しろいろの街の、その骨の体温の [Kindle]

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  • 朝日新聞出版
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感想・レビュー・書評

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  • 女子3人仲良しグループの末路など、何度も大きくため息をついてしまうほどリアルな学校生活の描写。数年前の嫌な思い出が蘇る。
    移り変わる標的、先生に見つかってもいじめだとカウントされないいじめ、わざと優しく接するいじめ、スクールカーストの苦しさ醜さ。美化された学校生活の中にあった数々の忘れかけている日常が詰まっている。
    教師が登場しないのもまたリアル。誰も守ってくれやしない。

  • 第二次性徴と共に加速する体の成長に置いていかれそうになる心のずっと奥のものをうまく表現出来ず藻掻く主人公の物語。
    久々に読書で泣いた。


    ニュータウン計画の名のもとに日々工事が絶えず発展していく街が嫌い、みんながわくわくしているものを心の中で貶すことが主人公にとって自分は特別な存在なんだと心の平穏を保つお守りになっていた。

    主人公は常に「観察者」として周りをどこか達観しており、そうすることで現実世界で同級生達に劣等な扱いを受ける自分の自尊心を保っていた。
    作中の言葉を借りると、精神的オナニーと称されるその行為を周りの人間を蔑むことで満たしているスクールカースト上位の同級生たちはきっとこれからもそういう生き方しかできない。
    とある同級生をきっかけに、誰に何を思われようと心のままに行動する主人公の姿は自由で美しく孤独で胸が締め付けられた。
    無意識下で人と自分を比較して安堵したり萎縮するより、自分の好きな自分でいることで自分の輪郭は作られるんだともっと早く気付きたかったな。


    もうひとつ。
    主人公の自尊心を満たす存在が伊吹くんだ。
    学校でスクールカースト上位の伊吹くんと習字教室がきっかけで仲良くなる主人公は、出来心で伊吹くんを自分のおもちゃのように扱うようになる。
    半ば強制的に行われる性加害をも思わせるその行為は年々エスカレートしていき主人公の中で歯止めが効かなくなっていた。

    ただ好きな気持ちを自分の所有物としてでしか現せない主人公の不器用さと伊吹くんの情けのない優しさが混ざる2人のシーンの空気感が好きだった。

    性知識もままならない頃主人公によってトラウマ紛いの行為を繰り返される伊吹くんが純粋に育ってくれてほんとに良かった。伊吹くんはこの物語の光です。

    物語における白(変わる街並み、成長する骨など)と黒(伊吹くんと帰る夜道、墨汁など)の立ち位置にも惹き込まれた。


    以下ひとりごと。
    個人的にこの物語はラブストーリーだとは思ってないんだけど思春期の初恋として良い思い出で終わりそう…って考え出したら病んだ。
    そうなってもきっと一生お互いのことは忘れないんだろうな。

  • すごいな。感動した。

  • 「コンビニ人間」と同じ作者。工事も転校生も多い振興住宅地暮らす谷沢結佳が主人公。小学校4年生前半、後半は中学2年生が描かれる。思春期であり、第2次性徴期の始まりでもある。

    前半は、結佳は3人グループ、大人っぽくて可愛くて人気ものの若菜ちゃんと、ぽっちゃりで子どもっぽい信子ちゃんと。胸が膨らみ初潮もそろそろで思春期の入り口だが、学校生活は、若葉ちゃんに憧れ信子ちゃんをバカにするような視線はあるが、まだまだ穏やか。信子ちゃんが若菜ちゃんを好きな女子とケンカをするぐらい。こんなのは、2年生の女子でもあるあるだなと思いながら読んだ。しかし、お習字教室の伊吹との関係は、エグい。同級生で子供っぽく小柄な伊吹に結佳が脅して舌を出させ舐めたりする。伊吹をおもちゃだと思っている。

    後半の中学校編は、若葉ちゃんは一番上のイケてるグループに入っているけど、ムリをしている。結佳は、下から2番目のグループだけど、自分の事を醜いと思っている。信子ちゃんは、一番下のグループ。
    伊吹は一番上のイケてる男子だが、自覚がない。男子の女子の値踏み、グループ間でのマウント、自己評価、カーストと、大人の社会でも見受けられる事だけど、そこは、中学生なので、自意識過剰でヒリヒリする。

    大人の世界でも、お金持ちとか社会的地位とか美醜とかで、評価する人はいる。でも、不思議だとずっと私が思ってきたのだが、優秀でもないのに美人でもないのに輝いている人がいる。そういう人たちは、自分に満足している。自身も含めて人を評価する人ほど、自信がないのだ。だから、人を評価してはならない。自分を認めなくてはならない。

    巻末の解説で、西加奈子は、「これは教室の話だけではない。もちろん、まさに中学生に読んで欲しい物語ではあるが、絶対に彼女たちだけのものではない。」と書いている。その通りだと思うが、中学校の図書館に置くのはためらわれる。

  • 響きそうな人:閉塞感をかかえる中学生、昔の危うい感じを思い出したい大人
    第26回三島由紀夫賞、第一回フラウ文芸大賞受賞作の文庫化。
    ああ、三島由紀夫っぽいかもと思った。
    文体とかではなく、新興住宅地での小学校や中学校の一クラスの人間関係中で、閉塞感とモヤモヤを抱えて過ごす女子生徒。クラス内のカースト、グループの中で所属する位置を探す感覚。不安で泣きたくなるような気持ち。わかる。
    ナルシズムと早熟な性癖がまざりあい、不安定ながらもぐいぐい読ませるのはさすが。
    物語の中で大きなイベントがあるわけではないのだが、その小さな社会の中に入り込んだような感覚になる。夢にでてきそうな読後感。

  • 村田紗耶香さんの三冊目
    初めて、設定はごく普通の思春期の女の子の世界

    まだ無邪気さが残る小学校時代から
    スクールカーストでがちがちに縛られた中学生へと
    女の子たちが変わっていく姿を
    中の下の「おとなしい=無害」とランク付けされた
    結佳ちゃんが冷ややかに見つめてるという状況

    ただ、ちょっと普通でないのは
    同じ書道教室に通う伊吹という男の子と結佳の関係

    まだ幼くて体も小さい伊吹を、
    小学生の結佳はおもちゃとして扱うのだけれど
    中学生になった伊吹は上のクラスの男子になっていた。
    クラスカーストに無自覚だけれど上のカーストの伊吹と
    下のカーストの結佳は普通には付き合えない。
    それで、必死で無関係な振りをしつつ
    陰では陰湿に伊吹をおもちゃにしている結佳。

    いくら何でも、そこまではしないだろう・・
    そんな状況描写もあって、息苦しくなった。

    最終的には、「自分の声」を取り戻す結佳なのだけど、
    その結末は喜ばしいものなのだけれど、
    そこに導く後半の展開には、かなり無理がある気がした
    ただ、それくらい無理をしないと
    クラスカーストの弊害は崩せない、ということも
    明らかになったのかもしれない。

  • 西加奈子さんがエッセイで紹介していた一冊。(解説も西さんだった)

    小学校高学年から中学生にかけての、女子特有の学校生活の息苦しさについて、これでもか!と描かれた作品。

    解説にもあるように、目を背けたくなるような描写もかなり多く、読むのきつい、⭐︎2つにしたろ…と思いながら読んでいたけれど、しつこく、ブレずにひとりの女子生徒を真摯に描き続ける様に、途中から圧倒されてしまった。

    自分自身、先の見えないトンネルの中にいるような、真っ暗な中学時代を送っていたので、共感するところが多くあった。苦しかった。
    本作には明確すぎるカースト制度について書かれていたが、それよりも自分のグループから外れないように、とか、学校では自分に完全に蓋をして、でも心の中でクラスメイトを見下して自分を保とうとするところとか、ちょっと痛いくらいに鮮明に描かれていて、あぁつらいな、と思いながら読んだ。(周りの教員はなにしとんねん、とは思った)

    ありがちな話ではあるんだけれど、徹底的に、ここまで丹念にしつこく書き続けるのは、ちょっとなかなか出会えないかもな、と感じた。
    言葉でうまく説明できないのが、もどかしい。

    誰にも自分を出せないで日常を過ごす主人公が、同じ書道教室に通う伊吹にだけ見せる狂気も、なんだかわかるような気がしてしまった。

  • スクールカーストの表現も、クラスっていう小さい社会も全部リアルすぎた…。女の子の世界は、形のあるモノも言動も付き合う友達も全部鎧みたいなものなんだよね。。なんとなく私は伊吹のまっすぐなところは、平野紫耀くんがチラついていた。笑 この本にはすごくいいタイミングで気がするのでもう1回読みたい1冊!

  • 周囲・世間の価値観にとらわれず、自分の中にある気持ちや感情を素直に受け入れて、自分を認めていこうと思った。
    伊吹がとにかくいい人だった。

  • コンビニ人間の作者の作。廃れた都市の開発に主人公の成長(骨の比喩)を絡めて捉えている。白(狂気?)と黒の比喩もあったような。学生時代のカースト、歪んだ性癖、思春期(特有)の達観した目線。自分は変なしがらみがない方だったが、まわりにはこんなのあったなとなんとなく思い出した。高校時代の先輩の嫌な言葉を思い出したが、今ごろなにしてんだろ。伊吹が純粋すぎてイライラしたが、最後らへんよむといろいろ受け入れた上での振る舞いなんだろうなと想像できた。都市の開発が進むかと希望が持てるような終わりでよかった。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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