ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書) [Kindle]
- 中央公論新社 (2016年12月25日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (224ページ)
感想・レビュー・書評
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ポピュリズムとは既得権益層への批判を多くの民衆の支持を直接的に受ける形で主張する政治活動のこと、と定義し、特徴を整理した本。米州、欧州そして日本と例示の対象が幅広く網羅的な分析になっていることがありがたく、またポピュリズムのうねりが世界全体に広がっていることを感じさせる。
リベラルとデモクラシーという現代の価値観を体現する運動であり、活動の正統性を与えているという点、特に主張の代表格とされる反移民反イスラムも彼らの考えるリベラルにそぐわないとの理由から批判しているという点でリベラルの問題を表出させているという点は納得。また多くがカリスマ性のあるリーダーが率いているものの欧州では政治勢力として地位を築いており一過性のものでなくなっているという点は確かにと思った。
ポピュリズムそれ自体が悪ではなく、政策の行き過ぎ、民意との乖離を是正するフェーズで必要な動きだろうと思う。それが政策として実を結ぶかはともかく、代案を出せとか何も分かっていないとか冷笑するのではなく、何故そうした主張をするのか良く考えてみないといけない。Brexitもトランプ当選も愚かの一言で片付けてはいけない、というのを、ポピュリズムという潮流自体が一過性のものではなく伝統的なイデオロギーに立脚したものであるという点から説き起こしており、予想できない現実に向き合う上で必読と言える。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
評判通り、とても素晴らしい本。具体例が多くてとてもわかりやすかった。極右的なポピュリズムはなんとなくわかってるつもりだったけど、リベラルゆえの排外主義的なポピュリズム、というのは認識してなくて勉強になった。デモクラシーに則るとポピュリズムを批判するのは難しい、というのも興味深かった。
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ポピュリズムもまた民主主義の一部であり排除することはできない以上、どうやって飼い慣らしていくのか…という話でしょうか。リベラル的価値観とポピュリズムの親和性の高さみたいなものは確かにありそう。
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世界中で猛威を振るう「ポピュリズム」とは、どのようなものなのか。ポピュリズムの定義、民主主義との関係、その誕生と変遷について説いた書籍。
ポピュリズムには、次の2種類の定義がある。
①リーダーの政治戦略・政治手法としてのポピュリズム:固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える。
②政治運動としてのポピュリズム:「人民」の立場から既成政治やエリートを批判し、政治変革を目指す。
この政治運動としてのポピュリズムが、世界各国を揺るがせている。
国民投票や首長の直接選挙を訴えるなど、ポピュリズムの主張の多くは、デモクラシー(民主主義)の理念と重なる。「反民主主義」と一概にいうことはできない。
ポピュリズムが現れたのは、19世紀末のアメリカ。1892年に創設され、2大政党の支配に挑んだ人民党は、別名ポピュリスト党といわれた。こうした、人民の側からエリート支配を批判する政治運動が、以後、ポピュリズムと呼ばれるようになる。
21世紀に入り、ヨーロッパではポピュリズム政党が躍進した。その理由として、次の3つが挙げられる。
①冷戦の終結で、左右の既成政党の求心力が弱まり、グローバル化とEU統合の進展のもと、政党間の政策距離が狭まった。
②既成政党や労働組合などの組織が弱体化し、党員や支持者の数が減少した。そして、「無党派層」が増大した。
③グローバル化に伴い、格差が拡大する中、グローバル化やEU統合を受け入れる政治エリートに対する不信が高まった。
2016年の米大統領選挙でのトランプの当選は、ポピュリズム現象といえる。彼はエスタブリッシュメントを批判し、「アメリカ第一主義」を訴えて、勝敗のカギを握る、ラストベルト(さびついた地域)と呼ばれる旧工業地帯の人々の支持を得た。 -
桜井誠の党のことかと思った。
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日米欧の昨今の政治情勢に共通しての疑問があった。選挙の結果をポピュリズムと批判するならば、民主主義の意義とはなんなのだろうかと。
本書では、上記の疑問になるべく中立的(思想ではなく制度と意義の解説に徹する)な立場から上記の疑問に見事に回答している。
たまたま「なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか アメリカから世界に拡散する格差と分断の構図」を直近によんでいたため、共通しての理解が深まった。おもしろいのは、本書で解説するポピュリズムはどうやら米国流リベラルと保守の両方の側面を併せ持つものなのである。
リベラルとしてはエリートと非エリートという階級的分断を強調することで、「忘れられた」「見捨てられた」と感じている民衆を惹きつけ、保守としては「自国の価値観」を押し出すことで反EU、反移民を政策とし、これまた「逼塞している」労働者たちからの指示を得る。さらに欧州では、反イスラムという保守的主張でさえも、「選択の自由を奪う」とリベラル的な価値観から正当化さえされている。
これらに気づいたとき、これがなぜ日本のリベラル政党が躍進できないかの一つの答えなのではと思いいたった。ポピュリズム系の政党もしくはリーダーにより、元来は庶民の味方として振舞ってきたリベラル系ジャーナリズムとそれらが支持するリベラル政党こそが、真の敵エリートであるという役割を与えられてしまったからである。かれらの言葉は最早民衆に届かないであろう。
ここで危惧されるのは、ポピュリズム政党(もしくは派閥)が民主主義にとって益をなすか害をなすかである。本書の事例では、デモクラシーが貧弱な国ではポピュリズム政党が政権を取ると権威主義化して害をなす。一方デモクラシーが発展した国では、既存の政党の革新を促す薬となりうるとしている。
日本の既存の政党(保守もリベラル)もポピュリズムという口先の批判に終始するのではなく、成熟した民主主義国家として、自らの改革による民衆からの支持回復をはかることを期待したい。 -
ポピュリズムの起源から、現代の広がりについて書かれています。世界的に聞くようになった言葉ですが、その定義が曖昧なままの状態でしたので、本書でそれを整理できたのはよかったです。ラテンアメリカからヨーロッパ、そしてアメリカへと。そこで起きたポピュリズム勢力による事件の背景に何があったのかを理解することができました。民衆を背後に持つことで、既成の権力に対抗する、その道具として使われるならば不幸です。しかし、それを既成の権力に軌道修正を迫る声として使うならば、民主主義に力を与えることになります。結局、どんな武器も使う人間次第なのだと思いました。