エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ (日本経済新聞出版) [Kindle]

制作 : 竹内純子 
  • 日経BP
4.09
  • (3)
  • (6)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 39
感想 : 6
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (206ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 今後の日本のエネルギー産業の在り方についての知見を得ようと思って読んだのだが、想定していたものは内容がまるで違っていた。デジタル技術の活用により我々の生活はどのように変わるのか、その中でエネルギーの在り方を探っていくという手法で検討していて、その射程はエネルギーにとどまらず、社会の在り方全体までを含んでいる。

  • 2050年に向けて日本が直面するであろうエネルギー問題を平易に解説した一冊。
    「電力小売り事業者が淘汰されUXコーディネーターに変化する」等、今後起こる社会の変化についてはややスタンスが強めに感じるところもあるが、変革ドライバとして挙げられている"5つのD"(※)に違和感はなく、それぞれの影響について一定合理的なviewが展開されているように感じた。
    本書の帰結は、上記に対する対応を誤ると系統設備等のインフラが維持できなくなるため、(一定の政治的困難は認めつつも)設備更新・費用負担・関連制度等の在り方を更新・修正していく必要がある、というもの。課題に対する対応については方向性程度の記載に留まり、やや具体性が薄いようにも感じるが、全体を通して十分に一読の価値はある一冊と思う。

    (※)5つのD:Depopulation(人口減少)、Decarbonization(脱炭素化)、Decentralization(分散化)、Deregulation(自由化)、Degitalization(デジタル化)

  • 平易な文で書いてあるが、Utilityの将来を多面的に鮮やかに描いている。
    Utilityが直面する5つのD(Depopulation、Digitalization、Decarbonization、Decentralization、Deregulation)を踏まえると20年後の電力会社は全く姿が変わっていると確信せざるをえない。Digitalization、Decarbonization、Decentralizationは自分の中では大きなテーマになっており、電力会社は先端Tech企業に転換するにはどういうアプローチをしないといけないのかを真剣に考えていかないといけないステージにきている。

  • パリ協定を契機に脱炭素化が経済合理性に叶うようになり、再エネの導入が飛躍的に進んでいる。太陽光(PV)や風力といった再エネ、原子力、CCS付き火力に今後の発電はシフトし、加えてエネルギーの電化が進む。今でもエネルギー使用の75%は非電化でこれらは電化により脱炭素化と省エネ化を進めていく。

    PVの価格が指数関数的に下がり、拡大が著しいがその行く末はエネルギー価格がゼロに近づきあらゆるものの価値がゼロに近づく世界。しかしPVのよう大量の分散化電源の導入は、既存の火力、原子力発電所の稼働率が下がり資本効率を悪化させる。加えてPVには慣性が無いため、周波数や電圧の維持(Δkw価値)ができないし発電量のコントロールもできない(kw価値)。現在のように発電量(kwh)にしか焦点を当てない制度では分散化電源電源が増えていった先で対応できないため、適切にkw価値とΔkw価値を評価する制度設計が必要だ。再エネの変動調整で期待されるのはストレージだが、特にEVの普及が鍵となる。

    IOTとブロックチェーン技術により機器単位で電力使用量を安価に把握できるようになり、企業も消費者も電気では無く、「テレビを見る体験」や「料理ができる体験」に対してお金を払うようになり、こうしたサービスを提供するUXコーディネーターに向けて電気は提供されるようになる。ブロックチェーン技術により機器同士が自動で会話し、電力の最適な運用を行う。
    脱炭素化圧力と技術の進歩により今後急速に電力システム改革が進むことを予感させる本です。

    ◯5つのD
    ・Decarbonization(脱炭素化)
    パリ協定: 今世紀後半にカーボンニュートラル達成
    ・Decentralization(分散化)
    再エネの導入により分散電源が増える。しかし風力や太陽光には慣性モーメントがなく、周波数を維持できない、コントロールには知恵が必要。
    また、ベース電源の利用率が下がり資本効率が悪くなる。
    ・Deregulation(自由化)
    メタボリックになった電気事業を競争環境に置きスリム化が目的、しかし最適化が進みすぎると投資家と社会で求める設備率に乖離が生まれ、停電や需要の小さい地域が無視されるため、規制も必要。
    これまでの自由化で実は電力価格は下がってない
    ・Digitalization(デジタル化)
    IOT, AIの導入
    モノから価値、体験を売るビジネスへ
    1. 徹底的に消費者の無関心に寄り添い、AIが個人の好みを把握し、足りないものは自動補充(アマゾン)
    2. ニーズを創造する。例)ナイキ: 運動を楽しむという体験を提供、そのためのデータ管理アプリを提供
    ・Depopulation(人口減少)
    2040年に半数の市町村の存続が難しくなる、2065年に8800万人、老年人口38.4%、

    ◯小売
    ・スマートメーターの普及で家電製品ごとの使用量が見える化されれば、電気ではなく電気を使うサービスの提供になる。
    ・ブロックチェーン技術によるmachine to machine取引、がマイクロ決済のコストを格段に下げる。
    ・電力会社は企業や家庭でなくUXコーディネーターへ電気を販売する。
    ・契約単位が機器や設備になるため、使う電力が事前にわかり、電気代の節約に繋がる。常に使う?一時的?→安い時間帯

    ◯発電
    ・電源の非化石化と需要側の電化
    ・電気は全エネルギーの25%しかなく、75%は直接燃焼。
    ・原子力は脱炭素化、エネルギー安全保障の観点から必要。しかし自由化された世界で初期投資が大きくリスクの大きい原発は難しい。そこで期待されるのが小型モジューラー原子炉SMR。投資リスクを抑え、負荷追従も可能、
    ・火力発電+CCS
    ・地球に到達する太陽光のエネルギーは1kW/1m2、地球全体でみると1hで年間消費量を賄える。

    ◯ネットワーク
    ・送配電事業は自由化されない。発電や小売りの競争が活性化するような公平な事業運営が必要。
    ・ユニバーサルサービスを見直し、コスト構造を顕在化させ、仕様に応じた電気代への上乗せが必要。
    ・託送料金は現在kwとkwhに課金する二部料金制。しかし使用量に応じた費用増分は小さく、ほとんどが固定費によるものなため、一本化が望ましい。
    自宅でPVを導入する場合送電線を使う必要が無くなるが、kwhに送電線の固定費の回収も含めて課金している現状だと、不当にPV導入圧力が働く。
    また、自宅にストレージを、導入してもhwhに課金される状態だと充放電で課金されてしまい導入が進まない。

    ◯発電所が提供する価値
    ・kwh: エネルギーとしての電気の価値
    ・kw: kwhを需要に応じて入手するための設備を確保する価値。
    →取引する仕組み: 容量メカニズム
    ・Δkh: 需給の変動をフォローし、周波数、品質等の品質を維持する価値。
    →取引する仕組み: アンシラリーサービス市場
    ☆kw, Δkh価値を適切に評価する制度設計が必要。公共財のため基準の設定が難しい。

    ◯EVの役割
    ・kw価値供給の担い手となる。全時間帯を通じて90%の車両は停車している。
    ・常に系統とつながった状態にするのはハードルが高い。
    ・自動車は個人が所有するものから、アグリゲーターが所有し、輸送サービスとkw価値の提供を行うようになる可能性がある。

  • 流読。要再読。
    エネルギー産業の今後の動き。技術的な予測はよくわかるが、サービスの展開はもう少し掘り下げが必要。

    ◯系統の中で慣性モ ーメントを持たない電源の比率が一定程度以上になると周波数の維持ができず、安定供給が難しくなります。

    ◯何をもって、安定した電力供給の確保とみなすかは、いくつか評価軸が考えられますが、投資が適切に促され、必要な設備が維持されるかどうかにまつわるアデカシ ー(adequacy)が重要です。

    ◯エンジンメーカーの旧来事業は8兆円の市場。ところが、航空業界全体は89兆円もの巨大なマ ーケットです。その中の課題を改善するというところにフォーカスした方が、実はビジネスとしては魅力的だったのです。

    ◯IoTによるセンシングやデータ解析機能により、最適な保全タイミングを見極めることが低コストでできるようになったのです。

    ◯計量や課金にかかる費用を軽減することができれば、機器・設備を契約単位とする世界が実現する可能性は極めて高くなってきます。

    ◯設備単位の契約を実現するためには、いくつかのハードルがあります。例えば、計量法(法律)の緩和です。現在の計量法の下では、これら各機器のセンサーも取引に活用するのであれば、所定の検定が必要になってしまい、計量・課金のコスト低減の恩恵を得ることができません。

  • 漠然と「化石燃料の枯渇」という課題については知っていたが、
    「人口の急激な減少」
    「IoT発展によるUtility3.0の台頭」
    などエネルギー産業の未来には様々なゲームチェンジが起こるようだ。
    マクロ的にどう動くべきかという示唆は与えられるが、結局我々市民はミクロ的にどう行動していくのがよいのだろうか。

全6件中 1 - 6件を表示

著者プロフィール

1966年高知県生まれ、上智大学大学院外国語学研究科国際関係論専攻博士前期課程修了、デンヴァー大学大学院国際関係学部博士課程修了(国際関係論、Ph.D.)。日本国際フォーラム研究員、明治大学専任講師を経て、現在、明治大学政治経済学部助教授。主著に『同盟の認識と現実』(有信堂、2002年)、Alliance in Anxiety (New York: Routledge, 2003)、「9・11後の米中台関係」日本国際問題研究所『国際問題』(2004年2月号)がある。

「2004年 『比較外交政策 イラク戦争への対応外交』 で使われていた紹介文から引用しています。」

伊藤剛の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×