「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ−これからの製造のトレンドとエコシステム (NextPublishing) [Kindle]

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  • インプレスR&D
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感想・レビュー・書評

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  • 深センで2001年からハードウェアを作り続けている人の本。ちょうどキャリアが深センが激変していく時期と一致するため、スタートアップの地としての深センの生き字引的な人である。深センで製造したいと考えている人は読んでおきたい。

    なぜ深センにスタートアップが集まるのか、その経緯がわかるのが良い。それとともに、深センでモノづくりをしようというのなら、どういったリスクがあるのかも少し見えてくる。いくら量産が簡単になったとは言っても、細かく現場を管理していかないといけないことがよく分かる。

    Amazonで似たような製品が複数のメーカーから発売しているなと以前から思っていたが、その理由がこれを読んでわかった。似たような、ではなく同じと考えた方が適切なようだ。ただ、金のあるメーカーは内部を改造したりしているので、結局は信頼できるメーカーの製品を買うのが正解のようだ。

  • 現場からの生の声という意味では参考になる。そこから汎用的に得られる情報を提供してくれようとしていることは伝わるし、実際ある程度はそうだと思う。が、それでもやはり自叙伝の域は越えていないと思う。

  • タイトルは随分カタイのだが、内容は著者の深圳での冒険記という感じで、あっという間に読み終わってしまった。本書を読めばよむほど、地理・歴史・政治制度によってある意味「偶然」作り上げられた現在の深圳を日本にコピーしようなどというのは、無意味かつ不可能な企てであるということがよく理解できる。

  • 著者は、25歳だった2001年に日本の上場企業から香港資本のベンチャー企業に転職し、そこから深センでの電子機器製造との関わりが始まった。
    現在では、深センを本拠にしたEMS(電子機器受託製造)企業の経営者となり、日本の若い起業家のスタートアップ支援も行っているという。
    彼の半生と重ねながら、深センが「ハードウェアのシリコンバレー」「紅いシリコンバレー」と呼ばれるまでの世界一の電子機器ハードウェア製造開発の集積地となった過程を解説している。
    紙面量は少なくてすぐ読めてしまうが、とても刺激的な内容に満ちた快作だ。

    まず「白牌/貼牌」「山寨」「公板」といった深センの製造サプライチェーンを特徴づける独特な概念が紹介される。
    白牌とはノンブランドのこと。白紙のノートのように後から別のブランドを書き込むことができる。
    貼牌とは、その白牌製品に企業のロゴをつけたり、塗装を変えたりしてブランドを貼り付ける行為。
    山寨は「コピー品」「ノンブランド品」「無認可品」のことだが、電子機器製造の世界では、独自の設計、部品、ソフトウェアを使わない製造手法のことをも指す。
    公板はパブリック・ボードと呼ばれ、ある特定の製品用に設計された基板を一般販売するもの。

    こういった製品・部品サプライチェーンをうまく利用すれば、普通では考えられない低コストで電子機器の完成品を製造することができる。
    深センの製造業は殆どの工程を外注していることが特徴で、垂直統合、水平分業ならぬ「垂直分裂」と表現されるという。

    もちろん、素人がいきなり深センに乗り込んでいっても、このサプライチェーンを活用することは難しい。
    深センのエコシステムや商慣行を深く理解する目利き力や人脈が必要となる。
    長年、ここ深センで試行錯誤しながら取引を繰り返してきた著者は、それを備えていることが強みとなっている。

    もちろん、中国人とのビジネスは苦労の連続だったという。
    著者が中国人と日本人の違いを語った部分を以下引用する。

    <div style="padding-left:20px"><font color="navy">私は日中ビジネスマンの違いは「損して得するが日本人、中国人は得して得する」だと言っている。今回は損しても仕方がないという考えはないのだ。 1回 1回の取引でメリットがなければやらない。超近視眼的な取引であるが、人間関係も社会も変化が激しい中国ではこうして生きるしかないのだろう。</font>

    <font color="navy">深?を見て欲しい 。 1人 1人は超合理的で情に流されない中国人だが、深?全体を見てみるとエコシステムという形で人の力を借りて生きる世界が生まれている。日本は真逆だ。 1人 1人の人間は親切だが、全体を見てみるとバラバラ 。協力することなく、ばらばらに動いている。</font></div>

    この深センの興隆ぶりを見て、深センを日本でも再現したいという話が出るが、それに対して著者は以下のようにきっぱりと見解を述べる。

    <div style="padding-left:20px"><font color="navy">だがそれは無理だ。本書をここまでお読みになった方は分かるだろうが、世界に 1つしか存在できない、希有な場所が深?なのだ。目指すべきは深?のエコシステムを日本も活用すること、そこから利益を上げられるような枠組みの作り方だ。日本で要素部品を作り、それを深?で活用してもらう。そうした関係も十分考えられるはずだ。ないものねだりや無謀な発想ではなく、今の状況を十全に理解した上でどう動くのか、現実的な判断が必要だ。</font></div>

    とにかくダイナミックなハードウェアの都。
    一度、身をもって体験してみたいものだ。

  • 深センに行く前に読んでおこうと、一気に読了。著者は2000年前半から深センでビジネスをし、2011年から企業。開発特区となった深センのダイナミックな移り変わりを自身の体験をもとに綴っている。
    中国と日本の開発・生産が根本的に異なること、中国人とビジネスをすることの大変さ、そしてなぜ紅いシリコンバレーと呼ばれるほどに成長したのかが、とても良くわかる渾身の一冊である。そして返す刀で、ものづくり大国としての凋落著しい、日本の不甲斐なさを痛烈に批判もしている。

    この本はKindleで読んだが、ハイライトした部分をメモとしてメールで自分のところに送信できる機能があって感激。すばらしい!

  • 深センの製造業の今を伝えてくれる一冊。
    現地でローカル企業とやりとりしながら、日本の品質要求に応える日系企業の社長による臨場感あふれるレポートで、とても面白かった。

  • Kindle

  • 単身、深センに乗り込んでジェネシスというEMS(電子機器受託製造)会社を立ち上げた藤岡さんの書かれた本です。

    如何にして深センは、「ハードウェアのシリコンバレー」と言われるまでに発展したのかについて、深センでずっと仕事をしてきたからこそ分かる視点で書かれています。

    深センのものづくりエコシステムは、多くの部品メーカーや製造工場だけで成り立っていません。
    デザインハウスが誰でも作れるリファレンスデザインを提供しているからこそ成り立っています。
    そのようなエコシステムだからこそものづくりがスピーディーに行えることが理解できました。

    藤岡さんも言っているように「サービスやソフトウェアが差別化ポイント」です。

    ハードウェア製造の厄介さから解放されて、差別化ポイントを重点的に考える為にも、深センという街はものづくりにとって魅力な場所であると感じました。

    今、衰退の一途をたどると言われている日本のものづくり。ただ、深センに追い付こうとするだけでなく、深センをうまく活用する事を考えるのも日本を発展させる方法の1つのかもしれませんね。

  • 深圳で電機メーカーを経営する藤岡さんの本。帯に「たった一人で深圳へ乗り込んだ、若き経営者の10年奮闘記」とあるように、藤岡さんが深圳で起業するに至る経緯から、深圳での工場経営の苦労など、まさに半生記として記されている。現地で社員を雇用して工場運営する上で身についていった深センの文化などもよくわかる。

    日本のハードウェア・スタートアップも、量産を深センでする場合が増えているが、量産するときに単に単価の安い工場として深センを使ってもダメで、エコシステムに上手く乗らなければいけない、ということがよくわかる。

    ニコ技深センツアーで藤岡さんの会社「JENESIS」の工場見学に行ったときにもお話しを伺ってとても興味深かったのだが、この書籍ではその興味深い話がより凝縮されて余すところなく書き記されている。

    --
    有象無象の会社を知っているだけでは役にたたない。どの企業が信頼がおける会社なのかを知り、彼らと表面上ではなくビジネスの付き合いができるようになって初めてネットワークを作ったと言える。
    お年玉を貯めてこの商品を買ってくれた中学生はがっかりしないだろうか
    モデルとなったのは秋葉原の電気街
    海賊版を作っていた会社と展示会で商談
    初めてハードウェア製造に挑むスタートアップ企業は私の提案を受け入れないことが多い。
    小ロットでも低コスト短納期の開発製造が可能な点が深圳の魅力だが、ひとたびエコシステムから外れると、こうしたメリットは一気に減じてしまう。
    ハードウェアの性能は必要最小限に抑えること
    クラウド側でできること(クラウドコンピューティング、ストレージ)はクラウド側に全部やらせるべき
    繁忙期である旧正月前の3ヶ月間は避けてほしい
    世界に1つしか存在できない、稀有な場所が深圳

  • 中国に対する認識の誤りに気づかせてもらいました。
    この本の内容がすべてではないでしょうが、1つの現実を知れたと思います。

  • シリコンバレーと言いながら、深圳の中身はアメリカと全く別物なんだなぁ。
    一言で言えば、スピード現金命だろうか?
    「信用」という言葉の意味が全く日本と違う。
    良い悪いの問題ではなく、生き残ったもの勝ちなんだろう。
    日本が生き残るためにはどうしたら良いんだろう?

  •  深圳は香港に隣接し、経済特区として急激に発展したことで知られる都市だ。ちょうど本書が発行された直後ぐらいに深圳を訪れた日本の若者がネット上に書いた記事が注目を集めた(現代ビジネス「日本が中国に完敗した今、26歳の私が全てのオッサンに言いたいこと」)。中国をよく知る人々の間でも評価が別れた記事だが、さすがにわずか数日滞在しただけではその奥深くまで理解することはできないだろう。

     私自身も広州に住んでいた頃は仕事で何度か深圳に行っている。ただし本書にあるような「ハードウェアのシリコンバレー」と呼ばれる電子機器関連の工場や店舗の多いエリアにはあまり行かなかったので、いわば深圳の真髄には触れることができなかった。

     本書の著者は2001年から深圳で電子機器の製造業に従事し、現地で独立起業して社長になった人物だ。深圳に住み、深圳のエコシステムの内側に入り込んで成功しており、ガイドとしては申し分ないだろう。著者が深圳で事業を展開してきた経緯に沿って深圳のなんたるかを解き明かしていく。

     あくまでも一人のビジネスマンが体験に基いて考察したものであって、ジャーナリストが多数の関係者を取材して全体像をまとめたわけではない。しかも著者は日本人、つまり当地においては外国人であり、中国人ビジネスマンとは異なる評価になっているかもしれない。その辺りは差し引いて考える必要がある。

     また、深圳の人口はほぼ東京に匹敵する。東京で20年働いたからと言って東京経済の全てを知り尽くせるものではないだろうし、まして深圳は東京とは比較にならないほど猛スピードで変化し続けている都市だ。本書にあることが深圳のすべてではない。

     それでも今私たち日本人が得ることのできる情報としてはかなり充実した内容なのではないだろうか。中国経済という混沌とした世界の中でも特に活気あふれる場所の具体的なあり方をぼんやりとでも把握しておくことは、多くのビジネスマンにとって刺激と参考になると思われる。

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著者プロフィール

1976年生まれ。株式会社ジェネシスホールデイングス代表取締役社長、創世訊聯科技(深セン)有限公司董事總經理。KDDI∞Labo社外アドバイザー、ピーバンドットコムやソースネクストの顧問を兼務。WIRED Audi INNOVATION AWARD 2019を受賞。2011年に中国・広東省深セン市で起業し電子製品の工場を経営。主に日本企業のICT・IoT製品の開発・製造受託や、スタートアップ企業の量産化支援を手がけ、案件相談や支援要請が殺到している。

「2020年 『プロトタイプシティ 深センと世界的イノベーション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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