月刊群雛 (GunSu) 2015年 08月号 ~ インディーズ作家を応援するマガジン ~ [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 初見時の衝撃は相当スゴかった。僕の中では、ヘビーのカテゴリーでは最もホームランな号だと思っています。
    キャリアを積まれている方ばかりなので素の力があるのは言うまでもないのですが、期待を上回る、あるいは良い意味で期待を裏切る作品だったと感じます。特に「えっ、こういうテーマ/ジャンルで書くの?」という驚きは常にありました。
    どれも非常に面白かったのですが、単純に作品を読んだときの衝撃度、そて読み終わったあとに色々と考えさせられたのは「とある陛下の遺言状」でした。表層的な面白さ以上に、話としての深みがスゴかったなと。
    そして、最終回を迎えた晴海さん&合川さん、くみさん&魅上さんにはお疲れさまの一言。雑誌で「待ちながら物語を楽しむ」のは、単行本とは異なる趣がありました。両作品とも色々と語りたくなる着地点だったと思います。


    波野發作『オルガニゼイション』
    テンポよく話はとんとん進むのですが、戦闘モノはあまり読まないが故に少し表現が難しい印象も抱きました。
    でも、このシチュエーションを戦争モノに例えるのかー! という驚きはあり。身に覚えのあるシチュエーションなので、非常に頭が痛い。(涙) まあ、自分の今の状況を競馬やサッカーに例えてしまっているように、こういうかたちで現実逃避したくなるようなあ、とも思うのです。

    小林不詳『とある陛下の遺言状』
    設定は一人芝居の脚本のようで、文体は文学そのもの、なのに構成と内容は評論文。なのに、どの切り口から読んでも結論は「面白い!」に収斂されるからたまったもんじゃない。
    初見時は敢えて途中から「評論文の読み方」で本作と対峙したのですが、「希望と絶望のパラドックス」は「第2次体制以降の国際政治のパワーバランス」を想起してしまったし、魔王を倒した後の勇者の描写は「生産されては消えていくスターシステムへの皮肉」を説いているのかなと。でもって、フィクションとは思えないほどの説得力がある。この物語で説かれている概念で世界を捉えると、ぞくっとするほど何かが当てはまるから面白いし、スゴく怖い。

    くろま『リアリストの苦悩』
    バブル期の時は幼少でしたので記憶や実感は無いのですが、僕がイメージしている「その時代」の空気感はと合致しましたね。作者インタビュー内にある「火サス」のイメージも納得。
    主人公の人物設定を考えると、かなり怪しい臭いがする。金の動向と人の動向、この二つに着目して連載を楽しみたい。

    竹島八百富『絆
    何だろうこの出だし、竹島さんらしくないなあ……と思っているうちに、最後まで「らしくない」かたちでストーリーが終わってしまった。それが最大の衝撃だとも言えるかもしれませんね。
    僕自身の思いこみとして、竹島氏の視線は常に「シニカル」な方向だと思っていました。本作も改めて考えると「不条理」やら「シニカル」なシーンはあるのですが、本質的にはずばり直球のテーマであり、それを最後まで貫き通していました。
    群雛で竹島氏の作品を追い続けているうちに、どんどん誌上での存在感が増してきていると感じます。「絆」は氏がスパークした作品と言えるかもしれませんね。とりあえず、非ホラーもので短編集を1冊出版して欲しいです。(個人的要望)

    晴海まどか(文)×合川幸希(イラスト)『ギソウクラブ』
    実を言うと8月号と平行して「よもやまクラブと最後の番人」を読んでいまして、両作品を読み進めているうちに「同じクラブものでも、全く違う作品に仕上がっているな」と感じました。
    「よもクラ」がチームワークで共通の問題を解決していく一方、「ギソウクラブ」はそう言う要素が殆ど無い(苦笑) 「ギソウ」も当初は「よもクラ」的な着地点に向かうと思っていたので、こういう着地点でストーリーが終わるのは「えっ?」となる部分も少なからずありました。
    でも、「ギソウ」が突然チームワークを発揮して、りるはと恭一を云々~みたいなストーリーはやっぱり嫌だなあ、と読み返してみて思うのです。
    そう言った意味では最初から最後まで自分の事で精一杯すぎるが故に、メンバーの距離感が一定のまま保たれていた「ギソウクラブ」というのは非常にリアリティを重視していた物語だったなと感じています。単行本化して改めて流れを楽しみたいと思います。
    合川さんの落ち着いた色合いではあるけれど、その中にストーリーの根幹の部分を溶け込ませたイラストも、味わい深いものでした。少年時代に読んだ「小説の挿絵」ってこういうものだったよなあ、と思った次第です

    初瀬明生『あなたとは関係のない世界』
    うわー、連鎖反応モノだ! 負の連鎖反応ってギャンブルやスポーツの世界では死活問題だから止めてくれー! という気分にいち個人としてはなってしまいます笑
    でもって、本作も非常に理路整然と、かといって理屈ではなく物語として淡々と進んでいきます。ソフトなホラーと表するべきでしょうか。怖いのが苦手でも読めるし、かつ読後は怖いと感じられる。
    初瀬くんの作品はまずミステリーが土台になっていて、そこから「雪原のing」や「赤の軌跡」のヒューマンドラマ路線と、「Fとなりうる者」や「傍観者」のようなホラー路線の2本に枝分かれしていると思っています。本作も後者の路線に則った良作でした。長編を書いている最中にこんな事を言うのもあれなのですが、いずれは初瀬色が見える短編集とかつくって欲しいなあという感じです。(個人的要望)

    くみ(文)×魅上満(イラスト)『井の頭cherry blossom』
    (隔月掲載とは言え)1年間にわたる長期連載、お疲れさまでした。本当に大きな作品になったと思います。BLというジャンルは群雛に飛び込まなければ間違いなく手を出していないジャンルですので、こういう機会に巡り会えた事を喜ばしく思います。
    当方は途中合流故に最初のほうは読んでいないのですが、作品全体を俯瞰的に捉えると、いわゆる一般的なBLのイメージとは違うな、むしろその設定を通して「情」という概念を描写していたのかな? と思っています。例えるならば、愛情と友情の中間点といったところでしょうか。そういうテーマが軸としてぶれずにあったからこそ、最後までぶれずに物語を終えられることができたのでしょう。
    イラストの魅上さんもお疲れさまでした。絵から小説に入っても、小説から絵に入っても、イメージとぴったり合う作品に仕上げていらっしゃったと思います。とにかく、ご両名には大作お疲れさまの一言です。

    淡波亮作『光を纏う女』
    ネタばらしへのプロセスが少し駆け足だったかなと感じる一方、冒頭から中盤にかけての「引き込む力」はスゴく強かったです。
    レビューを書くまでに必ず2回以上読むというのがマイルール(?)なのですが、何度読んでもこの作品の出だしはドキドキしちゃいます。登場人物の振る舞いもイメージしやすくて、すんなり頭の中に映し出される。その力量を感じたが故に、後半部分も(文字数関係なく?)もっと広げられるストーリーなんじゃないかなあ、と思ってしまうのです。
    SFを中心に書かれているとインタビューではおっしゃられていましたが、こういう現実世界の物語を書いても全然いけると思うのです。次への展開が楽しみな作家さんがまた一人増えました!

    あへあへっど〈表紙イラスト〉
    色々と衝撃的な号だった中、まさか表紙が「金魚を焼いて食おうとする場面」だとは思わなかった…笑

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著者プロフィール

ITジャーナリスト。
1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。

「2022年 『メタバース×ビジネス革命』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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