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- / ISBN・EAN: 4988013374799
感想・レビュー・書評
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自分が死を告げるための12年ぶりの家族との再会。
序盤のルイの帰宅場面から皆がまくし立てるようにはじまる家族のおしゃべりのシーンは、半ば居心地の悪さすら感じ、久々に家族の中に置かれた主人公ルイの困惑を同じ様に感じられるほど苦しい。
次から次へ変わる顔のアップ映像と、家族全員が勢ぞろいしているのに誰一人として、本音の会話をしない「見えない壁」だらけの会話劇を映画館という逃げられない空間でずっと観せられると、序盤から早々にむずむずして、思わずゔぁーー!って叫びそうになった。
これは多分監督の思惑通りだと思うので、そういう意味では観客にまで主人公の苦しみを追体験させる演出は凄い。
映画観終わった今もまだあのムズムズ感が身体から取れないのも凄い。
描かれるのはルイが自宅に戻りご飯を食べて家を出るまでの数時間だけで、ほとんどが家の中での出来事。しかも登場人物は家族だけなのに台詞の量が半端ないからそれだけで相当疲弊するけど、その会話のほとんどが「沈黙」を作らないための手段にしか過ぎないから意味はない。
それでも話が進むにつれて家族それぞれの本音が伝わってくるのにそれでもだれも核心に触れようとしない焦らし加減を終盤まで引っ張れるのはもはや狂気。
因みにルイの病名は劇中で明かされることはないけれど、ルイのかつての恋人について兄が伝えたシーンから推測するにおそらくエイズなのだろうと思う。
でもこの微かな表現だけでは、本当にルイの死がそうなのか、兄以外の他の家族がルイが告白しようとしてたことを気づいていたのかがどうも分かりにくい。
家族とは港ではないー♩と歌われていたオープニングの歌詞のように、家族という集合体の不完全さについてはあまり理解したいとは思わないが、でもある意味核心をついているのかもしれない。
家族の愛ってややこしい。
デフォルメされてるけど、家族の本音や真実を知ることって大人になればなるほど難しいのかもしれないな。
ラストまでほとんど喋らないギャスパー・ウリエル演じるルイとは対照的に、真実から目を逸らそうと、わざとバカ騒ぎをするナタリー・バイ演じる母親や、兄を知りたくてたまらないレア・セドゥ演じる妹。
そして常に家族に対する苛立ちを隠せないヴァンサン・カッセル演じる兄の不協和音を聞かされ続ける中で、唯一マリオン・コティヤール演じる血の繋がらない兄嫁の自信なさげなおとなしい瞳だけがオアシスのように感じた。
ドラン監督の他の作品とはちょっとまた違った印象を受けるが、映像の美しさは相変わらず素晴らしいし、音楽の使い方もいい。
何よりもこの最後まで感情を圧迫されるような演出も今まで感じたこともないほどで凄かったけど、なんせこの作品によって出たもどかしい感情の掃き溜めが見当たらないのでもう2回目は観ないかな。
壊れそうな感じで、壊さないこのイライラ感は映画館の環境じゃないとうまく伝わらないかもしれない。
因みにまだずっとオアズケを食らってるようだ。
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