もっと言ってはいけない(新潮新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 本書で著者は、人類は「遺伝と文化の共進化」により社会環境に適合するよう知能や性格を進化させてきたのであり、「地域によって経済発展の度合いが異なるのには、遺伝的な背景がある」という。知能は遺伝し(遺伝率77%)、人種によって知能(現代の知識社会が求める能力)に大きな差があるのは客観的事実。そして我々日本人は、「遺伝と文化の共進化」により「世界でもっとも"自己家畜化"された特別な民族」となり、「遺伝的にストレスに弱いにもかかわらず、文化的に高ストレスの環境」=閉塞感満載のムラ社会(「道徳警察社会」)を作り上げてしまったという。先日読んだ「文化がヒトを進化させた」と重なる部分も多くて、面白く読めた。

    本書から、刺激的な記述をいくつか。

    「黒人のIQは白人よりかなり低い」、「知能に対する遺伝の影響は成長とともに高まり、幼児教育の効果は思春期になるとほぼ消滅する」、「平均的な知能をもつのは女性のほうが多く、極端に知能が高かったり低かったりするのは男性が多い」、「大陸系統では北ヨーロッパと東アジアのIQが高く、アシュケナージとか、(おそらくは)バラモンという高知能集団が存在する」、等々。

    知能(認知スキル)が遺伝でほぼ決まってしまうとしたら、(できの悪い子に無理やり勉強させる)スパルタ教育とかは全く無意味なんだろうな。ただし、性格の遺伝率(約5割)は知能の遺伝率(約8割)より低いから、教育訓練で性格スキル(やる気)を伸ばすことはできるというのが救いかな。

    同調圧力の高いムラ社会日本も、我々の遺伝子に組み込まれたメカニズムの成せる技だったのか。どうしようもないということなのか…。

    著者によれば、ジャレド・ダイヤモンドの名著「銃・病原菌・鉄」が、人種差別に繋がる「遺伝と文化の共進化論」を敢えて用いずに世界の発展の違いをエレガントに説明した書、とのこと。う~ん、考え込んでしまう。

  • 現代人は知識社会という世界に生きている。
    ただし、知識社会が成立してから200年しか経っていないため、人間は種として知識社会に対応できていない。
    そのため、知識社会では人間の直感に合わないことが多々起こり問題となっている。
    例えば、本書によると先進国の成人の半分は簡単な文章が読めないそうだ(正確には読み取っても意味が理解できないという事だと思われる)これは産業革命が起こり世界が知識社会に突入するまでは、問題にならなかった事だ。
    なぜなら、産業革命以前文字を読んだり書いたりするのは、一部の特権階級だけで、それ以外のマジョリティは田畑を耕したり、羊を飼うなどの肉体労働をしていればよかったからだ。
    それが、現代では皆が文字を読みIT機器を使いこなすことが求められている。教育の機会を平等にしても種としてデスクワークに最適化されていないため、適応できない人間が出ているということではないだろうか。
    これが、知識社会に種として対応できていないために起こる問題だと考える。

    本書を読んで印象に残ったのは、リベラルな社会になればなるほど、環境要因による差が減り、知能は遺伝により決まってしまうという点だ。皆に平等な教育機会が与えられるよう(ユートピア)になれば、生まれた段階でついた知力の差は埋まる事がないというのは皮肉なものだ。

    また、人種による能力の差を犬種で例えているのがわかりやすかった。例えば、チワワとドーベルマンどちらがいいとは言えない、強いのはドーベルマンだが、座敷犬として生きるのであればチワワが良い。人種も同様に筋肉が付きやすい人種や、計算能力が高い人種などあるが、どの人種が優れているという話ではない、環境に適応したため差が出ているという話だ。
    ただ、知識社会では知能が重要視されてしまっているため、人種による知能の差を語ることはタブー視されている。
    そのタブーにエビデンスベースで突っ込んでいったのが本書と言えるだろう。

  • 私達は何者なのか? という問いに対する展開は前著よりも鮮やかだと思う。IQのレベル、知識の高さとそれを理由づける進化論的分析が、今となっては遺伝が大きな影響を与え、実は環境要因が少ない、というところは前著を踏襲している。その上で日本人としてどういうところで自分を認識し、どういう努力をしていくか、それを考えたいと思える。微弱なランが、自分が咲くのに適した場所に移動する自由を堂々と行使できるような、そういう考え方を持っていたいと思う。
    アプローチの方法は全く違うが、日本人の勤勉さを説明する著作としては山本七平の本と同様の説得力があるように思う。これらの本を短期間に読めたのはラッキーだった。
    今年の本はアタリが多い。

  • 「私(日本人)は何者か?」という問いに、人種と知能の関係という「言ってはいけない」領域から答えようとする。
    前段の「ゲイ遺伝子」の話が面白かった。同性愛者は子孫を残さないのに、なぜ遺伝的に排除されないのか? 調べてみると、ゲイ男性の母方の親族に多産の傾向が見られたという。つまりゲイ遺伝子が「男性から見て魅力的」な容姿をつくるのならば、その遺伝子を持っている女性は優位になるのではと。
    さて、IQ(一般知能)は遺伝と関連が深い。国別にIQを比較してみると、あきらかな偏りがある。北ヨーロッパや東アジアのIQは比較的高い。アフリカから出てきたホモ・サピエンスは、寒冷地に移住することで、賢くなければ生き残れなくなり、じょじょにIQを向上させた。東アジアでは中国の科挙の影響や、稲作により人口密度が上がることで、知能に影響が出たのかも知れないとする。
    そこからさらに考察はすすみ、農耕の開始によって「人工稠密なムラ社会」で生きてきた東アジア系は、それに最適化するよう気質や性格を「進化」させてきたはずだ。アメリカにおける東アジア系は、白人に比べ世帯年収が25%高い。これは(白人と同程度に)知能が高く、性格的に真面目で内向的だから、(医師、科学者、会計士などの)賃金の高い専門職に向いているのだと分析する。また、東アジア系は知能は高いが不安感が強く、目先の利益よりも将来のことを心配するという。知能と先延ばしの力=意志力が、経済的な成功の鍵になる。一方で、生得的な敏感さは息苦しい社会をつくるだろう。日本人は世界でもっとも「自己家畜化」された民族なのだと結論づける。
    本書の「日本人論」をまんま信じ込むとろくなことにはならないと思うが、個別のトピックとそのつなげ方には、なるほどというところも多い。遺伝と能力の関係についてはPC的に語りづらいところはあるが、ほんとうはもっとよく考えないといけないところかとは思う。

  • 一年間積ん読にしていた橘本、ようやく読了。遺伝から知能が決まり、いくつかの歴史的事件の原因にもなるという分析は、興味深い。

  •  前作の内容のうち、「遺伝要因と環境要因」に論点を絞って書かれたもの。最新の情報をもとに書かれてるのでネアンデルタール人、ホモ・サピエンス、テニソワ人のほかにもう一種類の人類がいないと現存の人類の遺伝子構成にならない、など未知の情報が盛り込まれている。
     東アジア人の不安遺伝子の比率が高いという。この遺伝子がもとでうつ病が発症するともいわれる。これをそのまま受け取ってしまうと東アジア人はうつ病になる、という「進化」を遂げたことになる。しかし、丁寧な実験を行い、解きほぐしていくと実は不安遺伝子を持っている人の方が楽天的にものごとを考えるということが分かってきた。結局不安遺伝子は「敏感」、不安遺伝子を持たない人は「鈍感」ということが分かった、と。
     日本人の成立は北方から入った縄文系に大陸経由九州に上陸した弥生人が混血したもの、ということにとどまり、「遺伝子的には日本も韓国も中国も一緒」とする。この辺もうちょっと掘り下げてほしかった感はある。アメリカでなぜ東アジア系が成功するか、というところでも「内向的だが自分の責務を果たす」「米作をしてきた影響」とまとめる。中国と韓国と日本のメンタリティはかなり違うのでは…
     もちろん本書のクオリティは高い。新書版という紙幅を考えるとそこまで踏み込めないことも想像できる。
     民族が成長する(本書でいう、IQが上がる)のは自然環境や周囲の多民族からのプレッシャー、淘汰圧がかかるかどうか、がカギ、とする。

  • 日本人はひ弱なラン。うつになりやすく内向的だがIQは高く非認知機能も高い。大成功もするが環境によっては能力を発揮できない

  • 知識社会。

    ユダヤ人全体が知能指数高いわけでなく、
    ノイマン・アインシュタイン系(アシュケナージ)のユダヤ人が知能指数高
    差別から生まれた高知能集団。

    シリコンバレーでインド系CEOが多いのはバラモン教の影響
    バラモンは差別と言うより知能指数で分けられていた。


    南米移民で成功した日本人は、
    結果的としてその土地で比較的知能が高かったから。

    言語的知能が高いエリアはリベラルになる。
    言語的知能が低いと(いわゆる口下手だと)世界を脅威として感じるようになる。
    何らかのトラブルに巻き込まれた時に、自分の行動を空いてみうまく説明できないから。
    子供の時に大人になんでこんなことした?と聞かれた時に、言語的知能が高い子供は即座に納得のいく返事が出来て許され、口ごもってしまう子供は罰せられる。大人は子供を教育しようとしているわけじゃなくて、その行動を理解できないと不安だから罰してしまう。
    そうすると、言語的知能の高い子供は見知らぬ他人との出会いを恐れなくなり(怒られても言い返せるから)、口下手な子供は親族や友人の狭い交友関係から出ようとしなくなる(自分の行動を説明しなくて済むから)
    これがリベラルと保守の生得的基盤。
    もっとも知識社会が発展したアメリカでは
    東部(ニューヨーク)西海岸(サンフランシスコ、シリコンバレー、ロサンゼルス)に裕福な層が集まり民主党(リベラル)の牙城となっている。
    一方でトランプ支持者はラストベルト(錆びついた地域)と呼ばれる中西部の荒廃した街に吹き溜まっている。

    IQと限界税率には相関がある。
    IQと信仰心には明らかな負の相関がある。
    IQと一夫多妻にもはっきりとした負の相関がある。国民のIQが高いほど一夫一妻制の社会になっていく

    あとがき二全て集約されてる
    産業革命を歴史のエピソードの1つと考えるのはとんでもない誤解。
    マジで革命。人類の歴史上TOP3レベルの革命。西暦どころじゃない。
    人類の第一の革命は石器の発明「誰もが誰もを殺せる社会」で生き延びるために自己家畜化が始まった
    第二の革命は農耕の開始、村社会に適応できない遺伝子が淘汰されて自己家畜化が進んだ。
    第三の革命が化学とテクノロジー。
    これは10世紀くらいじゃ到底人類は適応しない。これが現代社会が抱える問題。

    IQ140は自閉症スペクトラム上に上がるリスクが倍になる。
    アインシュタインの次男は統合失調症。
    高い知能が幸福な人生に結びつくかどうかも分からない。

    トランプ現象が明らかにしたのは、
    ほとんどの人はファクトなど求めていないということだ
    夏に飲むビールの一口目はものすごく美味しいが、二口芽、3口目となるとそのおいしさはだんだんなくなっていき、おかわりするころには惰性になっている。このとき、ビールのおいしさを高揚、一口目から二口目への効用の変化を限界効用と言う。人間の本性。

    高知能のマイノリティは、使いきれないほどの富(金融機関のサーバーに格納された電子データ)と引き換えに、マジョリティがより安楽に暮らし娯楽を楽しめるよう奉仕しているともいえるだろう。
    イーロンマスクが取材に対して語った言葉
    「子供のころから、ずっといいつづけてきた。ひとりぼっちにはぜったいになりたくない。一人や嫌なんだ」
    が切なすぎる。

    高IQ者は低IQ者のために生きる、預金残高と言う名の数字データと引き換えにみたいな、
    貯金はただの数字、みたいなのが印象的。

  • (図書館で借りた本)
    読み始めた(4月5日〉〜読み終わった(4月30日)
    〈プロローグ〉
    PIAACの結果は本当なのかな?
    日本人の1/3が日本語が読めない?
    パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下?
    それでも日本はPIAACで一番?
    「知識社会に適応できない国民が多いほどポピュリズム(排外主義)が台頭し、社会が混乱する」
    〈1〉
    「知能における遺伝の影響は思ったより大きい」「犯罪は遺伝する」
    〈2〉
    「人種によりIQが異なる」「知能は遺伝する」
    「教育の無償化」でなく「奨学金制度の充実」は賛成。認知能力は5歳までが重要で「教育の投資」は「貧困層の就学前児童」に必要。さもなくば教育投資のリターンは期待出来ないという理屈にも賛成。

    (あらすじのようになってしまうので以降記載せず)

    〈3〉
    〈4〉
    〈5〉
    〈6〉
    〈あとがき〉

    それぞれの人種(私は日本人(アジア系))の人種の特徴をよく知り、良い面は上手く発展させ、弱点は上手くカバーして生きていくことが大切だ。
    「過ぎたるは及ばざるが如し」
    何事も程度が大切と思ったとともに、筆者の著書をもう少し読んでみようと思った。

  • 今回はかなり専門的な内容のように感じた。

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著者プロフィール

2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)、『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(以上ダイヤモンド社)『「言ってはいけない? --残酷すぎる真実』(新潮新書)などがある。メルマガ『世の中の仕組みと人生のデザイン』配信など精力的に活動の場を広げている。

「2023年 『シンプルで合理的な人生設計』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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