- Amazon.co.jp ・電子書籍 (384ページ)
感想・レビュー・書評
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三大奇書の一つだそうですが、読みやすかった。下巻に入ると展開が早くあっという間に読み終わった。
これは、アンチミステリというジャンルらしい。確かに謎解きを楽しむ、という小説じゃない。楽しむどころか、最後には罪悪感を押しつけられたような気持ちにもなる。
自分がミステリが好きなのは、それが非日常だから、現実には起こり得ないという前提があるから。現実の事件や事故は全く別次元で、もちろんこれを面白おかしく思ったり冷めた目で見るという事はありませんが。
もし、ミステリ小説にあるような、むしろそれ以上の惨劇が目の前で起こったら‥。どう感じるのでしょうか?故意か過失かという違いで殺人に他ならないような事故が現実に起きているから‥と言って殺人が許されるとはとても思えないけど。
とにかく取り止めもなくいろんな事を考えさせられる小説でした。読む人によって受け取り方が違う本ですね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
死の因縁が蔓延る氷沼家の悲劇と告発。
命を名付け
密室を企て
物語を描け
事件を紡げ
謎を紐解けるのは、人間だけ。
人間だから、付き纏う…
誠実な嘘と醜悪な真実を、無邪気のマドラーで掻き混ぜ固めた種。庭に蒔いた時、貴方好みの薔薇は咲いただろうか? -
去年は中井英夫没後 20 年ということで、小樽文学館が中井英夫展を開催していた。2014 年は物語が開始する昭和 29 年から 60 年目に当たると同時に塔晶夫の「虚無への供物」出版から 50 年でもある。それもあって光文社のミステリ文学資料館が中井英夫展を開催と、最近中井英夫関連のイベントが多くファンとしては嬉しい限り。
そこで電子書籍化された「虚無への供物」を読んでみたのだが、電子書籍らしさが全く見られない。新装版と書かれているが、講談社文庫の旧版との紙の本における違いは使用するフォントが変わり、文字の大きさが大きくなっているもの。その分ページ数が増えてしまった結果か、上下巻に分割されてしまっている。
電子書籍では文字の大きさはこちらで自由に選べるし、何より物理的な厚さの制約を受けないのだから、上下巻に分割する意味はまったくないはず。にもかかわらず、ご丁寧に紙の本に合わせて分割している。おかげで上巻を読み終えた時点で色々と操作して下巻を開かなくてはならない。2 章から 3 章へのつなぎは現実と非現実が反転するみごとな構成になっているのに台無しだ。
ちなみに、電子書籍版は出口裕弘氏による解説、中井英夫自身による年譜、本多正一氏による新装版へのあとがきが収録されていない。それらを期待する向きには注意。
というか上記のものが未収録なら新装版である意味は上下巻分割と表紙画像だけだ。編集者は何を考えているのだろうか。 -
幾重にも重る薔薇の花びらのように、語り重ねられる推理合戦。重層的に明らかになる真相、解釈、事件に次ぐ事件。すべての花びらがはがされたとき、そこに現れるものは。
人の死の重さを脇に置き、謎解きを楽しむ「推理小説」というジャンルへの、痛烈な批判ともとれる。本書そのものが、「推理小説」という「虚無」に捧げた供物なのかもしれない。
巻末に、これまで各社から刊行された本書の「あとがき」がまとめて掲載されている。版を重ねるたびに改稿し、ようやく著者が納得のいく本が出来上がったようだ。その経緯がよくわかり、興味深い。
表紙の写真は森山大道作品。圧倒的な存在感はさすが。上下巻を合わせて一輪となる装幀、デザインは鈴木成一。薔薇の遺影のようでかっこいい。 -
三大奇書と呼ばえる物を読んでみたくて、手にとってみました。
1960年代の作品だけあって、残り2作の「ドグラ・マグラ」「黒死館殺人事件」よりは大分読みやすかったです。
国内外の探偵小説に通じた、自称探偵達が
「実はこうだったんだよ!(そうじゃなかった)」
「おお…なんてことだ!(小説内小説でした)」
的などんでん返しがてんこ盛りで、普通に楽しむことが出来ました。
しかし橙二郎おじさんかわいそうです
まさに虚無への供物 -
東西ミステリーベスト国内2位▲アパートの一室での毒殺、黄色の部屋の密室トリック。誕生石の色、五色の不動尊、薔薇、多彩な仕掛け▼これが『アンチ・ミステリ』ムーブメントの出発点かと感心しきり。とにかく、過剰で、衒学的、メタ構造で、禁じ手も解放、オマージュ溢れ、見立て、入れ子で、大迷宮に陥った如く。ミステリーを包含するファンタジーなのかと満足感モリモリ。未来の犯罪を予想して始まった『氷沼家殺人事件』は、多すぎる迷探偵による遡及推理により『ワンダランド』へと至る。なるほど奇書とされる所以を理解/納得(1964年)
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意味のない死、悲劇らしくない悲劇に覆われる現実に対して推理小説ができることはあるのか?
事件に対して暗合や符号を執拗に求め、悲劇を完成させようとする探偵役たち。
無為の死が溢れることを許せず、非合理的な因縁を肯定してまで死に意味を持たせようとする狂人である犯人。
それは人間世界を上から覆い被さるようにして監視し、ときには鞭を振るってくる何かに対しての反抗心なのだ。 -
なかなか読み応えのある本だった。いい意味でも悪い意味でも。 ミステリーとしてのストーリー展開はさほど高評価を与えられるものではないが、表現がかなり高度で、話題もバラの品種や不動、シャンソンなどの専門的な話で非常に難しく感じる。日本語力をアップしたい人は読んでみるのもいいと思う。書き上げるにはかなりのリサーチが必要だったと想像に難くない。そこは評価したいと思う。