「その日暮らし」の人類学~もう一つの資本主義経済~ (光文社新書) [Kindle]

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  • アフリカ研究を専門とする文化人類学者による、我々が日々接している資本主義とは異なる価値観で動く「その日暮らし」のライフスタイルを取材した本。
    同じ著者の「チョンキンマンションのボスは知っている: アングラ経済の人類学」を読んで、この資本主義経済についてもうちょっと知りたいと思って読了しました。

    本著を読むにあたっての自分なりのテーマは、「この『もう一つの資本主義経済』は人類の未来を示しているのか?それとも時代の徒花なのか?」というものだったのですが、読み終わった感想としては、悲しくも「うーん、わかんないっすね…」というものでした。。
    個人的には、本著の内容は「こういう背景で『もう一つの資本主義経済』が生まれて、我々の資本主義経済とはこのような違いがあって、今後はこうなっていくと思われる」的な情報が得られると思っていたのですが、実際読んでみた感覚としては「こういう生き方をしている人がいて、これは『もう一つの資本主義経済』と言ってもいいのではないか」という感じかなぁ。
    つまり、抽象化したモデル同士の比較ではなく、あくまで具体的な事例に根差した考察。文化人類学者さんって、確かにそういう仕事でしたね。

    こういう暮らしをしている人たちもいるんだなー、という風に読む分には面白い読み物として読めます。
    (底本となった論文の影響なのか、哲学書の引用なんかがあったりして、妙に読みづらい箇所がいくつかありましたが。。)

    ただ、今後資本主義経済がどういう方向を向いて進んでいくんだろう?と(わかんなりなりに)考えてみた時に、本著の事例たちが永続的なものとなりうるのか、少し疑問があります。
    大企業が支配する資本主義経済とは違って、本著のそれは「そもそも人々が組んで同じビジネスをやらない」というものなのですが、衣料品にしても小ロットにとどまる訳なので、仮にユニクロが発展途上国向けにGUよりも安価なブランドを作って(価格交渉なしの)定価販売で良い物が買えるようになったら?
    アフリカの送金システムにしても、タンザニア政府による管理統制が今後進んでいくような記述があり、こういうインフォーマルなマイクロファイナンス的な仕組みはあくまで一時的なものなのでは?

    結局は、自分でも考え続けないといけないことですね。

  • この本の舞台はアフリカであるのだけど、別に未開の人達を対象としているのではない。資本主義社会にがっつり入っている人達である。しかし彼らはプロテスタンティズム的に勤勉に働き、得た利益を貯蓄して再投資、というわけではない。得た利益は消費するためにあるのだ。

    こういうのを読むと、今の日本の働き方が絶対なのではなく、あくまでも社会形態の一つであるという認識になる。そうやって自分たちを客観的に見れるというのが、この手の本のいいところなのだろう。

    ただ思うのは、現在のグローバル経済において、このような働き方では豊かになれないということ。最適な働き方をできないと、いつまでも貧しいままになってしまう。アフリカの問題はここにあるのだろう。

  • 経済を面白く捉えることができた一冊。
    管理が行き届いた資本主義国で、保険やら積立やら貯金やらをして未来が存在することを共通幻想として持つ人々に対して、無視できない規模になったインフォーマル経済は、"living for today"で、商売を気軽に始め・辞め、ツテを辿ったり商売の秘訣を簡単に教えたり模造品を売ったり、未来をあてにせずにその日を生きる。借りを作って返して生きることが当然で前提である。(←→資本主義国者は借りを作らず一人で生きているように錯覚できるツルツルシステムを好む)
    金銭物質的ではない豊かさに関してぼんやり実感得ることができた(直接体験のルールとか)
    山寨(模造品)企業による百度百科的生産システム面白かった、、
    部分だけを担う企業が連なって商品を作る
    模造品は市場調査せずバンバン作って安く売って売れたものの値段を釣り上げる、、倫理によらない、自然発生的な経済システムは自然界の何に似るのかを知りたい

  • 自分が認識している資本主義経済の世界とは違う、「その日暮らし」が中心の世界を知ることができる。
    "Living for Today"と聞くといかにも計画性・将来性の無さを感じてしまうが、そうではない「インフォーマル経済」がもたらす経済・社会・文化的な効果や信頼性、コピー商品、贈与と借りの話に繋がっていくところも興味深かった。

  • NDC(9版) 389 : 民族学.文化人類学

  • とても興味深い事例に溢れていて学びが深いと思いました。特にインフォーマルな経済、借りの形がエムペサによりどのような影響を受けたのか、コピー文化、中国との関連などについてはとても良い気づきが生まれそうな気配をそこはかとなく感じました。
    全体を通した柱がその日暮らしで良いのかは個人的にはしっくりこなかった気もしました。
    思考を削ってその日暮らし的なマインドをしている人を少なからず見る機会ある身としては、どの国も程度はあれど同じように見えます。
    収入を安定させるために収入を多元化するのは比較的良い戦略と思うのですが、日本ではそこまでしなくても生きて行けたのでそうはなっていないのかなと。なのでジェネラリストとして生きるのは適応なのだと思うのですが、現在志向になる背景には本当に稼ごうとすると障壁が多くなる要素がありるのではないかなと想像しました。話を聞いた人たちはそれなりの人を紹介してもらってるのではないかなと思うので、インタビューした人の選択バイアスもありそうな気もします。
    元々ある貸し借りの習慣がエムペサに影響を受けているのは本当に興味深く感じました。緩やかな時間の中であれば関係性であったはずが、貸す側がむしろ義務のように追い詰められているように見えて面白かったです。

  •  「将来」のために一生懸命働き、学び、「現在」を犠牲にするような資本主義経済に、それでいいのかと、ゆるやかな農村生活をレポートする内容かな?と読み始めた。
     違った。「その日暮らし」が経済的にどう成り立っているのか、詳細な事例から分析しているかなり真面目な内容で、タイトル通り「人類学」と言って差し支えない話であった。

  • 資本主義とは異なる価値観をもつ社会から、社会のあり方を見つめ直す本。

    モノは豊かなれど、心身が不安定な状況に置かれている現代日本の社会。価値観が異なる社会を知ることで、これからの社会がどうあるべきかのヒントが見えてきます。

  • 我が国を含む先進国の経済理論を根本的に問い直すLiveing for today理論。先進国経済理論に取り込まれず、その渦中でトリックスター的に生きる。返すことを必ずしも前提としない「借り」を多数作って、そこに友情や信頼、名誉、関係性を重要視する。そこには生きる糧を得る営みと同時に「関係性の喜びの中で生きる」という経済問題を超越した「生きるとは何か」が哲学的に内包されている。というルポルタージュ

    「インフォーマル経済」-グローバル企業が動かす西側経済とは逆に、新興国で起こっている経済。超多数の零細企業や個人が小さな輸入などのビジネスを行う。近年、西側経済にとって無視できない経済規模になっている25

    インフォーマル経済の主力商品は、偽ブランド。これはグローバル企業の知的財産権を犯しているが、この製造・販売・購入によって、途上国の人たちへ、今まで出会えなかった先進国の技術や文化を与え、製造することによって今まで出来なかったクリエイティブな仕事を与えた。これは考え方によっては、先進国経済が起こした社会の不公平や不正を解決していると言えるし、しかもその不公平の被害者自らが自力で解決したとも言える27

    アマゾンのピダハン族には貧困が無い。それどころか貯蓄・財産・曽祖父母・いとこ・色の概念が無い。過去・未来の概念も極めて限定的32

    タンザニアのトングウェ人は、出来るたけ少ない努力で暮らしを成り立たせようとしている38

  • 「チョンキンマンションのボスは知っている」で有名な著者の長期間のフィールドワークを通じて語られる知見は、いつもはっとされられます。生き方を考える必読書。

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著者プロフィール

小川さやか(おがわ・さやか) 立命館大学先端総合学術研究科教授。専門は文化人類学。研究テーマは、タンザニアの商人たちのユニークな商慣行や商売の実践。主な著書に『都市を生きぬくための狡知――タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』(世界思想社、2011年)、『チョンキンマンションのボスは知っている―アングラ経済の人類学』(春秋社、2019年)など。

「2022年 『自由に生きるための知性とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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