワードに、あの時代、米国の若者が何を求めていたのかを知りたかったからです。この特集を編集しながら、そのことを思い出しました。
ユージン・リチャーズという一人の白人青年が、南部の小さな町で体験したほろ苦い日々……彼のほかにも、夢と挫折を味わった若者は多くいたのでしょう。(編集S.O)