ふたば君チェンジ 1巻 [Kindle]

著者 :
  • クリーク・アンド・リバー社
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感想・レビュー・書評

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  • ダブルミーニングな変態事情、こちら側はメタモルフォーゼ。

    TSF(後天的性転換を題材としたフィクション作品)を語る上で、おそらく絶対に外せない作品のひとつです。
    そして、後続の同ジャンルを取り扱った作品にも適用されて然るべきストーリーラインの巧みさを感じ取れました。後続への示唆も富む金字塔的作品と言って差し支えないかと。

    秋山治のアシスタントからスタートした漫画家「あろひろし」氏が「月刊少年ジャンプ」で長期に渡って連載したこの漫画、同ジャンル、また作者の作品の中でも全八巻という珍しい長丁場なのですね。

    簡単に言ってしまえば赤裸々でハレンチ(古)路線な、変人と変態が乱舞する学園ラブコメギャグ作品ではあるんです。
    その辺の味付けは当時の流行を外していないと思われますが、なんだかんだで異常の中心が主人公「締留ふたば」から外れておらず、話の本筋をきちんと保持していることが強みです。
    話の進行につれてアブノーマルな方の「変態」サブキャラはどんどん追加されていくんですが、主人公周りもそれに負けじと「アイドル」やヒロインとの葛藤やら許嫁の三角関係やらの、王道のシチュエーションに囲まれるので埋没しないんですよ。

    興奮すると異性に変態(チェンジ)する、要するに生殖を普段と別の性で行う一族「締留(しめる)」。
    その一人な少年「ふたば」が少女「ふたば」に変わる一幕は劇的です。一話で鏡の前で全面開帳して変化した身体を確認するシーンのインパクトは凄まじいんです。

    主線は太めなんですが、だからこそ陰影が際立つ豊満で色白な女体を描き切っています。
    流石に髪型は当時の流行なのか古さを感じてしまいますが、男→女特有の無防備でコケティッシュな魅力を放っているので、主人公=ヒロインの構図を持って読者の目を引き付ける力は強いです。

    そういうわけで生物学的な意味での「変態」はエロの文脈を匂わせつつ「第二次性徴期」を重ね合わせることで性の目覚めと女性としての成長って真面目さと現実に沿った一定のリアリティラインを確保しています。その上でコミカルな味付けをして、現実の生臭さをしているのでいいとこ取りな気もします。

    あと、出生から初変態まで育んできた性自認は男性のハズなのに、主人公からして本質的な性別は女性なんじゃないかと思わせる危うさが一巻時点から漂ってきます。
    直接言及はされてはいませんが、主人公からして続刊で生理を迎えるんですが、精通は無理でしょう。
    そんなわけで、巻を重ねていくうちに段々と女性寄りへとメンタリティが傾いていくのが、見た目の激変に留まらない思春期の変貌って感じがして、好みです。

    もう一言付け加えていくと、男子姿と女子姿の配分がどちらかに極端に偏っているわけでないというのもポイントのひとつです。
    正体を明かせない二重生活を描くうえで、華はもちろん女子の方にあるわけですが、男子の方も当初はぼんやりしていたのが段々凛々しくなっていくんですよね。この辺、一気に成長した女子に、男子姿も追いついていくようで興味深いです。そして、互いが互いを引き立てるわけです。

    この巻のストーリーとしては。
    いきなり両片思いではじまって後は一気呵成なはずなのに、両思いに発展するのは主人公の言うに言えないカミングアウトが必要になったり。要はヒロインとの関係性が早速提示されるとか。
    互いの顔が見えない体育館倉庫でのだからこそなやり取りとか、女子姿を追跡されたり、追跡を躱したりといった男女での立場の使い分けが本当に面白いんですよ。転校生として公に立場を確立するまでの「謎の美少女」というポジションだからこそできる話もあるんですが、作者の手のよる無理やりな中に理の適った納得の感じられる絵面作りが見て取れるというか。

    本質的には野獣なんじゃないかと思わせる小悪魔ぶってる姉、男同士の友情が好きで男女によって扱いが違う熱血先生お助けキャラを地でいく校長先生、などなど、こういう性を活かしたキャラが配置されているのも面白いところ。
    二重在籍をどうやって誤魔化すか? ってのがこの漫画の一番のツッコミどころ&問題点だと思うのですが、勢いですっ飛ばすジャンルにも助けられて、読者にこういうものだと呑み込ませることに成功している気がします。
    それでいて、正体がバレるかどうかの緊張感を必要に応じて取り出せるのですからこの辺も面白いですね。

    ただし、この一巻の衝撃は衝撃的である分、二巻以降では持続はしません。
    とは言え、ストレートなTSF作品というのみならずシリアス一本でも、コミカル一辺倒でも描き切れない倒錯したワールドを描き切っていると思ういます。
    ジャンルに囚われずにジャンルを描き切り、しかして最後には男女の関係について問いを投げかける王道の話し作りに唸らされてほしいところです。

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