導入から最後まで完成された映画だと思う。
本作のテーマは共産主義の夢と現実……といっても自分は(一応は)資本主義国家の生活しか知らず、共産主義については否定的というよりも「資本主義から見た共産主義」しか知識にないので、実際の共産主義国家内の雰囲気などは全く分からない、というよりも「知らない」と言ったほうが良い状態ですが、それを踏まえた上での感想です。
主人公は、東ドイツが倒れる前に意識不明になり、ベルリンの壁崩壊後に目を覚まし共産主義の崩壊を知らない母親のために、仲間や恋人、アパートの住民らと共に東ドイツがまだ続いているという芝居を演じるというのが本作のあらすじ。
しかし冒頭にも書いたように、本作のテーマは、共産主義の夢と現実だ。物語の導入部分で、主人公は自分の小さい頃の思い出を振り返る。宇宙飛行士になりたかったという幼少期の夢、父が西側にいったことで母が一時期病院に入ったこと、母が党の活動に精を出し始めたこと……そこまで思い出してから、主人公の現在の状況が描かれる。しがない修理工として働き、宇宙飛行士にはなれなかった自分。──より詳しいあらすじは他の方が書いているので、割愛するとして、(これもまた他の方が書かれているとは思うが)主人公は、母のために旧西ドイツ出身のビデオ制作マニアの同僚と共に「夢を壊さないための」ウソのニュース番組を作ったりもするのだが、もう騙しきれない…と最後に、自身の憧れであった元宇宙飛行士をキャストに迎えて「特番」を制作する。その「特番」の内容は、「共産主義の夢を壊さない、理想の国家が誕生する」──つまり、東西統一されたドイツ国家とつじつまを合わせるために「新しい国が出来た」というニュースを彼らは作ったのだが、その内容はまさしく主人公が子供の頃に夢に見た、「理想」そのもので、主人公はそのウソを作ることで母親(実はニュースを見る直前に真実を知ってしまっている)に夢を見せると同時に、今の自分にも夢を見せたのである。主人公は母親の命の危機ということもあっただろうが、共産主義国家を存続させることは、現在の自身にとっても、「夢を諦める」ために必要なプロセスだったのだろう。
夢をかなえられないまま大人になった、という人間は多いだろう。自分もその一人だ。この主人公がしたことは「無駄骨」だったと評価する人は恐らくいるだろう。しかし、彼は母親と自分に夢を見せ、母親が死んだ後に葬式で灰を自分の作ったロケットに乗せて撒いた時に初めて、今の自分と過去の自分を上手く融合し、折り合いをつけることが出来たのではないかと思う。
だから、自分はこの映画は主人公が大人になっていく過程が上手く描かれている良い映画だと思う。