樹木たちの知られざる生活 森林管理官が聴いた森の声 (ハヤカワ文庫NF) [Kindle]

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  • 『樹木たちの知られざる生活』を読み終わった。
    この本は、ドイツで長年、森林の管理に携わってきた著者がその経験と科学的事実から、樹木の生態について記した本である。
    樹木も、方法は違えど、動物や人間と同じように、仲間とコミュニケーションをとり、互いに助け合い、生きている。
    読んでいて、樹木も生きているとは知っているつもりでも、これまでモノあつかいし、本当の意味で同じ生きている仲間だとは思っていなかったと気づかされた。

    著者は自然保護について、樹木の生態について詳しく解説したうえで、何かするのでなく、「何もしない」ことも重要であると語っている。
    正しい知識を得たうえで、何かするのでなく、時に何もしない選択肢もあるという、
    読んでいて、とても考えさせられ、発見の多い本だった。

  • 比喩的な意味ではなく、人は独りでは生きていけない。どんなに頑張って引きこもったところで、誰かが作った食べ物やらエネルギーやらがなくてはやっていけない。そういう意味で、ヒトの生活は住んでいる町や市といった生態系に強烈に依存している。同じことは程度の差こそあれ、森や草原の動物たちや虫たち、海や川の魚たちにも言えるだろう。みんな身の回りの生き物や環境に依存し、互いに影響を与えながら生きている。
    では植物は? 草木は光合成で自分で栄養を作れるから、陽光と雨と大気さえあれば一人ぼっちでもやっていけるのだろうか?

    そうではないよ、というのが本書の肝だ。植物も森という生態系の中であるときは助け合い、あるときは競争しながら、互いに影響を与えあって生きている。森の草木は根や菌類のネットワークを通じて、ご近所と栄養を分け合うのだそうだ。だから森から切り離された草木はかなり厳しい環境に置かれることになる。

    著者はドイツの森林管理官。本人は科学者ではないらしいが、最新の植物学の研究成果を手際よく紹介してくれる。手際が良すぎてそこもう少し詳しく知りたいんだけど、という部分が無きにしもあらずだが、自然科学系の翻訳本としては手頃で読みやすく、読んでいて楽しかった。この分野はこれからまだまだ新しいことがわかってきそうで、楽しみだ。

  • ・最初に葉を食べられたアカシアは、災害が近づいていることをまわりの仲間に知らせるために警報ガス(エチレン)を発散する。警告された木は、いざというときのために有毒物質を準備しはじめる。それを知っているキリンは、警告の届かない場所にに立っている木のところまで歩く。あるいは、風に逆らって移動する。香りのメッセージは空気に運ばれて隣の木に伝わるので、風上に向かえば、それほど歩かなくても警報に気づかなかった木が見つかるからだ。

    ・窮屈そうだと思って、人間が手助けのつもりで”邪魔者”を取り除くと、残された木は孤独になり、お隣さんとの交流が途絶えてしまう。なにしろ、隣には切り株しか残らないのだから。すると一本一本が自分勝手に生長し、生産性にもばらつきがでてくる。一部の樹木だけがどんどん光合成をして、糖分を蓄える。そういう木は健康でよく生長するが、長生きすることはない。なぜなら、一本の木の寿命はそれが立つ森の状態に左右されるからだ。

    ・どうして身だしなみが大切なのか?樹木は美意識が高いのだろうか?その答えは私にもわからないが、一つだけ確かなことがある。理想的な形をしていれば安定するという点だ。生長した木の大きな樹冠は、強風や激しい雨や大雪にさらされることになる。そのときにのしかかる圧力は幹を伝って根に送られ、根はそれに耐えなければならない。でなければ倒れてしまう。だから根は地中で土や石にしがみついている。暴風は最大200トンに相当する力で気を根こそぎ押し倒そうとするのだから。どこかに弱点があれば、幹がひび割れ、最悪の場合は完全に折れてしまう。きれいな形をしていれば、圧力を均等に誘導して分散できる。

    ・いずれにしても、関係を結んだそのときから、両者は力を合わせて生きていくことになる。菌糸は根を包むだけでなく内部にも入り込み、しかもそのまわりの土のなかにも広がっていく。さらに、その木の根の範囲を越えて、ほかの木にも手を伸ばす。そして、ほかの木のパートナーになったキノコの菌糸やその木の根とも結びつく。こうしてネットワークが形成され、栄養や(害虫警報などの)情報交換ができるようになる(「社会福祉」の章を参照)。要するに、菌類は森のインターネットといえよう。

    ・それだけではない。私たち庭好きにとって、とてもうれしい物質をクルミの木は発散してくれるようだ。リラックスできるベンチを置く場所を探しているのなら、クルミの木の下にしよう。そうすれば、蚊に刺される確率が格段に低くなるからだ。針葉樹のフィトンチッドはとてもいい香りがする。特に夏の暑い日に香りが強くなる。

    ・街中の木は、森を離れて身寄りを失った木だ。多くは道路沿いに立つ、まさに”ストリートチルドレン”といえる。道路沿いに立つ彼らは、公園にいる仲間たちと同じように、人間による手厚い保護を受けてかわいがられながら生長する。ときには近くを通る水道管から直接水を拝借することもある。ところが、根がある程度広がったら、大きな壁に突き当たる。道路や歩道の下の土壌は、アスファルトを敷くために公園などよりもはるかに強く固められているからだ。

    ・ヨーロッパブナを含むいくつかの樹木は、アルプスを越えて安全な場所を見つけ、現在の間氷期まで生き残ることに成功した。その少数派が、暖かくなるにつれ氷が溶けた土地、つまり北の大地をめざして何千年も前から今も前進を続けている。暖かくなり、苗が育って成木になる可能性が高くなったので、種を落として少しずつ北に移動することができるようになった。この旅の平均速度は一年で400メートルといわれている。
    なかでもヨーロッパブナは特に足が遅いことで知られている。ブナの種子はナラとは違って、鳥に運ばれることがあまりないだけでなく、ほかの樹種の種子のように風に飛ばされて一気に遠くへ行くこともできない。そのため、およそ4000年前にブナがヨーロッパの北部に戻ってきたとき、森はすでにナラやハシバミなどで占拠されていた。

    ・このように、先に挙げた在来種の定義はあまり意味をなさない。その定義はもっと狭い範囲を対象とすべきであり、その基準は人間が考え出した境界ではなく、もっと自然なものであるべきだ。特徴(水、土質、地形)と局地的な気候でひとまとまりにできる自然空間を基準とするのがいいだろう。
     樹木はそれぞれ、自分に最適な条件がそろっている自然空間を選んで定着する。つまり、バイエルンの森のトウヒは標高1200メートル前後の地点で自生するが、標高800メートル以下や、そこから1キロばかり離れた場所ー--ブナやモミの生息地ーーーに立つトウヒは”在来種”と呼ぶべきではないのだ。

    ・夜の呼吸に話を戻そう。夜間に二酸化炭素を放出するのは樹木だけではない。微生物や菌類、細菌などが落ち葉や朽木、そのほかの腐敗した植物を食べて消化し、腐植土に変えているために二酸化炭素が放出される。冬は、二酸化炭素の発生に拍車がかかる。樹木が冬眠するので、日中も酸素が増えないのに、地中では熱心に消化活動が続いているからだ。その熱心さたるや実際に熱を発するほどで、どんなに寒いときでも地下5センチより深い部分は凍りつくことはない。

    ・多くの人にとって、死んだ木を見るのは裸地を見るよりもつらいようだ。ほかの国立公園のほとんどがそうした声に屈して、キクイムシの駆除という建前のもとに木を切り倒し、製材業者に売り渡してしまった、それは大変な過ちだ。なぜなら、死んだトウヒやマツこそが、広葉樹林の誕生を加速するからだ。死んだとはいえ、彼らの体内には水が蓄えられている。それが夏の熱い空気を冷やしてくれる。彼らがその場で倒れれば、幹が天然の柵となってシカなどの侵入を阻んでくれるので、生まれたばかりのナラやブナ、ナナカマドは食べられずにすむ。そして、いつの日か完全に朽ち果て、貴重な腐植土になってくれる。

    ・問うべきは、人間が必要以上に森林生態系を自分のために利用していいのか、木々に不必要な苦しみを与えてしまってもいいのか、ということだろう。家畜と同じで、樹木も生態を尊重して育てた場合にだけ、その木材の利用は正当化される。要するに、樹木には社会的な生活を営み、健全な土壌と気候のなかで育ち、自分たちの知恵と知識を次の世代に譲り渡す権利があるのだ。

    ・スイスの憲法には「動物、植物、およびほかの生体を扱うときには、その生き物の尊厳を尊重しなければならない」と記されている。これを守るなら、道端に咲く花を意味もなく摘むことは許されない。世界の他の国の人々からは、このような考えはあまり理解されないかもしれないが、私個人としては、動物と植物の両者を隔てなく道徳的に扱うべきだという考えに賛成できる。植物の能力や感情、あるいは望みなどがよりよく分かるようになれば、彼らとの付き合い方が少しずつ変化するのは当然だろう。
     森は、たまたま無数の生き物に生活空間を提供しているだけの木材工場でも資源庫でもない。事実はその逆だ。適切な条件で育つことができてはじめて、森林の樹木は安全と安心という木材の供給以上の役割を果たしてくれる。

  • 「森を愛する人のバイブル」として、「森林に親しむためのガイド」として、世界中で絶賛された本。樹木たちにも愛情や友情、社会福祉、教育の営みがある。トリビアな話題は森林愛あってのものです。

  • たまに山登りに行くものの、「木を見て森を見ず」ならぬ「山を見て木を見ず」だった私。そんな私にとって、木の生態に関する最新の知見が詰まったこの本を読むのは、驚きの連続でした。

    ・弱った木には、他の木から根や菌糸を通じて栄養が送られることがある。
    ・アカシアはキリンに食べられると、葉に有毒物質を集めるとともにエチレンガスを発して仲間の木に警告を与える。

    などなど。

    ちょっと木を擬人化しすぎてないか?と思うきらいもないではないが、まさしく目から鱗の一冊。これからは登山の際も、じっくり木の葉や幹を観察してみることとしよう。

  • 樹木を中心とした森林のエコシステムについての示唆に富んだ内容。面白い。

  • バームクーヘン一本焼きビブリオバトル第2ゲームで紹介された本です。
    2023.7.30

  • 樹木の声を聞くこと、そしてリスペクトを持って人と接するのと同じように樹木にも接すること。かつて日本人もできていたかもしれないことの価値を、ドイツ人の著者に教えてもらう。

  • 森の木々たちは、コミュニティを、作って互いに助け合いながら生きていることを知った。木も人間も一緒。自然界の仲間。

  • ハヤカワ100冊から。
    公務員をやめて森林管理人となった著者が、樹木、森の知られていない側面について語る本。樹木に関しての話はもちろん興味深いものが多いが、それ以上に、多様性の重要性について考えさせられた。森は人間の手を借りずとも共生社会を創成・維持している。昨今話題の多様性も同じなのではないかと思った。

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