すごい実験 ―高校生にもわかる素粒子物理の最前線 [Kindle]

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  • イースト・プレス
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感想・レビュー・書評

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  • スーパーカミオカンデを用いたニュートリノ実験について、高校生を相手に著者が行った全4回の授業を書籍化した本になっている。

    素粒子物理学という本当なら、数式やら理論やらが山積みで、とても難しいであろう内容を分かりやすく、実感しやすい形で語る著者がすごいと思った。
    難しいことを難しく言うのは簡単だが、難しいことを簡単に、わかりやすく説明できる著者は素晴らしいと思う。

    さて、内容について、加速機ってなんのためにあるのかと思ったら、原子より小さな世界を調べるために、電子やらをぶっ壊すために高速でぶつけるためというのには、驚いた。
    思いもよらないシンプルなやり方のためにとてつもない設備が必要なのか、と。

    また、科学がなんの役に立つの?というよくある質問にも、いつか、もしかしたら使えるかもしれない、100年先のためにある、と、その質問自体がほんとうは短絡的なのかもしれないなと思わされた。

    短く読みやすいのに、科学の深い世界を味わうことのできるいい本だった。

  • 素粒子物理学者の多田将さんの本。

    2011年1月に、高校生に対して行った4回の講義を書き起こして書籍にしたもの。

    素粒子の世界、めっちゃ難しい! けど、面白かった。理解できない部分も多かったけど、なんとなく「ほわーん」と素粒子の世界を眺めることができました。

    (講義を聞いた高校生たちは、どれぐらいわかったんだろうか。そして、その中から、もしかしたら、新たな素粒子物理学者が生まれたりしてるんだろうか〜。)


    実はこの本、以前から読んでみたいなと思っていたのでした。その理由は、ニコ・ニコルソンさんの漫画「アルキメデスのお風呂」を読んで面白いと思ったから。

    漫画のあとがきに書いてあったのですが、ニコさんは、この本(「すごい実験」)を読んで、これを題材にしようと思ったとのこと。なので、素粒子の世界を知らない人が、これを読みながら、この中から色々なアイデアを引っ張り出してあの漫画を書いたんだと知っているから。読みながら、あれ?これはあのセリフのもとになったネタかな?あぁ、これがキテレツ王子が言ってたあれか!とか、いろいろ考えながら読むことができました。

    最近読んだエッセイで、オススメされた本を読むと、勧めてくれた人がこれを読んでどう面白いと思ったのかを想像しながら、自分の目だけじゃない視野で読める、ということを書いてあったけれど、なるほどな〜と思いました。ニコ・ニコルソンさんが、これを読んでこんなふうに思いながら読んだのかなと想像するのも楽しかった。


    そして、「ニュートリノ」という言葉を読んで、漫画の主人公の陽子が思い浮かべた、首の長い鳥(にゅーっとした感じのトリw)を、私も頭に思い浮かべながら読みました。楽しかった。


    それにしても、素粒子の世界は難しい。
    というのか、これは、まだまだ中間点で、最終的に「あぁ、こういう形か!こういう成り立ちか!」っていう理解ができる日が来るんでしょうか。楽しみです。


    第1章 この世界でもっとも大きく、もっとも精密な機械
     J-PARKはニュートリノをいかに作り出すか?

    第2章 人は、「小ささ」をどこまで想像できるか?
     素粒子概論ーー原子からクォークまで

    第3章 「知」が切り拓かれる瞬間
     スーパーカミオカンデはニュートリノをいかに捕らえるか?

    第4章 100年後の世界のための物理学
     相対性理論と宇宙について


    KindleUnlimited

  • 高校生に向けた授業内容ということで本当にわかりやすかった。
    素粒子物理学の実験がボリューム勝負の力技という点が面白い。
    非常に少ない確率でも0じゃないんだったら、数をこなせば当たるって、カイジが難攻不落のパチンコでそんなことやってたよなぁ。

    2011年の本なので、現在どこまで実験が進んでいるのか知りたい。

    滝音ってタキオンなんだね。カッコいいコンビ名。

  • 難しいけど日本が物理学の最先端でこんな凄いことをしていると知り誇らしい

  • 【印象に残った点】
    ・空間はニュートリノや光子で満ち溢れている。物質を形成する電子や陽子はニュートリノや光子の数億分の1くらいの個数しかない。
    ・物質と反物質は相互消滅する関係にあるが、なぜか物質の方がほんの僅かに多く存在しているため、あらゆるものが物質で形成されている。
    ・日本は素粒子研究で今なお世界の最先端にいる。地震のリスクなどから実験施設は入念に作られている。学術研究が進むことで、施設の建設などにより産業も回る。
    ・役に立たないとされる学術研究の意義は、「東急ハンズの棚に商品を並べる」こと。何をプレゼントにするかを考えるとき、東急ハンズの棚を眺めているとふと見つかることがあるのと同じ。
    「こういうものを作りたい」となったとき、それを可能にするのはそれまでの基礎研究の積み上げ。携帯電話を作り上げた技術も、携帯電話をつくるために開発されたわけではなく、もともと学術研究で積み上げられてきたものを組み合わせたものである。むしろ、そうした技術が、「これを組み合わせたらこんなものが作れるのではないか」という着想を与えてくれる。
    ニュートリノなどの研究がどのように役に立つかはまだ分からないが、だからと言って研究の意義がないということにはならない。数十年後、何がどのように役に立つのかなんて誰にも分からない。

    【所感】
    研究に関する話は興味深かったものの、やはり最後の「学術研究の意義は何か」という話が最も強く心に残っている。日本では(他の国も?)実用性、応用可能性がはっきり見える研究にばかり投資される傾向にあるが、そのやり方ではいずれ科学の進展に限界が来てしまう。

  • ・T2K
    T2K(Tokai to Kamioka)とは茨城県那珂郡東海村のJ-PARC加速器で発射したニュートリノを295キロメートル離れた岐阜県飛騨市神岡町のスーパーカミオカンデで捉える素粒子実験。 ニュートリノ振動現象を精密に測定することを目的とする。

    スーパーカミオカンデによる大気ニュートリノ観測で発見され、加速器によるニュートリノ実験であるK2K実験、アメリカのMINOS実験で検証された「大気ニュートリノ振動」の精密測定を行うこと、 ミューオンニュートリノから電子ニュートリノへの振動を観測することで未発見の混合角θ_13の測定を行うこと、さらにその先にニュートリノと反ニュートリノの振動確率の違いを測定することでニュートリノでのCP対称性の破れの検証を行うことを目的としている。 東海村にはJ-PARC加速器からの陽子ビームを用いてニュートリノビームを作り出すニュートリノビームライン、振動前のニュートリノビームの性質を測定する前置検出器が設置され、スーパーカミオカンデと合わせて295kmにわたる実験装置をなしている。

    2009年4月23日にJ-PARC加速器からの陽子ビームがニュートリノビームラインに入射され、実験が開始された。2009年11月22日には前置検出器で初のニュートリノ反応の検出に成功した。

    ・カミオカンデ
    カミオカンデが地下に設けられたのは、陽子崩壊時に放出されるニュートリノ以外の粒子の影響を避けるためである。ニュートリノはものを貫通する能力が高く、他の物質と反応することなく簡単に地球を抜けていってしまう。しかし、まれに他の物質と衝突することがある。カミオカンデは、このまれに起こる衝突を検出することで間接的に陽子崩壊を実証することを目的とした。

    カミオカンデはニュートリノの衝突を検出するため、超純水をつかう。カミオカンデの内部には超純水がためられており、ニュートリノが水の中の電子に衝突したあとに、高速で移動する電子より放出されるチェレンコフ光は青白く発光し、壁面に備え付けられた光電子増倍管で検出する。チェレンコフ光を検出した光電子増倍管がわかると、計算によりどの方角からきたニュートリノによる反応かがわかる仕組みになっている。

    1987年2月23日、カミオカンデはこの仕組みによって、大マゼラン星雲でおきた超新星爆発 (SN 1987A) で生じたニュートリノを偶発的に世界で初めて検出した。この功績により、2002年小柴昌俊は、ノーベル物理学賞を受賞した。

    その後も、太陽ニュートリノやニュートリノ振動の検出、レプトンフレーバーの保存の破れの研究に活用された。

    ・カミオカンデの当初の目的
    前述したとおりカミオカンデ建設の当初の目的は、大統一理論の候補の多くが予想する陽子崩壊を観測することであった。中でも最もシンプルで有力であったSU(5)理論が正しければ、少なくとも年に数回の陽子崩壊検出が可能なように、さらには外国でも同様の実験が行われていたが、複数予想される崩壊形式の分岐比も測定可能なように設計された。

    予想される崩壊の中で主なものは、陽電子とパイ中間子(π0)への崩壊で、π0はすぐに2つの光子に崩壊し、光子はさらに電子等を散乱したりする。これらの陽電子や電子等の発するチェレンコフ光を観測することにより、陽子崩壊を検出しようとしたのである。

    SU(5)理論では陽子の寿命は10^30から10^32年と予測されていたが、陽子崩壊は観測されず、陽子の寿命は10^34年以上であることが分った。これによりSU(5)理論は否定され、大統一理論に修正を迫ることになった。

    修正理論でも寿命は長くなるものの陽子崩壊が予想されているが、実験を受け継いだスーパーカミオカンデにおいて2018年現在でも陽子崩壊は観測されておらず、陽子の寿命は少なくとも1.6×10^34年以上であるとみられている。

    ・チェレンコフ光
    チェレンコフ放射(チェレンコフほうしゃ、英: Čerenkov radiation)とは、荷電粒子が空気や水などの媒質中を運動する時、荷電粒子の速度がその媒質中を進む光速度よりも速い場合に光が放射される現象。チェレンコフ効果ともいう。このとき放射される光をチェレンコフ光、またはチェレンコフ放射光という。

    (以上wikipediaより抜粋)


    ● メモ
    ・天才パウリが予言したニュートリノの存在
    ・中性子って自然に壊れてたら陽子と電子になるから、壊れる前の中身も陽子と電子が詰まっているんじゃないの?って思いますよね。違うんです。中性子は自然に壊れるときに、変化するんです。
    ・強い力で「電荷」に相当するものは何かというと、それが「色荷」というものです。(color chargeの英訳らしい)
    ・クォークとは別にレプトンというグループがある。
    ・レプトンはクォークと違う分類になっているんですが、何が違うかというと、クォークには強い力は働くんですが、レプトンには働かない。
    ・電磁力でも分けてみますと、クォークのすべてと、レプトンの電子、ミューオン、タウオンまでは電磁力がかかります。
    ・弱い力は、ここにでてきたすべてに対してかかります。「弱い力がかからないものはあるんですか?」→ 光、フォトンには弱い力はかからない。
    ・ただし重力は、ありとあらゆるすべてのものにかかります。
    ・ハドロンって何かというと、「クォークでできているもの」です。ですから陽子も中性子もハドロンに入ります。
     ハドロンの中でも、陽子や中性子みたいに3種類のクォークからできているものを「バリオン」と呼んでます。一方、2種類、もしくは4種類といった、「偶数のクォークからできているもの」を「メソン(中間子)」と読んでます。
    ・実は、クォークって単独で取り出すことには誰も成功していません。いろんな実験を試みたんですが、今でも成功していない。アップクォークだけを取り出すとか、ダウンクォークだけを取り出すとか、未だにできないんです。
    ・ですから、中性子が壊れて陽子に変わるっていっても、まるごと姿ががらっとかわるというより、3つのうちの1つがダウンクォークからアップクォークに変わる、とかんがえてもいいわけです。すなわち、弱い力とは、この「ダウンクォークがアップクォークに変わるための力」ともいえます。
    ・力とは、媒介になる粒子がキャッチボールされている状態。媒介粒子という、バリバリ出ているものが必要だと。それがこの弱い力の場合には「ウィークボゾン」と呼ばれるものなんですね。
     ダウンクォークからアップクォークに姿を変えるときに、ウィークボゾンという粒子を投げます。弱い力の場合には投げっぱなしなのでキャッチボールになってませんが。。。
     そのウィークボゾンは、すぐに電子とニュートリノとに壊れてしまいます。
     ウィークボゾンは寿命がものすごく短いのと、あと作用距離が10^-18メーターという、原子核の大きさの1000分の1ですので、極めて観測されにくいんです。人間にはかろうじて、中性子、陽子、ニュートリノ、電子の4つの関係がぎりぎりわかるくらいで、このウィークボゾンには気づきません。非常に特殊なことをしないとウィークボゾンの存在はわからない。
    ・ニュートリノが中性子にぶつかる、のではなく、ぶつかる寸前に、中性子から吐き出されたウィークボゾンを捕まえて、電子になっていたんです。
     遠くからみるとウィークボゾンはみえないので、ニュートリノが中性子にあたっているようにみえますが、厳密には、ニュートリノが中性子に近づくと、中性子がウィークボゾンをぺっとはきだして、それをニュートリノが拾って合体し、電子になります。中性子はウィークボゾンを吐き出すことで、陽子になっているんです。
     弱い力を利用してというのは、そういうことなんです。
    ・中性子はクォーク3つからできているわけですけど、この3つを足しても940MeVにならない。。アップクォークが重くても3.3MeV, ダウンクォークも重くても5.8MeV..
     中性子の中(クォークとクォークの間)には、結合エネルギーや運動エネルギーが溜まっているんです。中性子の質量の中で、クォークは本当にごく一部。大部分はエネルギーの重いスープみたいなもの、というわけです。
    ・ウィークボゾンの重さは80GeV。。。中性子は940MeVしかないのになぜ80GeVも作れるんでしょうか?
     これが量子力学ならではのことなんですね。実はこういうことなんです。ポイントは、ウィークボゾンは「作用する距離がめちゃくちゃ短い」というところにあります。「距離が短い」というのは「時間が短い」ことと同じだと思ってください。。。量子力学では、「短時間だったら、巨大なエネルギーをどっかからもってきても構わない」というのが起こりうるんです。

  • 素粒子の話、大変わかりやすい。

  • 新しい世界を垣間見れた。
    分かりやすいかと言えば、そでもないので★3つだが、分かりたいと思わせてくれたので★4つ。

    高校生にも分かると表紙に書いてあるが、私立文系卒の大人には分からない言葉だらけ。でも、数式ががなく、楽し気に語られるので、ここに書かれている世界をもっと分かりたいと思った。(ハドロン、クォーク、陽子、中性子、光子...)

    著者も、小柴先生も言われているように、素粒子基礎研究は、将来役に立つかどうかは分からない。電子が発見されたときだって、それが何の役に立つのかは誰も分からなかった。だから、これは後世のためにやっておかなければいけない研究、とのこと。

    ビジネスの世界で日々そろばんを叩いている身としては、こういう純研究が美しく思われる。。。

    <豆知識>
    ・日本の素粒子研究は世界最先端
    ・「ニュー・トリノ」ではなく「ニュート(ニュートラル・中性の)・リノ(小さい)」


    <カミオカンデから学ぶ人生訓>
    ・努力が報われるかどうかわからない。しかし、努力をしておかないと、絶対にチャンスを捉えられない。棚ぼたは、棚の下にいなければならない。

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著者プロフィール

京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。著書に『すごい実験』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学』『ニュートリノ』(以上イースト・プレス)、『放射線について考えよう。』『核兵器』(以上明幸堂)がある。

「2020年 『弾道弾』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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