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感想・レビュー・書評
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NHKが番組制作のために、3年間かけて取材したルポルタージュの力作。
軍法会議とは 、罪を犯した陸海軍の軍人 ・軍属といった軍の構成員を裁くために 、軍の中に特別に設けられた軍事法廷のことだ 。戦局が不利に展開してゆくにしたがって、処刑される軍人の数が増えてゆき、昭和19年には5,500人が処刑された。まずは、この数に驚く。
その昭和19年、フィリピンで若い上等兵が軍の都合により不当に処刑されたという事件があったらしい。その事件をきっかけに、NHK取材班は関係者への取材を通して軍法会議の本質に迫ってゆく。
軍法会議は「法廷」であるから、法に則って進行されなければならない。いわゆる裁判官に相当するのは、5人だがうちひとりは文官で法務官と呼ばれる。本書は、上等兵に死刑判決を下したひとりの法務官の行動を追う。
上等兵が犯した罪は、本来なら死刑に値しない「敵時逃亡」。これも、飢えに耐えられず食糧を求めて任務を離れた行動。法務官は、被告の法的権利を守ろうとする使命と、規律維持のために必死な軍の上層部の圧力とのジレンマに苦しむ。しかし、結局は軍の意向に屈服した判決を出してしまう。
要は、「〝空気 〟という責任が極めて曖昧なものによって 、 『法の正義 』がねじ曲げられ 、軍隊という 〝大の虫 〟を生かすために 、一人の兵士という 〝小の虫 〟の命が奪われ」てしまう。
驚いたのは、処刑された軍人は国賊として扱われ、靖国神社では祀られない。また、永遠に遺族年金が出ない。本書の中では、名誉回復を求めた昭和49年の裁判、罪名を抹消するために遺族が県庁に懇願に行くエピソードも紹介されているが、どちらも名誉回復はなされなかった。
非常に重いルポルタージュではあるが、戦争の悲惨さ、愚かさを再考するには、読むべき本。ただドイツでは不当に処刑された人々の名誉回復が出来たのに、なぜ日本では出来なかったのか、その考察が弱いようなき気もする。それでも、お勧めの★4つ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
NHKスペシャル本体は見ていないのですが、太平洋戦争末期のフィリピンにおいて死刑にするに値しない兵士を軍の論理によって死刑にしてしまった法務官の悔恨メモからあぶりだされる戦前の国家像の根本的なゆがみ。
個人より国家を尊重しようとしたときに起こる悲劇について「戦場の軍法会議」で起こった事象から見事に浮かび上がらせる秀作。是非ご一読を。