増補 南京事件論争史 (平凡社ライブラリー0876) [Kindle]

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  • 南京事件は学問的には結論が出ている案件です。
    にもかかわらず、未だにその有無についての論争が続いている。
    また、それを語ることがタブーである風潮さえあります。

    例えば、南京事件は当時にあってさえ外務省等ではその事実を把握しており、
    しかるべき対処をするよう通達が出されています。
    また、『生きている兵隊(伏字復元版)』(石川達三/中公文庫)をはじめとした従軍日記やその他の資料等で、南京事件自体の存在は確認されています。否定派の資料を凌駕する膨大な資料からも明らかです。一方で終戦直前に大量に焼却された公文書のせいで、南京事件の全貌が明らかになることが阻害されました。それでも諸家のたゆまぬ努力のお陰で、学問的には決着がつきました。

    南京事件が歴史の事実としてあることに、何か不都合なことがあるのでしょうか?
    アウシュビッツやヒロシマ・ナガサキの原爆もそうですが、このような悲劇があっていい筈はありません。当たり前です。しかし、人間の愚かな部分が戦争という形で現れて、多くの人たちが死んでいった。まさに人類の歴史は愚行の歴史でもあるわけです。
    故にそこから少しでも学んで、同じ失敗を繰り返さないよう努めてきたはずです。

    南京事件否定派の方々に感じるのは、歴史論争として価値観をぶつける以前に、その人間性を問わざるを得ない点です。近現代史の歴史家達が長い年月をかけて研究してきたことを、何故都合よく否定するのかということです。専門家に対する敬意すらないです。
    南京事件だけでなく、大きな事件が起きると、それに対して適当な距離を保てないことが、その一因にあると考えています。過剰に取り込みすぎたり、逆に淡白すぎたり。
    問題が南京事件自体にあるのではなく、それを捉える我々の内側にあるという事にもう少し気づいてもいいと思うのですが・・・。

    南京事件の概要から、東京裁判(この場で始めて南京事件が公になった)、その後論争を通史として書かれており、非常にわかりやすいです。

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著者プロフィール

1944年、群馬県生まれ。東京教育大学大学院文学研究科修士課程東洋史学専攻中退。学術博士(東京大学)。都留文科大学名誉教授。専門は中国近現代史、日中関係史、東アジア近現代史。主著に『南京事件』(岩波新書)、『第一次世界大戦期の中国民族運動』(汲古書院)、『日本軍の治安戦』(岩波書店)、『憲法九条と幣原喜重郎』(大月書店)、『日中戦争全史(上・下)』『通州事件』(以上、高文研)、『海軍の日中戦争』(平凡社)、『増補 南京事件論争史』(平凡社ライブラリー)などがある。

「2023年 『憲法九条論争 幣原喜重郎発案の証明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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