- Amazon.co.jp ・電子書籍 (205ページ)
感想・レビュー・書評
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目黒駅から西に向かうメインストリートは今でこそ権之助坂だが江戸時代は目黒不動へ向かう行人坂だった。坂の上からは富士山と今で言うダイヤモンド富士の様に沈む夕陽がよく見えたそうだ。坂の上は徳川譜代の内藤家、下は賤ヶ岳七本槍の子孫の片桐家だったが後に肥前細川家の屋敷のひとつとなり明治初頭まで細川家が所有する。その跡地に建ったのが目黒雅叙園とアルコタワーなのだがこの場所に起こった事件を追ったのがこの本だ。
全力坂に出そうな急坂を避けようとお上に無断で権之助坂を作った菅沼が死罪となり名前だけが残った。次に起こった事件は雅叙園に残されたお七の井戸の物語。西運こと吉三郎が出家後に流れ着きお七の菩提を弔ったというのがこの井戸の由来だが平成の時代にハゲタカ・ファンドのローンスターが地元コミュニティーに無断でこの井戸を取り壊した事がローンスターのツマヅキのきっかけになった。
明和の大火はこの地にある大円寺の放火が原因で、火の手は六本木から神田、上野そして千住大橋までを焼け野原にした。他にもこの地に関わる人物ではホテルニュージャパンの横井英樹がいたり、目黒雅叙園の名を借りた別会社雅叙園観光が合併してできた日本ドリーム観光が千日デパートを持っていたりと大きな火事がついてまわる。しかしそれを魔物と呼ぶのはこじつけが過ぎるだろう。
明治政府は大名屋敷を差し押さえ官舎に転用したのだが、ついで役人に払い下げる方針が出ると破格の価格だったため転売したり、どさくさ紛れに自分のものにしたりといろんなことが起きている。細川屋敷を引き継いだのは川嵜祐名、西郷隆盛の部下だったが西南戦争では政府軍に従った貴族院議員で払い下げを受けたものとみられる。喜谷実母散の市郎右衛門、大倉喜八郎、東京市会議長中沢彦吉、朝日新聞創業者の木村騰、そして日本郵政専務の岩永省一が引き継ぐ。息子の裕吉はロイターに負けない通信社を作ろうと同盟通信社に私財をつっこむ。時事通信も共同通信もここから出ているのだが切り売りを続けた岩永邸を買い続けたのが目黒雅叙園の創始者細川力蔵だ。
戦前の目黒雅叙園の隆盛と戦後の没落そしてお約束のお家騒動に群がる怪しげな人々。雅叙園観光からはコスモポリタン事件とイトマン・住銀事件に繋がり、拡張政策を続け昭和63年から3年半をかけてアルコタワーを完成させた91年にはバブルが崩壊、創業家が持つ土地は入り口付近だけになっていた。ここから先は損失を先送りしようとロールオーバーを繰り返し、ついに債権放棄に追い込まれる銀行と買い叩くハゲタカと言う最近のドラマが待ち受ける。合資会社が株式会社に吸収されたのに当時の役員の無限責任だけが生きていたり、ローンスターが再開発計画の資金調達の為に創業家との共有地を無断で担保に入れ新生銀行もノーチェックで貸付を決めるともうドロドロだ。みずほ銀行が題名に出てくるのはイトマン事件で損失を出した同じ物件にまた、ろくに調査もせずまた金をだすからなのだが、リーマンショック後にも借換債を引き受け続けている。これが2012年まで続いている。
ちょっと勧善懲悪な価値観とこじつけが気になるがよく調べられている。行人坂の歴史、細川力蔵と目黒雅叙園の隆盛、細川家の内紛とハゲタカと銀行と言う3つの物語を無理やりまとめたっぽい感じがするのは前置きに力を入れすぎたからか。