ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • メリキャット、お茶でもいかがとコニー姉さん。
    …そんなフレーズがやがて耳に残るようになる、なんとも不思議な読後感を残した小説でした。

    主人公=メリキャットの一人称で語られる物語は、自分と姉と叔父と飼い猫だけで閉じた世界こそが完璧で、村の人々や親戚は意地悪で憎悪の対象で絶対的。

    死んでしまえばいいのに、と幾度となく呪いの言葉をうたうように挟み込みながら、物語はただの閉じた日常からやがて不穏を強くにじませていく。けれどふと気づかされる。そもそも不穏がまずそこにあったのに、メリキャットがあまりにも気にしないから淡くしか認識させられてなかったけれど、同じ家に住まう家族が何人も死んでいることこそ、不気味で恐ろしいことなのでは、と。

    村の人々がおかしいのでなく、この妹が、おかしいのでは。と、徐々に語り手に不安を募らせていくと、物語の性質に澱みと怖ろしさを深めていく。そうして絶対的な事件が起こり、ぞっとした恐怖を横たえたまま物語は終わる。

    なにもかもはっきりとはさせられない。まじないに頼り無邪気に姉にご飯をねだるまるで幼女のような(実際は十代後半である)メリキャットの語りでしか、話は綴られないのだから。だからこそ、その隙間から仄見える、「本当はこうであったかもしれない」という余白の底知れなさにくらくらと恐怖を覚える。この物語は、そんな性質を帯びているように感じました。

  • 姉との平穏な生活だけを望み、邪魔なものを排除するためならなんでもする、幼く無垢で狂気に満ちたメリキャットの視界で語られる物語は、悲惨な現実すらもどこか軽やかに描かれ、むしろ現実こそが狂っているかのように見えてきます。
    お金も、高価な金鎖も、メリキャットにとってはまじない道具程度の価値しかありません。
    メリキャットの幸せ、そしてその価値観は現実社会には迎合しません。
    社会と完全に断絶し、姉と2人きりの箱庭と化した『お城』での生活を手に入れた時になってはじめて、憎悪と拒絶と排他のみを向けてきていた社会…村人たち…が、謝罪と懺悔と贈り物を捧げるようになるのはなんと皮肉なことでしょう?
    このまま時が進み、姉妹が城で朽ちたとて、きっとメリキャットの作り上げた世界はそこにあり、人々の間で寓話になることでしょう。
    毒入り紅茶を差し出す姉と、毒入りでしょう?と笑うメリキャットの、なにひとつ真実を含まず、けれど幸福な姉妹の歌とともに。

  • もう一度時間が経ってから読み返したいかな。
    正直に、第一章がかなり読みづらく感じてしまい(メリキャットが語っているのだから仕方ないとは言えど)なかなか物語が始まらない……始まったと思ったら終わってしまった……という無念な感想になってしまったので。
    全員どこかおかしい。お城が燃えた日に嘲るような態度を取っておいて、あの時はごめんなさいと二人に謝りながら食糧を届ける村の人々の愚かしさなどザワつく箇所はあるものの、どこまでも煙に巻かれたような印象だけが残った。

    で、いつものように他の方のレビューなどを読み漁って、また最初の一文「メリキャットは十八歳」にゾワッとしてしまいました。あまりに幼すぎる言動で行っても十五歳くらいかと。お姉さんも二十八だもんね……。
    家族が全員死ぬ前にも恐らく似たような事件をたびたび起こしていたのでは、というのも頷ける。チャールズも嫌な奴ではあるけれど(これもメリキャット視点からなのでどんなものかわからない)コンスタンスをなんとか助けようとしていたのかも?
    それら全てを呪ってメリキャットはコンスタンスと二人きりで幸せ。コンスタンスもついに狂気に飲まれておしまい。
    二人の女(少女ですらない)が「いる」のか「いない」のかわからない朽ちた城で恐怖だけがジリジリ高まって、そのうち怪談になって魔女伝説になっていくのかなあ。

  • 文庫で読んだけれど、電子書籍しかないので登録。
    宮部みゆき著「過ぎ去りし王国の城」(角川文庫)の作中と解説に本著の記述があったので読んでみた。
    本著の解説でも絶賛しているけれど、読みづらくて読み終えるために読んだ感じ。

  •  過去に毒殺事件が起こった屋敷に今も住んでいるメリキャットと姉のコニー、叔父さんの日常。
     メリキャットの仕事は週に1回、街に食料の買い出しに行くこと。コニーは毎日畑仕事で野菜を収穫して、食事を作る。おじさんは過去の事件の資料をひたすらまとめている。
     街で向けられる好奇の目、事件を揶揄する歌、黒魔術のようなおまじない、主人公の18歳とは思えない言動と行動、毒の植物にやたらと詳しいコニー、ヒ素を盛られてから身体がうまく動かない叔父さんの介護……ルールがあるような、ないような、
    なにかとてつもない隠し事がありそうな、奇妙な毎日が主人公のメリキャット目線で語られる。

     読んでいて、「ん?これはおかしいぞ?何かの伏線か?」と思うことが多々あるけど、最後に回収するわけでもなく、ただただ、街の人から隠れて暮らす毎日を、続ける変わり者の家族が描写されている。その中心に、過去の事件の概要、真の黒幕が誰なのかという暗い流れがあるせいで「あやしい箇所をみつけてやるぞ!」って意気込みで続きを読み進めてしまう。でも大した収穫もなく、話は淡々と進む。そして長い……。

     結局、事件の真犯人がわかっても、動機もしっかりわからないので、推理モノのように、全ての伏線を回収してスッキリ!という話ではない。(もともとこういう作風っぽい)
     作品全体に流れる、妙な感覚が癖になる人には、何度読んでも面白いのかもしれない。映画だと「私はゴースト」ってB級映画が近い印象。アレ好きな人は楽しめるかも。何年か後にもう一回読みたくなるかも。

  • お茶でもいかがとコニーの誘い、毒入りなのねとメリキャット…。不気味な唄声が暗示する惨事の影。閉ざされた館に高まりゆく愛と死と狂気。モダン・ゴシックの女王の最高傑作。

    1962年の作品で、日本では1994年に翻訳版が出版されたそうである

  • メリキャットによって語られていく残酷で儚い物語は真実なのか? 私たちが文字で体感していくものは掴めそうで掴めない砂のごとく。ジュリアンおじさんの姪のメアリは死んだという言葉がすごく気になるけど、本気で考えたらコンスタンスに「そんなこと考えてどうするの? おばかさんね」と笑われそうである。

  • あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。ほかの家族が殺されたこの屋敷で、姉のコニーと暮らしている…。悪意に満ちた外界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々。しかし従兄チャールズの来訪が、美しく病んだ世界に大きな変化をもたらそうとしていた。“魔女”と呼ばれた女流作家が、超自然的要素を排し、少女の視線から人間心理に潜む邪悪を描いた傑作。

  • メリキャットはもしかしたら自分には興味がないのかもしれない
    最初から姉にしか興味をもたず、きっとずっと姉に憧れていた
    家族というのは彼女の中で血の繋がりだけが存在する他人で、でもその中でも美しく優しい姉だけは特別だった
    多分メリキャットは美人ではない
    タカラヅカの娘役や同性アイドルに熱狂的になる地味な女性たちに通じるものがあると思う
    女は入れ込んだ美しいものを全肯定して守りたいと執着することがあるから
    あまりに女の濃度の濃い内容
    好みだった

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