- Amazon.co.jp ・電子書籍 (158ページ)
感想・レビュー・書評
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淡々と事実を描写しつつ、所々に主人公の思いを差し込み、かつ天皇との並行関係を描いていて、また上野恩賜公園自体が皇族と馴染みのある場所でありつつ、西郷隆盛とか彰義隊とか、要は反逆の徒を記念している場所でもあるという二重性とか、しかもフクシマ、津波、オリンピックとかとか。これはすごい作品だと思いました。一回読んだだけでは色々汲み取れていないと思います。
柳美里って昔はもっと攻撃的だった記憶があるんだけど、文章とか構成も上手くて読みやすいけど、色々と織り込めるようになっいて素晴らしかったです。
こういう小説が世界的な賞をとって売れるのはいいことだと思いました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
もの凄い小説でした。
令和の代替わり、オリンピックに社会のピントが合っていくなかにこそ、ピントから外れたものに焦点を当てるという作者のコメントが全てと思います。
このようなピントから外れたものに焦点が当たった物語が我々の心を打つのは、1人の人間の中にもピントを当てている自分と、外している自分、もしかしたらピントを当てさせられている自分がいるからなのかもしれません。
そういう意味で人類普遍のテーマなのだと思います。
そして、この小説の主人公自身もピントを当てされられ続けた方なのかもしれません。 -
静かな小説だった。生まれた場所、生まれた時代、選べないものは、どうしてそう決まっているんだろう。
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茂樹さんリリース
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日本版「活きる」のような物語だ。いくら頑張っても、不運が押し寄せ、膨大で予測不可な人生の荒波に耐える主人公は、余華が描く老人を彷彿とさせる。ただ、最後にあるのはカラッとした諦念ではなく、浄化されなかった苦しみとやりきれなさ。
National Book Award受賞がなければ私も本作を知らなかっただろう。過去の芥川賞受賞作家を読み進めたとしても、たどり着くには時間がかかったはずだ。
日本の出稼ぎの象徴である上野駅、天皇、3.11、オリンピック誘致ー日本の時代的象徴をキーワードとしてたくさん盛り込んだ本作が海外で評価されたことは必然なようで、どこかしら不思議でもある。なぜなら、簡単に読み解ける本ではないからだ、地域背景も必要とするし、時代背景も必要とする、なんなら文章の組み立て方も詩的で読みづらい人には読みづらい。それでも、こんな日本の近現代の歴史を盛り込んだ一冊がアメリカで評価を受けたことは素直に喜ばしいと思う。
膨大で、時には永遠に思える、そして生きしものが全て背負わなければならない時間。その時間に対する描写、未来と過去への描写が美しい。そして重く、読者にのしかかる。
「時は、過ぎない。時は、終わらない。今日は今日のままで、もう明日に向かって開くことはない。今日に潜んでいるのは、今日よりも長い過去。」 -
上野公園周辺に住むホームレスが主人公。あえて区分けをすればということだけれど。
人生の浮き沈みっていう言葉があって、でも浮いた状態がわからないまま生きることもあるんだろうな。ずっとやるせなさを抱えながら寂しく読む。ずっと寂しい。
(山狩りというワード。人間が狩られるって) -
ホームレス、東京大空襲、津波、天皇制
今まで考えたとがなかった身近なものも、意識して見たら違う世界と繋がっている。時代と時空を超えた物語。 -
柳美里って在日の人で芥川賞を昔取った、と記憶しているので文学系の話なんだろうなと思いつつに取った。上野公園に住んでいるホームレスを扱った話で、子供が死に妻が死にと登場人物の身辺の不幸とかが起こって、それが原因になってホームレスになった的な感じなのかも知れないが、ストーリー的なところはあまり負えず、読みにくかった。
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かつて家族があり、かつて家があり、かつて帰る故郷があった男性。
出稼ぎをしながら一生懸命家族のために生きてきた道中、息子をを失い、妻を失い、
大事なものを一つずつ失いながら、男性は生きようとして生きることをやめ、
家を発った。
家を失った老人の、過去と現在と未来が一つの記憶となって語られる。
人生の痛苦に閉じ込められている。死してなお、JR上野駅公園口で、記憶とともに閉じ込められている。
老人の時間が、続いている。
その時間を、暗く冷たい心持で共有することになる。