ガリア戦記は古代ローマ帝国によるガリア地方(現在のフランスとその周辺)への遠征の記録で、著者は誰もがその名を知るローマの英雄・ユリウス・カエサルです。
7年にも及ぶ遠征の記録を、カエサルは元老院への戦況報告として書き送り、(おそらく多少なりとも盛ったであろう)その英雄譚に元老院並びにローマ市民は熱狂したといわれます。それほどの迄にカエサルの文筆家としての力量もまた優秀だったということができるでしょう。
ローマによるガリア遠征は紀元前58年~51年にかけて行われ、そして紀元前46年のキケロの記録から『ガリア戦記』が著作物としてすでに世に出ている言及があることから、この作品が遠征後まもなく刊行されたことがうかがわれます。
考えると、紀元前の著作物が今の世にも読み継がれていることは物凄いことであって、ある種の感慨を覚えます。
『ガリア戦記』を読むと、当時のガリア地方が複雑な民族模様にあったことがうかがわれます。
ガリアには数十にも上る民族のモザイク状態にあり、これら民族のある者は同盟を結び、またある者は対立していました。ローマはどちらかというと各民族の調停役としての役割を担っていたことが記録より推察されます。
しかしガリアのいくつかの民族はローマの存在を快く思っておらず、絶えずローマ勢力をガリアより放逐することを狙っていました。
これに加えて東よりゲルマン人も介入しており、かなり複雑な政治状況にあったことがわかります。
このような一触即発な状況にある中、ガリアの和を乱す勢力が常に現れます。
ある時はそれがヘルエティー族であり、ある時はゲルマン人であり、またある時はブリタンニー人(ブリテン島の勢力)であったり。。。
ガリアに動乱が起こるたびにカエサルは軍を率いてこれを鎮圧します。ガリア戦記はこの動乱鎮圧の過程を事細かに記しており、戦記として非常に面白い。
カエサルは各部族との戦いで素晴らしい勝利を次々とおさめていきます。
本書ではローマ軍がいかに陣をはって防戦したか、そして攻城の際はどのような機械を建築してガリアの砦を落としたか、そしてブリテン島への遠征でいかに軍船を調達して島を攻め落としたかが克明に語られます。
カエサルの戦術的才能は疑いようがありませんが、それに並んで目を見張るのは戦略的な才能であるように感じます。
ローマ軍は数万の兵を要するものの、上述の通りガリアの有象無象の民族の中にあっては1つの勢力にすぎません。もしガリア中の民族が結集してローマにあたった場合、ローマ軍はひとたまりもありません。カエサルも心中常に不安を抱えていたのではないかと推察されます。
しかしカエサルは遠征の度に特定の民族に働きかけて同盟関係を結び、後背の脅威を取り除くとともに兵站を確保し、万全の準備を整えたうえで事に当たります。
このようなカエサルの周到さがなければ、ローマ軍はガリアにあってすぐさま殲滅されていたと思われます。
このようなローマ軍の活躍の一方で感じるのは、ガリア人の気まぐれさと不屈の精神です。
本書を読むとわかりますが、ガリア人は幾度もカエサルにコテンパンに叩きのめされても、翌年にはコリもせずに反旗を翻して再びローマに挑戦します(フランス人の喧嘩っ早さはここに由来するのでしょうか・・・?)。
これを読むだけでもガリアを完全に平定するのは難しい、いや不可能ではないかと感じさせられるとともに、将来のローマ帝国の滅亡までをも連想させます。
文章は淡々とした調子ですが、そこから緊迫感や激しい戦いの息遣いが感じられ、古典であるにもかかわらずかなり面白く読み進めることができます。
とてもおすすめな1冊です。