ユニクロ帝国の光と影 [Kindle]

著者 :
  • 文藝春秋
3.47
  • (2)
  • (6)
  • (8)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 74
感想 : 7
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (15ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ユニクロが柳井の私物でブラック企業だと解説する本。これが書かれたのは2010年の頃なので、もう10年前の話になるが、今でも変わっていなさそうに思えるのは気のせいか。

    やはりアレだけの企業を作る人はサイコパスなのか、そう思わざるを得ない。どこかAmazonに通じるものがあって、ユニクロは消費者第一に思える。これだけならば悪くないことだけれども、それを達成するために社員や受託工場の人々が搾取されている。主に低賃金と長時間労働の組み合わせで。なのでユニクロの徹底さは見習うべきところがある一方で、長期的に見たら社会にダメージを与える存在だと言えるだろう。ただ不思議なのは、これだけ悪評が広まっているのにも関わらず、今でも人が集まること。なんでユニクロに入るのだろうか。

    ちなみに当時の柳井は以下のように言っていたらしい。
    「われわれは二〇二〇年に売上高で五兆円、経常利益で一兆円の企業にしたいという夢を持っています。現在(の売上高が)約七〇〇〇億円弱ですから、(夢を実現するには)毎年二〇パーセントずつ成長していく必要があります」
    ちょうど現在は2020年なので、売上高を調べてみた。
    https://www.fastretailing.com/jp/ir/financial/summary.html
    2019/9〜2020/8の売上収益の通期予想は1.99兆円。残念ながら半分にもならなかったようだ。コロナが無かったとしても目標を達成することは無かっただろう。もっとも、7千億円からここまで成長しているのだから大したものだが。

  • ふむ

  • 世界的なアパレル企業「ユニクロ」と、ユニクロを一代で成長させた経営者・柳井正氏の実像を追ったルポルタージュ。

    綿密な取材と雑誌などのインタビュー記事の分析から、山口県宇部市の洋服店からグローバル企業へと成長していく「光」の側面と、過剰な長時間労働やサービス残業、マニュアルに縛られる社員などの「影」の側面が描かれています。
    また、ユニクロの比較対象として、グローバルなアパレル企業「ZARA」も紹介されています。

    本書を読んで感じるのは、柳井正氏の経営に対する並々ならぬ執着と厳しさ、過酷というべき労働環境に疲弊している現場の姿です。

  • 柳井氏のことと、彼が作り出したユニクロのシステムについて、丁寧な取材をもとに書かれている。まず感じるのは柳井氏の抜群の経営センス。これは否定できない。一方で、ここのところ話題になっているAIにより人の仕事が奪われるということにも近い、現場がものを考える余地がなくなる、その結果、追い詰められるということなのかとも思われた。これは会社ごとのシステムには期待できないので、行政がカバーしなければいけない領域だ。

  • 柳井氏の完璧主義故に生まれるオーナー企業にありがちな朝令暮改、独善的な判断、これらのことが、証言をもとに描かれている。とてもリアリティがあり貪るように読み進めてしまった。
    そして、このような柳井氏向けのSPAモデルについて、競合のZARAと比較して分かりやすく解説している。従来SPAとは、ユーザーのニーズを最速で作る新興のアパレルメーカーで、GAP、H&M、ZARA、UNIQLOは出自の国の違いで、ビジネスモデルは全て同じだろうと考えていた。この本の中では、UNIQLOとZARAを比較して分かりやすく解説されている。ZARAのビジネスモデルは、ユーザのニーズを掴んですぐに少量で自社工場で作る。それ故に、本社には優秀なデザイナを揃え、3分の1の企画の精度で作ってしまう。そして、売り場においては全ての商品を値下げなく売り切るモデル。少量多品種故に、消費者はこれを逃すと買えなくなるかもという心理が働き、買ってしまう。一方、UNIQLOはZARAの逆で、多量少品種生産。製品の生産においては、コスト圧縮が肝となり、工場は中国。そして、原材料の糸から購買し、商品の売れ行きに応じて、色を変えたりなどの工夫をする。とはいえ、生産時のコスト圧縮もある程度の限界があるため、結果店舗販売側にもしわ寄せが来て、人件費の圧縮、週末ごとの安売り、そのような悪循環のスパイラルに落ちいてしまうことが多々ある。UNIQLOのSPAモデルはまさに柳井氏オリジナルで彼の性格にあったモデルなのだろう。大企業になっても自分の会社の隅から隅まで知りたいといった考え故にこのようなモデルに邁進してしまい、周囲を困らせてしまっているのだということがわかった。
    今回の本を読んで、普段何気なく来ている洋服や食品、すべてグローバルで繋がった世界でのヒエラルキーを持ちこんでコストカットをしていることがよく分かった。これからはどのような購買が良い購買なのかそこまで広げて考えることができるよい読んであった。

    以下気になったフレーズ
    「原材料に関しては三段階に分けて発注できるのは、日本でユニクロだけです。これが現時点のユニクロの強さの秘訣になっています」
    「SPAという業種が浸透して以来、頑張って高級品を買うのは恥ずかしいことであり、低価格であっても価値ある消費を選別して購入するのが賢い生活者であるという思考性を、刷り込まれてしまった気がする」
    「人材開発というのは単純に何かを教えるとか、教育プログラムがあるとかではないんです、部下のモラール(士気)が上がらずについてこられなければ、それは上司が悪いということを明確にする。この方針を軸に、一人ひとりを懇切丁寧に面倒みるという考え方です。」
    「ユニクロが日本を代表するSPAであることは認識しているし、同業他社としての敬意を払っています。しかし、われわれが追求するのは我々のビジネス・モデルの精度を高めることであり、顧客の要求により迅速にこたえることができる仕組みづくりに力を入れることの方が大切だと思っています。ライバル企業からよりも、顧客からより多くのことを学ばなければならないというのが我々の基本方針です」

  • 著者:横田増生(ジャーナリスト)

    【文庫版目次】
    目次 [003-006]
    断り書き [008]

    序章 独自調査によってメスをいれる 009
    二○二○年に五兆円企業になることを宣言

    第1章 鉄の統率 025
    絶対に現状には満足しない/執行役員が次々に辞める/コンプレックスをバネに/「考えます」「努力します」という回答は絶対するな/内部監査/ユニクロ商品以外を着用してはならない/広報が「柳井に謝罪してほしい」

    第2章 服を作るところから売るところまで 055
    オリジナリティではなく改善/ユニクロブランドの誕生/異業種から人材を登用/原点はアメリカの大学生協/ユニクロ一号店/全国展開へ/商社、卸、メーカーへの不満/ユニクロと他社の中国生産の違い/原材料まで独自に調達/日本で初のSPA

    第3章 社長更迭劇の舞台裏 101
    逃げ水のような引退宣言/二つのMBAを持つ男/ユニばれ/失語症にかかったようだ/玉塚体制の蹉跌/本音は世襲か?/柳井自身は何の責任もとっていない

    第4章 父親の桎梏 139
    炭鉱街の商店街で/父親は地元の顔役だった/卒業の寄せ書きに「言う事なし!」/ユニクロ商法の三つの原点/父親は全権を委譲した

    第5章 ユニクロで働くということ 国内篇 169
    タイムカードを押してから、店舗に戻る/マニュアルに振り回される/店長コンベンションで/店長の権限は人件費を削ることのみ/ユニクロに退職金制度はない/自分の頭で考えてはいけない

    第6章 ユニクロで働くということ 中国篇 201
    守秘義務契約を結ばせて中国工場を秘匿/協力工場がユニクロを厳しく批判/眠る時間もなく働く/○・五ミリの糸くずがついていても不良品とされる/限界不良品率は○・三パーセント/ユニクロ生産管理の凄み/匠チームのきめ細かな品質管理指導/罰金制度のプレッシャー/ユニクロを知っていますか?/安い労働力を追って

    第7章 ZARAという別解 245
    ユニクロの一・五倍の売り上げ、八割が正社員/製造業から出発/ユニクロとの三つの違い/店舗の情報を商品企画に直結させる/商品の半分は、顧客の動向を見ながら投入/不良在庫の発生しないシステム/人件費比率を比べてみる/GAPはなぜ衰退したのか

    第8章 柳井正に聞く 279
    玉塚更迭の理由を聞く/なぜ執行役員が次々と辞めていくのか/正社員比率をなぜ低く抑えるのか/父親について聞く/暴力団関係者が役員にいた/尊敬する経営者は中内功と藤田田

    終章 柳井を辞めさせられるのは柳井だけだ 305

    謝辞(二○一一年一月 横田増生) [314]

    文庫版新章 東京地裁は“真実”と 315
    マニュアルがちがち/休業中社員の八割がうつ病/残業しないと店舗運営できない/提出された懲戒委員会の資料/経営者としての姿勢が問われる/柳井の決断さえあれば……

    主要参考文献 [338-347]
    年表 [348-360]

  • 【目的】 悪い部分も含め、ユニクロの公式発表に含まれないユニクロと柳井正社長の実像にせまる。

    【収穫】 ユニクロの成功要因やZARAのビジネスモデルなどが理解できた。

    【概要】 ■SPAの意義: ①それまでのアパレル業態における各流通段階での過剰在庫の問題を解決し、価格を下げることができる。②自分たちで仕様決めから生産管理までやることで、品質を良くすることにつながる。③商品100%買い取りのため、メーカーや卸との軋轢もなく、在庫リスクの管理が容易になる。④一社で管理することで、売れ筋情報を有効活用できる。
    ■ユニクロの品揃えの基礎となる3つ: ①カジュアル衣料品には年齢も性別も関係なく需要があること。②流行の商品よりもベーシックな商品により大きな需要があること。③顧客のニーズを捉えていればブランドに関わらず受容があること。
    ■原料調達におけるユニクロの強み: 三段階に分けて発注する。最初の発注で、原糸を発注。次の発注で、生地の種類と色を決定。最後に具体的な衣服の企画として発注する。それにより、店舗の売れ行き状況に合わせて商品企画を変更することで、在庫を調整できる。これができるのは日本ではユニクロのみ。
    ■ZARAとのビジネスモデルの違い: ①ZARAはユニクロと比較して価格設定が上。②ユニクロが1年かける商品開発工程を、ZARAは2週間で回す。理由は、委託ではなく自社で工場や物流センターを本社の周辺に持っているため。③ZARAは少量多品種生産。ユニクロは少品種大量生産。

    【感想】 書籍として、ユニクロや柳井氏の経営方針に対して否定的な目線で書かれたものは他になかったため、興味深く読めた。ブラック企業などと言われることもあるが、個人的にユニクロに悪い感情を持っていないため、全て賛成というわけではないが、柳井氏の後継者問題など、今後のユニクロの展望を計る上で参考になる部分はあった。

全7件中 1 - 7件を表示

著者プロフィール

横田増生

一九六五年、福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。九三年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。九九年よりフリーランスとして活躍。二〇二〇年、『潜入ルポ amazon帝国』で第一九回新潮ドキュメント賞を受賞。著書に『ユニクロ潜入一年』『「トランプ信者」潜入一年』など。

「2022年 『評伝 ナンシー関』 で使われていた紹介文から引用しています。」

横田増生の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×