武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50 [Kindle]
- KADOKAWA (2018年5月18日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (338ページ)
感想・レビュー・書評
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古今の著名な哲学者や社会心理学者、文化人類学者、神経科学者などが主張・提唱しているの50の「哲学・思想のキーコンセプト」を紹介した教養書。
面白かったのは、ニーチェの「ルサンチマン」(いわゆる "やっかみ" )を解説したところ。「ルサンチマンは、社会的に共有された価値判断に、自らの価値判断を隷属・従属させることで生み出され」るのであり、「いわゆる高級品・ブランド品が市場に提供している便益は「ルサンチマンの解消」と考えることができ」、「ルサンチマンを生み出せば生み出すほど、市場規模もまた拡大する」という。高級品ビジネスが「ルサンチマン」を巧妙に生み出す、人間の本性に根差した賢いビジネスであることが理解できた。また、「ルサンチマンを抱えた人は、多くの場合、勇気や行動によって事態を好転させることを諦めているため、ルサンチマンを発生させる元となっている価値基準を転倒させたり、逆転した価値判断を主張したりして溜飲を下げようと」する反応を取ることがあるという。「聖書」や「共産党宣言」が「ルサンチマンに根ざした価値判断の逆転」を提案するキラーコンテンツとしての面があるということ、頷けた。
このほか、本書で響いた部分をピックアップしてみる。
「行為は、その行為による報酬が必ず与えられるとわかっている時よりも、不確実に与えられる時の方がより効果的に強化される」、「不確実なものほどハマりやすい」
「悪とは、システムを無批判に受け入れることである」
「社会の圧力が行動を引き起こし、行動を正当化・合理化するために意識や感情を適応させるのが人間」
「自分の良心や自制心を後押ししてくれるような意見や態度によって、ほんのちょっとでもアシストされれば、人は「権威への服従」を止め、良心や自制心に基づいた行動をとることができる」
「人が創造性を発揮してリスクを冒すためには「アメ」も「ムチ」も有効ではなく、そのような挑戦が許される風土が必要だということであり、更にそのような風土の中で人が敢えてリスクを冒すのは「アメ」が欲しいからではなく、「ムチ」が怖いからでもなく、ただ単に「自分がそうしたいから」」
「戦前には村落共同体が、高度経済成長期からバブル期までは企業が担っていた、社会におけるゲマインシャフト的な要素は、何が担うことになるのか。 鍵になるのは「ソーシャルメディア」と「2枚目の名刺」だろう、というのが私の考え」
「私たちが安易に「究極の理想」として掲げる「公正で公平な評価」は、本当に望ましいことなのか。仮にそれが実現したときに「あなたは劣っている」と評価される多数の人々は、一体どのようにして自己の存在を肯定的に捉えることができるのか。そのような社会や組織というのは、本当に私たちにとって理想的なのか。」
「科学理論というものは「反証可能性を持つ仮説の集合体」でしかない」
「つまり、用途市場を明確化しすぎるとイノベーションの芽を摘むことになりかねない一方、用途市場を不明確にしたままでは開発は野放図になり商業化は覚束ない」
いずれも含蓄のある言葉。記憶に留めておきたい(まあ忘れてしまうだろうけど)。
巻末で著者が紹介している参考図書のなかでは、以下の本を読んでみたいと思った。
○マックス・ヴェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」
○エーリッヒ・フロム「自由からの逃走」
○アダム・ハート=デイヴィス「パブロフの犬:実験でたどる心理学の歴史」
○キャサリン・コーリンほか「心理学大図鑑」
○内田樹「寝ながら学べる構造主義」
○橋爪大三郎「はじめての構造主義」
○レヴィ=ストロース「悲しき熱帯」
○アントニオ・R・ダマシオ「デカルトの誤り」
○東浩紀「一般意志2・0」
○堂目卓生「アダム・スミス」
○マット・リドレー「進化は万能である」
○マルセル・モース「贈与論」
○ジャン・ボードリヤール「消費社会の神話と構造 新装版」
○ナシーム・ニコラス・タレブ「反脆弱性」上下
そういえば、「反脆弱性」、何年か前に買ってあったよなあ。 -
ビジネスパーソンが「使える」発想、もしくは発想のヒントを、50人の哲学者の言葉から取り出して簡潔に書き連ねた一冊。
50の言葉のうち10くらい当たれば良いかなと、バスタブに浸かりながらkindleアプリで読み始めたところ、10どころか30以上はマーキングする結果に。こういう期待の裏切り方は大歓迎。
哲学入門として読むにはかなり怪しい感じがするけれども、手軽な自己啓発本、いや、もしかするとリラックス本として読むのもなかなかいいかもしれない。入浴中など緩んだ状態で読むと、人間ってヤツは古代からほとんど進化していない、しょうもない生き物なんだなぁと何だかおおらかな気持ちにもなる。軽いストレスなら石鹸といっしょに流せそうだ。思わぬ効用。 -
名前は聞いたことがあるがそれ以上深く知ることもできなかった哲学者や考え方をとてもわかりやすく、ざっくりと知ることができる。考え方を変えるだけで、世界がひろがる手応えを感じた。
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【考える過程】
哲学に決まった答えは存在しない。
考えることそのものが哲学であり、考えるというプロセスが哲学そのものなのでしょう。
したがって、出てくる答えは人それぞれで、考えた人の数だけ答えが存在するような状態です。
科学のように正しいか正しくないか、どれだけ時間をかけても証明できないものを哲学と呼びます。
答えはどうであれ、考えることそのものが哲学なのですから。 -
本書中でも強調されているが、時系列に依らない形で編まれた希少な哲学入門書。
「役に立つか否か」という、俗の極みのような観点からセレクトされた哲学者・項目は確かに「役に立つ」。
いわゆる「哲学者」以外、たとえばアラン・ケイなども紹介されているが現代社会を読み解くにあたってはむしろ「哲学者」の埒外にこそ目を向ける必要があるわけで、本書はそういった重要な役割もこなしている。 -
たくさんの哲学者が紹介され、それぞれの考え方などを紹介している。特徴的なのは哲学の歴史などを最初から説明するのではなく、“現在で必要な哲学”について解説していることだ。挙げられている思想は著者のピックアップなので、これで十分なのかどうかは初学者には分からないが、哲学の世界に入る入門にはよいのだろう。ただし、この1冊で哲学が分かるわけではない。むしろ、本書を知るべき対象を紹介しているのだと割り切り、もっと知りたい思想があれば関連書籍を読むことになる。そういう意味では、入門者が初心者になるための索引を提示している本なのだと思う。
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実生活における考え方、思考方法に応用できそうな哲学が解説されていて、とても参考になった。
<特に印象に残った2箇所>
パラノとスキゾ
『ほかの多くの人が「一度この船に乗った以上、最後まで頑張るんだ」と息巻いているなか、「僕はこの船と心中するつもりはありません。お先に失礼します」と言って逃げるとき、どれだけの勇気がいるだろうかと想像してください。(中略)むしろ勇気と強度を持たない人こそ、現在の世界ではパラノ型(前者)を志向し、それらを持つ人だけがスキゾ型(後者)の人生をしたたかに歩むことができる、ということです。』
未来予測
『いまある世界は偶然このように出来上がっているわけではありません。どこかで誰かが行った意思決定の集積によっていまの世界の風景は描かれているのです。 それと同じように、未来の世界の景色は、いまこの瞬間から未来までのあいだに行われる人々の営みによって決定されることになります。であれば本当に考えなければいけないのは、「未来はどうなりますか?」という問いではなく「未来をどうしたいか?」という問いであるべきでしょう。』 -
いや、いい本だった!
多くの哲学者が登場、マキャベリズムのくだりも良かったけど、膝を叩き、はっと思ったのは・・・ドゥルーズの「スキゾ」と「パラノ」だ。
日本でもバブル期に流行った言葉みたいだけど、本書によれば、この「パラノ」は偏執型で、「スキゾ」は分裂型と言われるという。
僕がこの概念に非常に興味を持った理由は、パラノは「●●大学を卒業し、●●会社に勤め、●●ヒルズに住んでる自分」というアイデンティティに固執するタイプで、一方で、スキゾは、自分の美意識や直感の赴くままに自由に動くタイプということ・・・これってまさにホリエモンのタイプであり、そして僕もそうであって・・・。
本書にある通り日本社会はパラノを持ち上げ、スキゾを卑下してきたけど、これからの社会は非常に不確実な時代に入ったと思う。その中で僕のようなスキゾタイプが思い存分活躍できれば・・・だったらいいな。 -
【本書の目的】
1.本書で紹介する 50 の「哲学・思想のキーコンセプト」は、筆者自身のコンサルティング経験から、「知っていて本当によかった」と思えるもの、いわば「修羅場を切り開くのに非常に有効だった」ものを厳選して紹介している。
2.ビジネスパーソンが哲学を学ぶメリットとして、二つ目に指摘したいのが「批判的思考のツボを学ぶ」という点。これらのコンセプトは「何について考える際に有効なのか」という「使用用途」によって整理することができる。
3.私たちの目的は「楽しく、自分らしい人生を送って、幸福になること」
【本書で紹介するキーコンセプト】
よくある「哲学をその発展の歴史順に記載」するのではなく場面の使用用途別にまとめている。
そのため、自分が悩んでいるポイントごとに復習することが可能となっている。
●第1章 「人」に関するキーコンセプト 「なぜ、この人はこんなことをするのか」を考えるために
●第2章 「組織」に関するキーコンセプト 「なぜ、この組織は変われないのか」を考えるために
●第3章 「社会」に関するキーコンセプト 「いま、なにが起きているのか」を理解するために
●第4章 「思考」に関するキーコンセプト よくある「思考の落とし穴」に落ちないために
【ハイライト】
1世界はどのように成り立っているのか?=Whatの問い
2私たちはどのように生きるべきなのか?=Howの問い
本書でこれから紹介する「哲学・思想のキーコンセプト 50」は、そのような「思考のプロセス・問題に向き合う態度」を追体験する上で、橋頭堡のような役割を果たしてくれることを期待して選出しました。
人の行動を本当の意味で変えさせようと思うのであれば、「説得よりは納得、納得よりは共感」
人を動かすためには「ロゴス」「エトス」「パトス」の三つが必要だというアリストテレスのこの指摘については、その過剰な使用がもたらす危険性も含めて、リーダーという立場に立つ人であれば知っておいて損はないと思い
自分の努力に対して正確に相関する報酬を受け取れる。そういうわかりやすいシステムであれば、人間はよく働く。そう思っている人がすごく多い。雇用問題の本を読むとだいたいそう書いてある。でも僕は、それは違うと思う。労働と報酬が正確に数値的に相関したら、人間は働きませんよ。何の驚きも何の喜びもないです
寿命が100年になろうかという時代においては、「学び直し」もまた重要な論点になってきます。特にテクノロジーの進歩が今日のように著しい社会では、一度学んだ知識がすぐに陳腐化してしまう傾向にあります。
自分が何かを欲しているというとき、その欲求が「素の自分」による素直な欲求に根ざしたものなのか、あるいは他者によって喚起されたルサンチマンによって駆動されているものなのかを見極めることが重要です。
結論は単純で、サイロのポートフォリオでバランスをとる戦略はもう機能しないので、一つ一つのサイロそのもののスクラップ&ビルド、つまり気に入らないサイロ、ストレスレベルの高いサイロからはどんどん逃げろ、ということになります。
なぜソーシャルメディアにハマるのか? それは「予測不可能だから」というのが、近年の学習理論の知見がもたらしてくれる答えだということになり
この世界をどのようにしたいかというビジョンをもって、毎日の生活を送るべきだ、というのがボイスのメッセージでした。
アーレントは、「陳腐」という言葉を用いて、この「システムを無批判に受け入れるという悪」は、我々の誰もが犯すことになってもおかしくないのだ、という警鐘を鳴らしています。
しかし、だからこそ、人はその可能性をしっかりと見据え、思考停止してはならないのだ、ということをアーレントは訴えているのです。
マズローの欲求五段階説は、皮膚感覚にとても馴染むこともあって、爆発的と言っていいほどに浸透したわけですが、実証実験ではこの仮説を説明できるような結果が出ず、未だにアカデミックな心理学の世界では扱いの難しい概念のようです。
これら二つの項目を読めば、マズローが「自己実現的人間」とみなす人は、孤立気味であり、いわゆる「人脈」も広くないということになります。
例えば『荘子』の「山木篇」に「小人の交わりは甘きこと醴の如し、君子の交わりは淡きこと水の如し」という言葉があります。
私たちは「意思が行動を決める」と感じますが、実際の因果関係は逆だ、ということを認知的不協和理論は示唆します。外部環境の影響によって行動が引き起こされ、その後に、発現した行動に合致するように意思は、いわば遡求して形成されます。つまり、人間は「合理的な生き物」なのではなく、後から「合理化する生き物」なのだ、というのがフェスティンガーの答えです。
現在のように分業がスタンダードになっている社会では、私たちは悪事をなしているという自覚すら曖昧なままに、巨大な悪事に手を染めることになりかねません。多くの企業で行われている隠蔽や偽装は、そのような分業によってこそ可能になっていると考えられます。これを防ぐためには、自分がどのようなシステムに組み込まれているのか、自分がやっている目の前の仕事が、システム全体としてどのようなインパクトを社会に与えているのか、それを俯瞰して空間的、あるいは時間的に大きな枠組みから考えることが必要です。
幸福な「フロー」のゾーンに至るには、必ずしも居心地の良いものではない「不安」や「強い不安」のゾーンを通過しなければならない、ということなのではないでしょう
人が創造性を発揮してリスクを冒すためには「アメ」も「ムチ」も有効ではなく、そのような挑戦が許される風土が必要だということであり、更にそのような風土の中で人が敢えてリスクを冒すのは「アメ」が欲しいからではなく、「ムチ」が怖いからでもなく、ただ単に「自分がそうしたいから」
ものすごくゆっくり読んで、レビューを理解しました。(りまのの頭は、トロいのです。)そうしたら、なかなかに、面白かったで...
ものすごくゆっくり読んで、レビューを理解しました。(りまのの頭は、トロいのです。)そうしたら、なかなかに、面白かったです。
、、、けれど、参考図書、は手が出ない程、難かしそう…。りまのには、ハードル高めだと、思いました。