ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書) [Kindle]

著者 :
  • 中央公論新社
4.07
  • (6)
  • (4)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 95
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (224ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ポピュリズムとは既得権益層への批判を多くの民衆の支持を直接的に受ける形で主張する政治活動のこと、と定義し、特徴を整理した本。米州、欧州そして日本と例示の対象が幅広く網羅的な分析になっていることがありがたく、またポピュリズムのうねりが世界全体に広がっていることを感じさせる。
    リベラルとデモクラシーという現代の価値観を体現する運動であり、活動の正統性を与えているという点、特に主張の代表格とされる反移民反イスラムも彼らの考えるリベラルにそぐわないとの理由から批判しているという点でリベラルの問題を表出させているという点は納得。また多くがカリスマ性のあるリーダーが率いているものの欧州では政治勢力として地位を築いており一過性のものでなくなっているという点は確かにと思った。
    ポピュリズムそれ自体が悪ではなく、政策の行き過ぎ、民意との乖離を是正するフェーズで必要な動きだろうと思う。それが政策として実を結ぶかはともかく、代案を出せとか何も分かっていないとか冷笑するのではなく、何故そうした主張をするのか良く考えてみないといけない。Brexitもトランプ当選も愚かの一言で片付けてはいけない、というのを、ポピュリズムという潮流自体が一過性のものではなく伝統的なイデオロギーに立脚したものであるという点から説き起こしており、予想できない現実に向き合う上で必読と言える。

  • 評判通り、とても素晴らしい本。具体例が多くてとてもわかりやすかった。極右的なポピュリズムはなんとなくわかってるつもりだったけど、リベラルゆえの排外主義的なポピュリズム、というのは認識してなくて勉強になった。デモクラシーに則るとポピュリズムを批判するのは難しい、というのも興味深かった。

  • ポピュリズムもまた民主主義の一部であり排除することはできない以上、どうやって飼い慣らしていくのか…という話でしょうか。リベラル的価値観とポピュリズムの親和性の高さみたいなものは確かにありそう。

  • ・ポピュリズムの地域別発展の歴史を紐解きながら、それをデモクラシーに内在する矛盾として提起する
    ・歴史を見れば、デモクラシーを危機にさらすものという見方は一般的ではない(20cのラテンアメリカでは労働者・弱者の地位向上、社会政策の展開を支えた)
    ・2つの定義:①固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える”政治スタイル”、②「人民」の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動(二項対立)(本書)
    ・デモクラシーとポピュリズム:
     #デモクラシーを実務型のみと捉えると、救済型(人民直接参加重視)がポピュリズムを生む。ポピュリズムはデモクラシーの後を影のようについていくる(カノバン)
     #デモクラシーへの寄与:①サイレントマジョリティの政治参加促進、②既存の社会的区別を超えたまとまりを生む、③政治の復権(経済や司法から重要事項を引き出す)
     #デモクラシーへの脅威:①立憲主義原則の軽視(権力分立)、②政治的対立・紛争の急進化(敵味方峻別思想)、③「良き統治」の妨げ(往々にして投票による一挙決定)
      →これらの発現は、当該国でデモクラシーが安定しているか、発揮するのが与党か野党か、によるとの論文
    ・南北アメリカの歴史(解放の論理)
     #米:人民党(別名ポピュリスト党)(1892)←資本主義発展に伴う都市労働者、地方農民の困窮に冷淡な金権2大政党に対抗し登場→農業州白人男性以外に浸透せず
     #中南米:
      -寡頭支配層(オリガルキア)による権力独占に終止符→1930代の大恐慌で国際貿易体制が瓦解し権力源泉である農鉱産品の輸出が困難に→中間層出身リーダー登場
      -生じやすい土壌:格差(ジニ係数50超)、存在感あるインフォーマルセクターには代表機関がない
      -特徴:①交通・コミュニケ手段活用(遊説、ラジオ、TV)、②階級間連合、③輸入代替工業化(輸入品国産化)、④ナショナリズム(国有化・文化政策)、⑤インクルーシブ
      -代表例:アルゼンチン ペロン(大統領在職1946-55、73-74)←労働組合支援から成長→後期は経済成長落ち込みで幕切れ・亡命
    ・ヨーロッパの歴史(抑圧の論理)
     #1990年代以降にポピュリズムの舞台となった理由:①冷戦終結・統合・グローバル化で既成左右政党の政策差異縮小・受入れ→ポピュリスト政党の切込みの有効性、
      ②既成組織(労組・農民団体等)弱体化と無党派層増大、③グローバル化に伴う格差拡大による既成エリートへの不満
     #特徴:①マスメディア駆使による無党派層への訴求、②反民主・反体制・反ユダヤ→民主的原理の受入れと直接民主主義主張
           ③福祉排外主義(社会保障充実は支持しつつ、移民によるその利用を排除)
     #フランス:国民戦線(FN)(1972年創設株)。マリーヌ・ルペン(父親のジャン=マリー・ルペンが初代党首(当初右翼系でその後民衆階層支持基盤獲得)
     #オーストリア:自由党(1956創設←元ナチ党員により)。ハイダー党首(1986就任)後、脱皮
     #ベルギー:VB
    ・リベラルゆえの「反イスラム」:デンマーク国民党、オランダ自由党
     #上記3国と異なり設立時からデモクラシーを受入れ、リベラル的価値を掲げた上でイスラム移民を批判(政教分離・男女平等を唱え、この近代的価値を受け入れないイスラムを批判)
    ・イギリスのEU離脱とポピュリズム
     #独立党(1993創設)→ファラージ頭角→EU議会や都市優先のブレア政権下での地方票獲得により拡大→移民政策の争点化→工業衰退地域の「置き去りにされた人々」の支持拡大
    ・ドイツ:ポピュリズム的新党の登場の障壁→議席獲得に得票率5%以上、反民主的政党の禁止→そうした中、AfD(ドイツのための選択肢)登場(反ユーロで始まり反移民に傾斜)
    ・ポピュリスト政党が狙う”特権層”の相違:中南米→富裕層を批判し分配を求める、欧州→再分配で保護された層(生活保護、公務員、福祉対象になりやすい移民)を引きずりおろす
    ・まとめ:①「リベラルなデモクラシー」との親和性(反体制色からの脱却)、②持続性(特定リーダーのカリスマ依存からの脱却)、③改革と再活性化の効果

  • 世界中で猛威を振るう「ポピュリズム」とは、どのようなものなのか。ポピュリズムの定義、民主主義との関係、その誕生と変遷について説いた書籍。

    ポピュリズムには、次の2種類の定義がある。
    ①リーダーの政治戦略・政治手法としてのポピュリズム:固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える。
    ②政治運動としてのポピュリズム:「人民」の立場から既成政治やエリートを批判し、政治変革を目指す。
    この政治運動としてのポピュリズムが、世界各国を揺るがせている。

    国民投票や首長の直接選挙を訴えるなど、ポピュリズムの主張の多くは、デモクラシー(民主主義)の理念と重なる。「反民主主義」と一概にいうことはできない。

    ポピュリズムが現れたのは、19世紀末のアメリカ。1892年に創設され、2大政党の支配に挑んだ人民党は、別名ポピュリスト党といわれた。こうした、人民の側からエリート支配を批判する政治運動が、以後、ポピュリズムと呼ばれるようになる。

    21世紀に入り、ヨーロッパではポピュリズム政党が躍進した。その理由として、次の3つが挙げられる。
    ①冷戦の終結で、左右の既成政党の求心力が弱まり、グローバル化とEU統合の進展のもと、政党間の政策距離が狭まった。
    ②既成政党や労働組合などの組織が弱体化し、党員や支持者の数が減少した。そして、「無党派層」が増大した。
    ③グローバル化に伴い、格差が拡大する中、グローバル化やEU統合を受け入れる政治エリートに対する不信が高まった。

    2016年の米大統領選挙でのトランプの当選は、ポピュリズム現象といえる。彼はエスタブリッシュメントを批判し、「アメリカ第一主義」を訴えて、勝敗のカギを握る、ラストベルト(さびついた地域)と呼ばれる旧工業地帯の人々の支持を得た。

  • 桜井誠の党のことかと思った。

  •  日米欧の昨今の政治情勢に共通しての疑問があった。選挙の結果をポピュリズムと批判するならば、民主主義の意義とはなんなのだろうかと。

     本書では、上記の疑問になるべく中立的(思想ではなく制度と意義の解説に徹する)な立場から上記の疑問に見事に回答している。

     たまたま「なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図」を直近によんでいたため、共通しての理解が深まった。おもしろいのは、本書で解説するポピュリズムはどうやら米国流リベラルと保守の両方の側面を併せ持つものなのである。

     リベラルとしてはエリートと非エリートという階級的分断を強調することで、「忘れられた」「見捨てられた」と感じている民衆を惹きつけ、保守としては「自国の価値観」を押し出すことで反EU、反移民を政策とし、これまた「逼塞している」労働者たちからの指示を得る。さらに欧州では、反イスラムという保守的主張でさえも、「選択の自由を奪う」とリベラル的な価値観から正当化さえされている。

     これらに気づいたとき、これがなぜ日本のリベラル政党が躍進できないかの一つの答えなのではと思いいたった。ポピュリズム系の政党もしくはリーダーにより、元来は庶民の味方として振舞ってきたリベラル系ジャーナリズムとそれらが支持するリベラル政党こそが、真の敵エリートであるという役割を与えられてしまったからである。かれらの言葉は最早民衆に届かないであろう。

     ここで危惧されるのは、ポピュリズム政党(もしくは派閥)が民主主義にとって益をなすか害をなすかである。本書の事例では、デモクラシーが貧弱な国ではポピュリズム政党が政権を取ると権威主義化して害をなす。一方デモクラシーが発展した国では、既存の政党の革新を促す薬となりうるとしている。

     日本の既存の政党(保守もリベラル)もポピュリズムという口先の批判に終始するのではなく、成熟した民主主義国家として、自らの改革による民衆からの支持回復をはかることを期待したい。 

  • ポピュリズムの起源から、現代の広がりについて書かれています。世界的に聞くようになった言葉ですが、その定義が曖昧なままの状態でしたので、本書でそれを整理できたのはよかったです。ラテンアメリカからヨーロッパ、そしてアメリカへと。そこで起きたポピュリズム勢力による事件の背景に何があったのかを理解することができました。民衆を背後に持つことで、既成の権力に対抗する、その道具として使われるならば不幸です。しかし、それを既成の権力に軌道修正を迫る声として使うならば、民主主義に力を与えることになります。結局、どんな武器も使う人間次第なのだと思いました。

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

千葉大学大学院社会科学研究院教授(千葉大学災害治療学研究所兼務)

「2022年 『アフターコロナの公正社会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

水島治郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×