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感想・レビュー・書評
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関東大震災後の昭和2年に復興助成金で建てられた、当時としては珍しかった鉄筋コンクリート造りの雑居ビル「九段下ビル」。
昭和初期には東京のランドマークの一つとなり、80年を超える歴史を重ねたが、2011年の東日本大震災で被災し、翌12年に解体された。
大震災によって生まれ、次の大震災によって歴史を閉じる数奇な運命を辿ったことになる。
この歴史的建造物を舞台にしたオムニバス・コミックが、『九段坂下クロニクル』である。
元々は、マンガ家一色登希彦の仕事場がこのビルにあったことから着想した企画だという。
一色を中心に、彼の当時の妻・元町夏央や弟子の朱戸アオなど、計4人が参加し、それぞれ異なる時代の九段下ビルを舞台に物語を紡いでいる。
4編の舞台となるのは、ビルが建った昭和初期、太平洋戦争末期、バブル末期、そして21世紀――。
私は、『リウーを待ちながら』や『インハンド』ですっかり気に入ってしまった朱戸アオの初期作品目当てで読んだ。
朱戸の初長編『Final Phase』よりも前の2009年に刊行されており、共著とはいえこれが彼女の初単行本である。
医療マンガの描き手として脚光を浴びている朱戸が、本作では太平洋戦争末期の一人の女性の愛の軌跡をドラマティックに描いている。
いまのところ、医療マンガ以外の朱戸作品が読める唯一のコミックスなのだ。
収録作4編はそれぞれ面白いが、やはり朱戸の「此処へ」が群を抜く出来。短編ながらも見せ場がいくつもあるし、ストーリーもよくできている。彼女は最初から只者ではなかったのだ。
それ以外の作品では、元町夏央の「ごはんの匂い、帰り道」がよかった。昭和初期を舞台にしたリリカルな「ゆるゆり」マンガである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2012年に解体された九段下ビルをテーマにしたアンソロジー。各話それなりに面白かったけど、どれもノスタルジー色が強すぎるのと、微妙にどこかで読んだような話なのと、そもそも九段下ビル自体に思い入れがないのとで、あまり印象には残らなかった。