興亡の世界史 人類はどこへ行くのか (講談社学術文庫) [Kindle]

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  • 第一章:世界史はこれから 日本発の歴史像を目指して
    欧州発の欧州中心史観的な近代歴史学と、西洋史と東洋史が断絶している現状への批判、そして他地域他分野をつなげた真の「世界史」への展望を述べている。
    総じて現状の問題点を挙げ連ねている説教臭い印象。また紙面的に致し方ないが、話題の取り扱う範囲が広いため具体的な内容までは踏み込めずふわっとした印象も受けた。

    第二章:「100億人時代」をどう迎えるか
    ホモ・サピエンスの特長は、直立二足歩行、体毛に覆われず発達した汗腺、雑食性。人類は約20万年前にアフリカで誕生し、1万年前までに地球上へ広がっていった。農耕以前の狩猟採集生活では、人類全体の人口は環境から採取できるカロリー上限の800万人程度と推定。主要作物でムギやコメなどの穀類はイモ類に比べて保存に適しており、富の集散に繋がり古代文明は穀類生産圏に発生した。

    第三章:人類にとって海とはなんであったか
    出アフリカした現生人類は、西洋中洋にコーカソイドが、東洋にモンゴロイドが拡散していった。東洋モンゴロイドはオーストロネシアや南北アメリカにも移住していく。モンゴロイドは「温かい海」であり島嶼部が存在している環太平洋地域に海を使って移住できたが、「冷たい海」に当たったコーカソイドは造船技術が発達した大航海時代まで移住を行えなかった。
    インド洋ではインド亜大陸を境に、東洋と中西洋のヒト・モノが行き来した。沿岸地域の港湾都市は栄えたが、蒸気船の発達により長距離航海ができるようになると大型船が着岸でき商品や薪炭を供給できる広大な後背地を有する少数の港湾都市へと統合されていった。

    第四章:「宗教」は人類に何をもたらしたか
    イブン=ハルデューンは歴史を個別事象の総体としてではなく、因果連鎖による連続的なものという歴史観を示した。人間は社会的結合性を持つが自己保存本能から互いに闘争を重ねる。個別の闘争に優越する国家権力による統制を作り上げたが、国家権力はその優越性故に小個人の権利を侵害し、反発から革命が起こる。国家権力者の暴走を制限する法や宗教といった枷が必要である。

    第五章:「アフリカ」から何が見えるか
    アフリカは奴隷貿易や植民地支配の歴史を受け、現在も世界の周辺部としての認識を持たれている。植民地支配の便宜のために、部族という構成員の忠誠を求める閉鎖的・排他的・未開といったアフリカ・スキーマが与えられ現在もアフリカ情勢を解釈するツールとして用いられている。しかしアフリカ本来の共同体意識は、構成員の流動や両属のできる柔軟性に富んだものだった。また紛争解決手段として、法的裁判ではなく加害者と被害者が主観的事実を語ることで和解し合う対話型真実が一部で用いられている。今後のグローバル世界において2つのツールは有用な処方箋として考えられる。

    第六章:中近世移行期の中華世界と日本
    日本は東アジアの中で圧倒的な存在感を誇る中国の影響を強く受けてきた。しかし、華夷思想による天下とは別に日本は日本の天下を想定するなど、早くから独立自尊の意識を持っていた。東アジアは明帝国の作り上げた朝貢貿易システムで結ばれたが、日本はこのシステムを受けてか、秀吉も家康も朝貢貿易と同様の貿易体制を国外に向けて敷いた。

    第七章:反映と衰退の歴史に学ぶ
    現代日本が昔ながらの町並み・文化を喪失していることを嘆き、その尊重を訴えるといったお決まりの内容。文化と経済を両立融合して行うための例示もされているが、全体の印象としては弱い。東京建築は上モノは新しいが、江戸時代からの古くからの区画はそのまま残っている。日本は世界の政治における国境問題、民族問題、宗教問題からほぼ無縁の恵まれた歴史を歩んできたが、今後のグローバル世界では通用しないが「隠し玉」を発揮していくことが提言された。

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著者プロフィール

学習院大学文学部教授
フランス近現代史
〈主な著書〉
『フランス史』世界各国史12(山川出版社、2001年、編著)『ヨーロッパ近代の社会史――工業化と国民形成』(岩波書店、2005年)『歴史学入門』(岩波テキストブックスα、2006年)『近代ヨーロッパの覇権』「興亡の世界史」第13巻(講談社、2008年)など多数。

「2016年 『ドイツ・フランス共通歴史教科書【近現代史】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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