すきあらば、前人未踏の洞窟探検
洞窟ばか
著者:吉田勝次
発行:扶桑社
2017年1月31日発行
テレビでもよく洞窟ガイドをしている(らしい)洞窟探検家の本。ケンカばかりして高校中退した著者が、20代の時にどのように洞窟と出会い、のめり込んでいったか、そして、国内外の洞窟探検記などを通じ、洞窟探検の魅力や凄まじさを伝えている。中には、学会あげて研究の対象となった洞窟を最初に見つけ、案内した事例もある。また、死体を見つけ、警察に通報したところ、遺体搬出を頼まれて協力した話もある。
巻頭にグラビアがあるが、オーストラリアにある世界最大の氷の洞窟には、25メートルの石筍ならぬ“氷筍”とその横に氷の滝。沖永良部島の銀水洞での、えも言われぬ美しさ。直径50メートル、深さ400メートルの縦穴を下るメキシコ・ゴロンドリナス洞窟、など。
洞窟は三次元の世界。水平だけでなく垂直移動や斜めもある。縦穴は危険で恐いらしい。ロープで下りていくが、一体、何メートル先が底なのか全く分からず、登山と違ってロープが切れたらもう二度と地上に戻れない。横移動も危険で、迷って帰れなくなりパニックに、体ぎりぎりの空間を匍匐前進するも、前進も後進も出来なくなる状態、とくに少し傾斜がありしかも下はどろどろでバックすることもできない状態などは絶望的。そんな恐怖体験も書かれている。まるで村上春樹の新作長編小説のラスト近くのシーン。
閉所恐怖症の身としては、洞窟探検は遠慮しておきたい。
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著者28歳の時、日本を代表するアウトドア雑誌「BE-PAL」に洞窟探検特集があり、「浜松ケイビングクラブ」が紹介されていた。著者が連絡すると会長がびっくり。雑誌に載ってもまったくリアクションがなかったから。いかに当時は洞窟探検がマイナーだったかが分かった。
洞窟に入ると何日も探検をするので、洞窟内の平らで生活用水が確保できるところにベースキャンプをつくり、生活用具などを起きっぱなしにしておく。三重県の霧穴という洞窟で、ベースキャンプまで戻るのが面倒なので第二キャンプをつくった。翌年、そこに戻ると、置いておいたいろんな道具がなかった。よく見ると、とんでもない所に道具が挟まっていたりしている。大雨が降ると水が溢れるところだったことが分かり、ぞっとする。もし、そんな時にのんびりキャンプしていたらイチコロ。
太陽光のない洞窟内では時間の感覚がなく、時計もあまり見ない。腹が減ったら飯、疲れたら休む・・・体のリズムが狂ってきて、36時間ぐらい寝たり、時計を見てまだ夕方の5時かと思ったら朝の5時たったり。
洞窟の縦穴は、登山と違い、ロープ1本で上り下りするのは1人ずつ。中国の重慶市で700メートルを登り返した時、上方300メートルは空中に垂れ下がったロープを一気に登らなければならず、1人3時間所要。6人中の6番目だった著者は、暗い穴底で15時間待たされた。
洞窟探検はアルピニストと違ってスポンサーがつかず、全て持ち出し。稼ぎは、テレビ撮影のサポート、洞窟のガイド、本業(著者は建設業)。パプアニューギニアのジャンルにある400メートルの縦穴でロープにぶら下がっていると、仕事の電話がかかってきた。「もしもし、工事をお願いしたいのですが」。