ロスト・ケア (光文社文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 2015年(発出2013年) 338ページ

    介護問題に鋭く切り込んだ社会派小説です。かなり前の作品ですが、現在も現実はそれほど変わっていません。コロナ禍において、介護施設もかなりの赤字を抱えました。作中のフォレストに関しては「きれいごとだけでは済まない現場の問題」をはらんでいると思います。また、実際に起きた事件を背景に描かれているようです。中山七里さんの作品を彷彿とさせてくれます。
    介護業界や介護保険制度について、リアリティある描写で説明されていました。フォレストの営業部長をしていた佐久間功一郎の言うことには納得、共感します。悪い方へ陥ってしまったのは残念でしたが、、、

    主人公の大友秀樹は、X地検の検事で、佐久間とはバスケのチームメイトで中学から大学までのエスカレーター式の私立校の同級生。佐久間は大友のことを鼻につくやつだと思っている。『正しさが気にくわない』という感情を自覚しており、大友の正義感が気にくわないのだ。自然と疎遠になった2人だったが、大友の父が介護が必要となり、フォレストに勤める佐久間に連絡をとる。大友の父は、フォレスト系列の高級有料老人ホームのフォレスト・ガーデンに入居する。そして、フォレストの介護保険事業に不正が発覚し、事業停止の危機がおとずれるが。

    検事の大友は、キャラクターとしての印象が薄い。正義を貫くのはいいのですが、きれいごと過ぎて共感性に欠ける。これはすべて、大友が『安全地帯』にいるから感じてしまうのでしょう。大友が現実問題で苦悩する場面があればもう少し共感できたかも。
    ミステリーとしてはドンデン返しで騙されました。これは、騙される。

    『キセルができる場所ではキセルをするのが当たり前だ』という佐久間のセリフが、今の政治家みたいだと思ってしまいました。

  • これから日本が向かえる超高齢化社会へ問題提起した本。
    介護職員、検事、老人ホームを経営する友人、母を介護する娘、彼、それぞれの視点から物語は展開されていく。
    それぞれが直面する親の「介護」と「死」。
    これが最大のテーマになっている。

    人材不足が深刻な介護現場、現場の運用に即していない介護保険サービスや介護保険法。
    介護をする側にとって制度には課題が多い。
    認知症で人格が変わってしまった親を身を削って介護する家族に逃げ道はない。
    家族の心は悲鳴をあげ、閉ざされた世界で救いがない時間だけが続き、
    介護される人の「死」を迎えることで地獄のような時間から解放される。
    結末になる「死」を、どう考えるか、、

    ピンピンコロリと死にたいと思うのは誰もが思うこと。
    しかし現実は、そうはいかず、必ず直面する問題。

    安楽死や尊厳死まで広げて考えさせられるテーマ。
    多くの人に読んで欲しい本です。

  • あっという間に引き込まれてしまう、良い作品でした。
    旅のお供にと、軽い気持ちで購入したのに、車窓を眺めるのを忘れて行きの新幹線で読み耽ってしまいました。

    「社会派ミステリー」の分類らしいが、殺人ということ以外でも様々な伏線が繋がり、すっきりと読めました。
    勝手に、検事の大友と同級生の佐久間との間にも直接対峙する場面があるのだろうと読み進めていたが、佐久間が割とあっさり亡くなって「あれ?そうなんだ」と拍子抜けしたが、これがあとからパスというカタチでじわじわとくる。
    佐久間が大友に抱いていた嫌悪感なんて、大友は考えもしないだろうから、本当に人の心の中なんてわからないなと、当たり前だけど改めて思ってしまった。

    そして「介護」について。
    これも表向きとそうではない現場の本音のような描写が、リアルで、引き込まれてしまう要因だったと思う。
    既読の中山七里著『護られなかった者たちへ』の時にも感じた、今の日本の課題みたいなモヤモヤが…。
    介護制度も生活保護制度も。
    斯波の気持ちは良くも悪くも読者は皆、理解出来てしまうのではないのだろうか。

    殺人と介護を軸に聖書も家族も上手く絡めて、淡々と物語は進む。
    表裏一体。どちらが悪でどちらが善なのか。
    法律で裁けないことがあるのは事実かもしれないけれど、声高には言えないことも事実。
    大友が佐久間の本質が見抜けなかったように「真実」や「本音」なんて誰にもわからない。

    読了後、再度序章を開き読んでみるともっと切なくなりました。

    何度か出てくる、
    「こうなることはわかっていたはずなのに」
    何気にこのフレーズが刺さります。
    自分にも当てはめていこうと。(これ食べたら太るとか、若い時に貯金しとけば、程度ですが…)
    最後に事務官の椎名がなかなか好きなキャラクターでした。

    ※映画化されるので、観に行こうと思います。
    松山ケンイチさんがどんな斯波を演じるのか楽しみです。

  • 映画の予告から気になり購読
    最初は介護の現状についての知識を共有するため、誰が犯人かを思わせながら読ませるためのパート
    後半に入ってから検事との対決、予告にあったフレーズが来るので、ここから読むペースが加速した
    犯人は思っていたものと違い、一度ページを戻し確認したぐらい驚いた
    この本も目的のひとつなのかと全員感じるんじゃないかと思う

  • 介護の苦しさ、闇がテーマか。重度認知症、寝たきりの介護で現役世代が疲弊したり、家族が崩壊するのはホントどうにかならないのか。日本も安楽死を認めるべきと思うけどな。
    あらすじはそういった老人を人知れず消していく「彼」、一体その正体は?目的は?っていうところ。なかなか読み応えある。

  • 考えさせられる本。
    どちらが正しいのか答えは出なかったけど、自分が同じ立場に立たされた時に登場人物等と同じことを考えるだろうなと思う。
    実際にそうなった時に自分がどう考えるか、答えは10年後くらいに分かるかな。

  • Prime Video映画化
    ドラマでは
    検事の大友秀美(長澤まさみ)は女性検事だつたのか?

    早朝の民家で老人と訪問介護センターの所長の死体が発見された。捜査線上に浮かんだのは、センターで働く斯波宗典(松山ケンイチ)。だが、彼は介護家族に慕われる献身的な介護士だった。検事の大友秀美(長澤まさみ)は、斯波が勤めるその訪問介護センターが世話している老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてからの自宅での死者が40人を超えることを突き止めた。真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友。すると斯波は、自分がしたことは『殺人』ではなく、『救い』だと主張した。その告白に戸惑う大友。彼は何故多くの老人を殺めたのか?そして彼が言う『救い』の真意とは何なのか?被害者の家族を調査するうちに、社会的なサポートでは賄いきれない、介護家族の厳しい現実を知る大友。そして彼女は、法の正義のもと斯波の信念と向き合っていく。(C)2023「ロストケア」製作委員会

    父権主義者とは?
    パターナリズムとは・・・

    パターナリズム(ぱたーなりずむ)とは、強い立場にある者が弱い立場の者の意志に反して、弱い立場の者の利益になるという理由から、その行動に介入したり、干渉したりすることである。 日本語では家父長主義、父権主義などと訳される。

    「割れ窓理論」とは? 1枚の割られた窓ガラスをそのままにしていると、さらに割られる窓ガラスが増え、いずれ街全体が荒廃してしまうという、アメリカの犯罪学者ジョージ・ケリング博士が提唱した理論。 かつて、犯罪多発都市ニューヨーク市で、1994年以降、当時のジュリアーニ市長が、この「割れ窓理論」を実践。

    「そうです。殺すことで彼らと彼らの家族を救いました。僕がやっていたことは介護です。喪失の介護、『ロスト・ケア』です」

    戦後犯罪史に残る凶悪犯に降された死刑判決。その報を知ったとき、正義を信じる検察官・大友の耳の奧に響く痛ましい叫び――悔い改めろ! 介護現場に溢れる悲鳴、社会システムがもたらす歪み、善悪の意味……。現代を生きる誰しもが逃れられないテーマに、圧倒的リアリティと緻密な構成力で迫る! 全選考委員絶賛のもと放たれた、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。

  • 感情的な事件を数字で解明する点がとても良い。
    そして数字から『こうなる事はわかっていた』あれこれを知る度に、私たちは大切にされていない民なんだなぁとつくづく思う。
    「絆」「絆し」「手かせ足枷」のところで自分が「絆」という言葉に不穏な印象を持っていた事にも納得がいった。
    私もこの死刑囚が反省するしかない世の中になればいいとは思う。でもこの先悪化する未来しかみえない。
    安全地帯に居る人だけでは社会はまわらないのに。

  • 私も遂に今年でござを毟る50歳となり両親は後期高齢者、まあ2人とも非常に元気で働いております。私の少し年上となる方々との話題は親の認知症でして、本当に地獄だと皆申しております。例えば父親が認知症となり、その奥様が介護するわけですが、奥様も介護疲れによるダウン、結果奥様も認知症になり、その両親を子どもが介護、そして子どもが介護疲れにより鬱・・・と最悪なバトンリレーとなりもうゴールが見えない、いや、ゴールさせたいけど、医学の進歩で身体だけ健康で認知なご両親と、もう絶望的な話を2週間程前に聞きまして、現在の私の両親の達者具合に非常に感謝しております。ありがとう、イワオ&マサコ。

    本書はこのような状況のご老人をターゲットに薬物による大量殺人、人の命を何と非情に・・・いやいや、実は親が殺されて助かった人もいて・・・本当はこの殺人犯は人助けをしたんじゃないか・・・色んな視点から考えさせらます。そう重い内容です。

    もう安楽死でいいんじゃないですか。もうボケたらどうしようもないでしょう。
    死ぬ権利もないと。私がこの先ボケかますようになれば、そっと殺してええで(痛いのはノーサンキュ)と家族に伝えるつもりです。いや、まて、それを理由付けして殺されるかも・・・・

    途中、ラストと急に反原発チックな話をぶっこんできますが、その話必要あります?あゝ筆者さんはそっち系なのかと勘ぐってしまい興覚めた面が少なからずも有り、おかげで昨今の電気料金爆上げで弊社死にそうなんですが、そうですか、そっちのケアももう少し考えて欲しいですね、、、、

    最後に一句。

    『ボケたなら 殺してええで パパとママ』

    以上。

  • audible 。葉真中顕は何だったか読んだことがある。また読もうと思わせる作家だったと思う。「ロストケア」はすごかった。まさかの人が犯人だった。介護問題など現実社会の実相を暴く手腕も一級品だ。これが新人賞とは!

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著者プロフィール

葉真中顕

1976年東京都生まれ。2013年『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しデビュー。2019年『凍てつく太陽』で第21回大藪春彦賞、第72回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。

「2022年 『ロング・アフタヌーン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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