JR上野駅公園口 (河出文庫) [Kindle]

著者 :
  • 河出書房新社
3.54
  • (22)
  • (29)
  • (29)
  • (16)
  • (2)
本棚登録 : 347
感想 : 54
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (158ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 淡々と事実を描写しつつ、所々に主人公の思いを差し込み、かつ天皇との並行関係を描いていて、また上野恩賜公園自体が皇族と馴染みのある場所でありつつ、西郷隆盛とか彰義隊とか、要は反逆の徒を記念している場所でもあるという二重性とか、しかもフクシマ、津波、オリンピックとかとか。これはすごい作品だと思いました。一回読んだだけでは色々汲み取れていないと思います。

    柳美里って昔はもっと攻撃的だった記憶があるんだけど、文章とか構成も上手くて読みやすいけど、色々と織り込めるようになっいて素晴らしかったです。

    こういう小説が世界的な賞をとって売れるのはいいことだと思いました。

  • もの凄い小説でした。
    令和の代替わり、オリンピックに社会のピントが合っていくなかにこそ、ピントから外れたものに焦点を当てるという作者のコメントが全てと思います。

    このようなピントから外れたものに焦点が当たった物語が我々の心を打つのは、1人の人間の中にもピントを当てている自分と、外している自分、もしかしたらピントを当てさせられている自分がいるからなのかもしれません。

    そういう意味で人類普遍のテーマなのだと思います。

    そして、この小説の主人公自身もピントを当てされられ続けた方なのかもしれません。

  • 芥川賞受賞作を読んで以来、この作家さんの作品は読んでいなかったのですが、今回全米図書賞のニュースを見て、読んでみました。
    とてもことばのリズム感があり、叙事詩のような印象を受けました。
    ニュースでご本人のコメントには、この作品を執筆中はご本人が死にたいと思う日々で、ベッドに横になりながらスマートフォンで1行ずつ書いていたとありましたが、とてもそのような感じはなくて、音を感じる文章です。おそらくこの点が、翻訳されても重視されれば、海外の方にも伝わったのではないでしょうか?
    本のあとがきにもありましたが、ご本人がホームレスの方や福島県の方に取材をして書き取ったということもあり、ノンフィクションが包括されているということです。私はどちらかといえば、ことばの響き、音韻の響きが良かったと思います。

  • 静かな小説だった。生まれた場所、生まれた時代、選べないものは、どうしてそう決まっているんだろう。

  • 茂樹さんリリース

  • 日本版「活きる」のような物語だ。いくら頑張っても、不運が押し寄せ、膨大で予測不可な人生の荒波に耐える主人公は、余華が描く老人を彷彿とさせる。ただ、最後にあるのはカラッとした諦念ではなく、浄化されなかった苦しみとやりきれなさ。

    National Book Award受賞がなければ私も本作を知らなかっただろう。過去の芥川賞受賞作家を読み進めたとしても、たどり着くには時間がかかったはずだ。
    日本の出稼ぎの象徴である上野駅、天皇、3.11、オリンピック誘致ー日本の時代的象徴をキーワードとしてたくさん盛り込んだ本作が海外で評価されたことは必然なようで、どこかしら不思議でもある。なぜなら、簡単に読み解ける本ではないからだ、地域背景も必要とするし、時代背景も必要とする、なんなら文章の組み立て方も詩的で読みづらい人には読みづらい。それでも、こんな日本の近現代の歴史を盛り込んだ一冊がアメリカで評価を受けたことは素直に喜ばしいと思う。

    膨大で、時には永遠に思える、そして生きしものが全て背負わなければならない時間。その時間に対する描写、未来と過去への描写が美しい。そして重く、読者にのしかかる。
    「時は、過ぎない。時は、終わらない。今日は今日のままで、もう明日に向かって開くことはない。今日に潜んでいるのは、今日よりも長い過去。」

  • 上野公園周辺に住むホームレスが主人公。あえて区分けをすればということだけれど。

    人生の浮き沈みっていう言葉があって、でも浮いた状態がわからないまま生きることもあるんだろうな。ずっとやるせなさを抱えながら寂しく読む。ずっと寂しい。

    (山狩りというワード。人間が狩られるって)

  • ホームレス、東京大空襲、津波、天皇制
    今まで考えたとがなかった身近なものも、意識して見たら違う世界と繋がっている。時代と時空を超えた物語。

  • 柳美里って在日の人で芥川賞を昔取った、と記憶しているので文学系の話なんだろうなと思いつつに取った。上野公園に住んでいるホームレスを扱った話で、子供が死に妻が死にと登場人物の身辺の不幸とかが起こって、それが原因になってホームレスになった的な感じなのかも知れないが、ストーリー的なところはあまり負えず、読みにくかった。

  • かつて家族があり、かつて家があり、かつて帰る故郷があった男性。
    出稼ぎをしながら一生懸命家族のために生きてきた道中、息子をを失い、妻を失い、
    大事なものを一つずつ失いながら、男性は生きようとして生きることをやめ、
    家を発った。

    家を失った老人の、過去と現在と未来が一つの記憶となって語られる。

    人生の痛苦に閉じ込められている。死してなお、JR上野駅公園口で、記憶とともに閉じ込められている。

    老人の時間が、続いている。
    その時間を、暗く冷たい心持で共有することになる。

全54件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

柳美里(ゆう・みり) 小説家・劇作家。1968年、神奈川県出身。高校中退後、劇団「東京キッドブラザース」に入団。女優、演出助手を経て、1987年、演劇ユニット「青春五月党」を結成。1993年、『魚の祭』で、第37回岸田國士戯曲賞を受賞。1994年、初の小説作品「石に泳ぐ魚」を「新潮」に発表。1996年、『フルハウス』で、第18回野間文芸新人賞、第24回泉鏡花文学賞を受賞。1997年、「家族シネマ」で、第116回芥川賞を受賞。著書多数。2015年から福島県南相馬市に居住。2018年4月、南相馬市小高区の自宅で本屋「フルハウス」をオープン。同年9月には、自宅敷地内の「La MaMa ODAKA」で「青春五月党」の復活公演を実施。

「2020年 『南相馬メドレー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

柳美里の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
村上 春樹
辻村 深月
村田 沙耶香
三島由紀夫
川上 未映子
池井戸 潤
村上 春樹
村上 春樹
宮下奈都
遠藤 周作
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×