昭和元禄落語心中 コミックセット (KCx ITAN) [マーケットプレイスセット]

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著者 : 雲田はるこ
  • 講談社 (2011年7月7日発売)
  • Amazon.co.jp ・マンガ

昭和元禄落語心中 コミックセット (KCx ITAN) [マーケットプレイスセット]の感想・レビュー・書評

  • 「昭和元禄落語心中」雲田はるこ。2010-2016連載。講談社。

    もともと落語は大好きなので。楽しめました。
    それに、落語モノである以前に、多世代に渡る人間ドラマとしてよくできていました。

    全て、落語家の名跡、寄席の名称は架空です。その代り落語の噺は全部ありもの、ホンモノです。



    色んな言い方が出来ますが、一つとしては「有楽亭八雲」という落語の大名跡(架空)を継いでいくものたちの物語です。
    (ただ、現実の落語界には、もうそういうドラマが産まれるほどの「大名跡」は存在しません。林家正蔵、などは確かに大名跡ですが、その権威で客が付くという事象は、情報量が多くなったインターネット時代には、もう無さそうですね。ユーザーが賢くなった、とも言えます。
    ※ただ、これは落語がとどのつまり究極の個人プレーだからですね。しかも「笑わせられるか、共感させられるか」という、実に解説解釈不要の庶民芸。集団プレーで資本金がかかる歌舞伎などは、全く違う事情や政治力や既得権益の相続状態があると思います。アレはほとんど代議士の世界と同じ(笑)…?)

    #

    閑話休題。あらすじ。

    戦前。「有楽亭八雲」に弟子入りした少年ふたり。菊比古と初太郎。
    菊比古は端正な芸で、八雲の名を継ぐ名人に。
    もうひとりの初太郎は「助六」の名で破天荒な口座・芸風で一世を風靡。親友ふたりで戦後の落語界をリードするか、という勢いでしたが、破天荒な初太郎は昭和30年代に師匠に破門され、廃業。落魄。かつて親友の初比古の恋人だった、芸者のみよ吉と田舎に流れて行きます。一人娘をもうけましたが、やがて、みよ吉と心中のような最期を遂げます。
    そのふたりの心中、死に際に居たのは菊比古でした。どうやってふたりは死んだのか?菊比古が殺したのか?当事者たちしか知らない落語という芸への熱い思いと、「心中死」の秘密。
    そして助六の遺児。一人娘の小夏は、菊比古に育てられることに。
    しかし小夏は「両親を殺したのは菊比古だ」と信じ込んでいた...。

    長い歳月を経て。
    孤独な名人になった菊比古。その菊比古のもとに、かつての親友・初太郎をどことなく彷彿とさせる若者・与太郎が弟子入りしてくる。
    天衣無縫で無邪気な与太郎が、長い歳月で冷えついた菊比古と小夏の間を溶かし、そして両親の心中の秘密の全てが明かされる日がやってくる...。
    そして、老いた菊比古から、大人になった与太郎へ。八雲の名と落語界の命運が託されて行く...。



    と、言うような物語です。

    全体に感心するくらい、割と「王道」の語り口。ギャグやくすぐりで誤魔化すのではなく、ストレートな人間ドラマ。ミステリーに満ちた友情と恋愛の物語。そして、実は大いなる河の流れのような、家族と親子の愛しさと、己の居場所を探す自我、我欲、といったヒトの業の葛藤の叙情詩です。また、レノン&マッカートニー、近藤勇&土方歳三、の、如き濃密なバディ・テール、オトコの友情のしがらみの長恨歌として味わうも極上。

    そして、語り口の巧妙さ。
    時制の構成が凝っています。
    物語の始まりは、初太郎とみよ吉の心中死の15年後から。菊比古が50代くらい、天衣無縫な与太郎が登場し、弟子入りする場面から。恐らく、1980年代か。
    しばらくして、「菊比古の昔話」という形で、「菊比古・初太郎の青春の物語」が語られます。
    これが上手い。読者の側は、やがては初太郎という人は非業の死を遂げる、と予め判って楽しむわけです。
    「どうなるのか」ではなくて「なぜそうなるのか、どういう風になるのか」。
    物語の運びが力まず柔らかく面白く、こなれてなくては読者を掴めないやりかたです。高度。それを見事こなしています。時の流れ、という感動要素、言ってみれば食材に、省略という包丁を自由自在に振るった腕前は、ベテランの板前仕事。
    長い長い歳月の物語なのですが、社会的な、時代的なディティールにまったく流されていません。
    「その中の、ある一夜、ある男女」「その中の、ある1日、ある家族」という人間ドラマの細部をとにかく濃度を上げて素敵に描く。そして歳月はまた省略されて。時間は掌を砂のように過ぎて、取り返しはつかない。でも、痛みや誤解や憎しみや寂しさですら、行き過ぎて深く奥で癒えていく。結局は、家族の人間関係、夫婦と親子の歳月。そこがこの漫画の魅力です。
    なかなか秀逸な語り部の仕事だなあ、と思いました。



    むしろ落語ファンとしては、「落語」という現象を巡る歴史的事実とか状況を、若干物語のために誇張している部分が感じられて。
    そういうトコロの方がちょっと気になったくらい。
    ただ、明治から昭和にかけての、実際の落語界のエピソードや人物伝を、エッセンスだけ抽出して換骨奪胎して、マンガの中にごった煮にぶち込んで料理されています。
    その手腕と落語および寄席への愛情みたいなものは、落語ファンほど胸打たれて涙ぐんでしまうんではないでしょうか。
    ぼくはケッコウじーんと来てしまいました。愉しく最後まで熱く読めました。

    以前から本屋さんでは見かけていて、「落語?」と気にはなっていました。
    ただ、なんだか「ボーイズラブみたいな話なのか?」と偏見もって避けちゃっていて。
    ボーイズラブみたいな雰囲気だけあって、そういうことでも一部の若い人を引き付ける力もある、というだけのことでした。
    そう、声を大にして言わねばならぬのは(いやそんなに力むことも無いのですが)、恐らく最高の魅力は、落語を全く知らなくても楽しめて、そして落語をちょっと触ってみたくなる。そんな商業漫画ならではの敷居の低さと奥行きの深さ。落語なんて聞いたことの無い人に、気軽に漫画喫茶でもTSUTAYAコミックレンタルでも、手にとって頂きたい。講談社の宣伝をするこたァ無いんですが。

    #

    個人的にはやっぱり、「老いた八雲の僻んだ孤高さ」と「落語から離れるけれどやっぱり戻ってくる関西の名人の坊ちゃん」が好みでした。
    人によってどの辺が好みだったか、おしゃべりしてみたい名作漫画、でした。

  • 一気に大人買い、大人読み。
    大人になってよかったー。

    素材は落語。
    よくできた芸能だなぁとつくづく感心する一つ。
    話術だけでよくもあそこまで世界を表現できるなぁ。
    でも、だんだんこの世界を想像することが
    できなくなる時代に移っていく。
    それでも、いいもの、面白いものはなくならない。
    優しい人がたくさん出る漫画だなと思いました。
    最後のもやもやもそれで浄化できます。

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