ホロコースト生き残りの父を持つイスラエル人作家による、ミサイルの飛来がもはや日常に組み込まれてる感のある日々。運賃をごねるタクシーに、いま戦場では同胞が…ということで納得させる言説が成り立つような。常時の徴兵制で国を守る環境の一方、我が子は戦争に行ってほしくないという作者の妻であり息子の母である女性の本音。ユダヤ教徒=シオニスト=イスラエル国家という等式は成り立たず、またユダヤ教徒内にも超正統派から一般的な教徒までグラデーションがあること。「コーヒー」を何語で言うかだけで緊張が走り一触即発になることを避けるため「エスプレッソ」とイタリア語で統一することで解決がはかられる環境。ホロコースト生き残りの父の、自分が何も失うものがないときに決断するのが一番いい、という性向。超正統派の男性と結婚した姉のことを「その時死んだ」と表現すること。おそらく日本の日常に生きていてはふれることのない考えだったり、環境だったり、性向だったりを、まずは知ることからしか始まらないのかと考えつつ読み進めていった。◆10月7日以降の事態について、どう考えているのか知りたくなって、「新潮」2024年1月号のケレットの文章を読んだが、一読の価値ありだった。◆ある読書会の2024年1月の課題図書に選ばれたので手に取った一冊。以下備忘録として。◆作家とは聖者でも義人でもなければ門に立つ預言者でもない。普通の人よりいくらか鋭い知覚を持ち、ぼくらの世界の思いもよらないような現実を普通の人よりちょっとだけ正確なことばを用いて描いてみせるだけで、ほかは普通の人と同じ、ありふれた罪人に過ぎないのだ。◆それでも国外では時としてイスラエルという国家を代表せざるを得ないし、それを避けようとはしない。ケレット自身の言葉によれば、「国内では裏切り者として、そして国外ではイスラエル人としてボイコットされ」てもだ。◆