縮みゆく男 (扶桑社BOOKSミステリー) [Kindle]

  • 扶桑社
3.52
  • (4)
  • (10)
  • (9)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 72
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (424ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • スコット・ケアリーは、毎日7分の1インチ(約3.6ミリ)ずつ縮んでいた。既に害虫よりも小さくなり、自宅地下室で先の見えない日々を送っている。自らの試算では、あと6日で〝消滅〟する。半ば諦めの境地にいながらも、本能は生き続けようともがいた。目下の最大の敵は、執拗に狙ってくる邪悪な蜘蛛だった。逃げてばかりでは、いつか餌食となる。ようやく男は対決する覚悟を決めた。その前に飢えをしのがねばならないが、食料のある場所は、そびえ立つ魔の山のような頂にあった。スコットは己の大きさほどもあるピンや糸を使い、はるかな上を目指して一歩を踏み出す。

    タイトル通り、身体が縮んでいく男を描いた1956年発表作。ジャンルとしてはSFだが、〝異世界〟を舞台にサバイバルを繰り広げる冒険小説としても読める。
    ストーリーは、異変後の回想を交えつつ進む。スコットは退役軍人で、たいした仕事に就けず不安定な毎日を送っていた。家族は妻と幼い娘。訳も分からず縮んでいく夫を妻は気丈にも支えようとするが、かえって男の自尊心を傷付け、夫婦関係は悪化していく。愛する娘は、自分より小さくなった男を父親として認識しなくなった。働くことさえままならず、遂には惨めな有り様をメディアに売るまでに落ちぶれる。治る見込みのない治療費を払うために研究対象となり、果ては異形の者として見世物へ。最後の拠り所であったプライドさえ失い、追い込まれていく男の喪失と絶望。物語には終始暗いムードが漂う。

    海上で放射能を含む霧を浴びたことを〝変態〟の原因としているが、科学的根拠は示してはいない。特異なのは、確実に同じ数値で縮む異常性にある。その長く苦しい過程を体験せねばならない男と、次第に変化していく周りの環境との対比を事細かに描写することで、恐怖心を煽る。身体は縮むが、性的欲求だけは逆に高まるという皮肉な過程も、妙なリアリティを生み出している。
    〝新世界〟を前にして希望を語る前向きなラストシーンは印象に残った。

    扶桑社文庫版には、ホラー/スリラー作家のデイヴィッド・マレルの解説を収録。文学者カミュの思索的随筆「シーシュポスの神話」と対照し、本作のテーマに迫っている。理不尽な状況は主人公に存在とは何か、生きるとは何か、を問い直す機会を与える。やがては、不条理と対峙して己の実存を見出し、光明を掴み取る。その流れを繊細かつ鮮やかに解き明かしており、マシスンへのリスペクトが伝わる考察で興味深い。マレルは、自作では短い文章を繋げていくシャープな作風が特徴だが、〝批評家〟としては整った文体を用い、理路整然と多角的に読み解いている。
    日常の中の非日常。突如放り込まれた闇の中で苦悩/苦闘する男の生き方に、実存主義的な深淵を感じることも可能だろうが、マレルの受け止め方はやや高尚過ぎるようにも感じた。マシスンはあくまでも娯楽小説にこだわり、SF/ホラーの範疇で完成度を高めた、とうのが私の読後感だ。

  • 縮みゆく男

    1日に7分の1インチずつ身体が縮んでしまうという奇病に侵された男の悲劇を描くファンタシー小説。
    ひとことで言えば、物凄い小説。

    小説は、1インチまで縮んでしまった男の1週間が中心。
    「蜘蛛は細長い脚で狂ったように砂をかき 、男を目がけて 、薄暗い砂地を突進してきた 。風のない砂山を疾走すると 、脂光りする巨大な卵のような腹部が 、どす黒い怒りをみなぎらせて小刻みに揺れた」という、状況の見えにくい冒頭の文章からはまってしまった。
    男の最初の身長は180センチ。男の身体は、毎日、正確に3.6ミリずつ縮んでゆく。小説は、現在2.5センチの身長の男が縮んでゆくにしたがって起きた事件を回想する形で進んでゆく。
    荒唐無稽の小説だが、リアリティーが凄い。3.6ミリずつ縮んでゆく人間が見る風景、家族や周囲の人々の反応、そして縮んでゆくにしたがって、男が失うものが、圧倒的な現実感を持って描かれる。
    小説の設定は1950年代のアメリカ。男は退役軍人。妻と娘の3人家族で、暮らしは決して楽ではない。縮んでゆくにしたがって、男は怒りっぽくなり、優しい妻に当たる。ファンタシー小説とは無縁の悲惨なホームドラマが展開される。

    巨大蜘蛛との死闘、そして、身長がゼロになったら、男はどうなるのか?読み始めたらやめられないエンターテインメント。老化との類似性、環境保護を意識しながらの読み方もあるが、素直に展開を楽しみたい。ぜひぜひ、お読みくださいの星5つ。

  • おっと!
    これ、読んだ本だった!

    ……あれ、いつだったろう?
    町山智宏さんがラジオで紹介していた後、図書館にあったので、借りてすぐに読んだんだよなー

    しかし書籍の扱いはもうないようなので、ここに登録しておく

  • 個人的には、物語としては平凡で面白みをあまり感じられなかった。SFの古典的な位置づけなようなので、おそらく色んなところで似たようなストーリーを知っちゃっているからなんだろう

  • 主人公の心理的描写が繊細。ちょっとくどいと感じるシーンもあるが人生について体が縮んでいくことを通して考えさせられるものがあった。

  • この時代に書かれたということが驚きです。

    未知の物質に対する得体の知らない不安があれば、よりリアリティの無さが想像できず、より興味深い作品に見えたのでしょう。

    世界は見える事のできる範囲のことを指すのであり、次元とは感じられることのできる限度なだけであって、普段想像に及ばないだけで、実はその外もあったのでした。

  • 「縮みゆく男」(リチャード・マシスン:ホンマ ユウ 訳)[Kindle版]を読んだ。これはまたずいぶん昔の作品なんだな。リチャード・マシスンさんって結構有名だったんですね。初めて読みました。この作品は、飛び抜けて面白いという訳ではないけれど最後まで惹きつけるものはあります。

  • リチャード・マシスンの代表作の一つ、身体がどんどんと小さくなる奇病におかされた男の物語。

    山岳小説を思わせる地下室での暮らしや、蜘蛛を相手にしたアクション・シーンと言うといかにも B級 SF 小説だが、多くの識者が指摘する通り、この小説の中に描かれる物理的な「縮み」は、人間誰もが経験する体力や知力の衰えを暗喩しているに過ぎない。「縮む」ことによって変化する妻や娘との関係、性的な欲求、生きることへの渇望などは、あとがきのデイヴィッド・マレルが解説する通り、サルトルの「嘔吐」とテーマを一にしている。

    今では割と普通な、時系列でない物語の運びも、当時としては珍しいものだったらしく、さすがはマシスンという言いたいところだが、エンターテイメントとしては中弛んだ感じが強かったので星 3つ。

  • 読んでいて殆ど面白くなかった。まあ、実際に自分の身に主人公のようなことが起きたら、こんなことになるだろうなあ、というリアリティはあるのだが、それが面白いはどうかは別の話だ。解説は大絶賛だし、読者の評価が結構高いのは何故だか理解できない。

  • 40代も半ばを過ぎ、『縮みゆく自分』を感じる。主人公の焦りや絶望に共感し、そして、希望に勇気をもらった。

全11件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

Richard Matheson

「2006年 『不思議の森のアリス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

リチャード・マシスンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×