- Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
感想・レビュー・書評
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①文体★★★☆☆
②読後余韻★★★★★詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ナンセンス・ドタバタ・長編。恋人とも母とも娘ともつかない女性と手漕ぎボートに乗ることによってパラレルワールドから抜け出せなくなってしまった「おれ」。そこに尾行者が現れ、物語は二人の男の視点で交互に叙述される。韻を踏んだ意味のない台詞が散りばめられているが、以下に掲げる哲学的な問いかけがなされていると感じた。曰く、虚構と現実、時間の相対性、宇宙的な見地から見た輪廻転生。おれは尾行者であり正子であり、しかし別人格でもあるという矛盾。高校生の自分には難しいテーマだったろう、ストーリーに記憶がないもの。
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仕事がだいぶん落ち着いてきたので、今年読みかけだった本をこの際全部読もうということで夕べ読了したのが本書。
そう、筒井康隆大先生の書いた長編SF小説の名著「脱走と追跡のサンバ」(1974年初版発行)です。
私も筒井さんの作品はかなり読みましたし、いろんな影響を受けているつもりですが、近年の作品に偏っていました。
いつか初期の作品にも手を出したいと思っていたところ、勝手に師と仰いでいる町田康さんが自著「破滅の石だたみ」で本書に触れ、
「百回くらい読んだと思う。言葉が溢れ出て設定が沸騰したみたいな状態で、この時点ではそんなことは夢にも思わなかったが、二十数年後に小説家になり、その影響が大なのは誰の目にも明らかであろう」
と書いていたのを覚えていて、今年思うところがあって「よし、ではそろそろ」なんつって、アマゾンで取り寄せたのです。
したら。
かなり難解で読むのに苦労しました。
筒井さん自身がモデルであろうSF小説家の「おれ」がある日、今いる世界が前にいた世界と違うことに気づき、じゃあ、ってんで前にいた世界に戻ろうとするのですが、戻れたと思った世界がやっぱり前の世界じゃなくて、そのうち「尾行者」が現れて、生き別れた「正子」
も出てきて、もうめくるめくスラップスティックの物語に、情報による束縛だとか空間がハチの頭みたいな話が出てきて、町田さんじゃないですが、「言葉が溢れ出て設定が沸騰」した状態になっているのでした。
で、気づいたのは、初期の文体は、筒井さんも若かったからでしょう、かなり力が入っていて読む方も力が入ります。
ですから、疲れている時はお勧めしません。
でも、改めて筒井さんは天才だと再確認しました。