日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • まさにタイトル通りで、非常に有益だった。以下、本書の自分なりの理解というかメモ。
    1.「日本社会のしくみ」を構成する原理は〈①何を学んだかが重要でない学歴重視②一つの組織での勤続年数の重視〉である。
    2.日本の生き方の類型は大企業システムのなかで生きている「大企業型」、自営業や第一次産業など地域に根ざす「地元型」、そのどちらにも足場のない「残余型」の三つである
    3.海外企業には職務に三層構造(上級社員・中級社員・下級社員)がある。日本でもこの構造はあるが、職務より学歴で処遇が決まってきた。
    4.戦前日本社会の三層構造(社員・準社員・職工)は、軍隊・官公庁の資格等級制度から始まったもの
    5.戦後の民主化で「社員の平等」が追求された結果、社内の身分制度は縮小したが、かわりに大企業と中小企業の賃金格差が目立ってきた
    6.日本社会の三層構造は大卒・高卒・中卒という学歴と対応していたため、進学率の上昇によって立ちゆかなくなっていった。そのため企業は人事考課によって差を付ける「能力給」を採用、給与に占める割合も増えていった。
    7.一方で三層構造を保つため企業は、出向、非正規雇用、女性といった「外部」を作り出した。これらが、限られた一部を正規のメンバーとして扱う制度を温存した。
    8.人件費抑制のため企業では「成果主義」や「目標管理制度」が取り入れられたが、企業横断的な労働市場がないため社内等級でしかなく、また評価する側に査定の能力もなかったため、機能しなかった。
    9.アメリカの労働者は横断的な労働運動により「職務の平等」(同一労働同一賃金)を得る代わりに、一時解雇を受け入れた。日本の労働者は企業別労働組合によりメンバーシップ型の雇用を得て、かわりに経営の裁量で職務が決まることや企業規模によって待遇に差があることを受け入れた
    10.これらの仕組みが1980年代まではおおむね機能したが、1990年代以降は社会の変化によってうまくいかなくなってきた。製造業の中心が他のアジア地域に移り、先進国の成長産業が高度専門知識を必要とする金融やITなどに移行すると、日本の「しくみ」は不利に働くようになった。

    著者は〈この世にユートピアがない以上、何らかのマイナス面を人々が引き受けることに同意しなければ、改革は実現しない。だからこそ、あらゆる改革の方向性は社会の合意によって決めるしかない〉とし、終章にて三択で方向性を示している。格差や差別が生じるのには目をつむりこのままメンバーシップ型の雇用環境を維持するのか、アメリカ型の職務給による階層化社会へ舵を切るのか、取りこぼしを社会保障政策でカバーするような社会を目指すのか。こうしたことをひとり一人が考えていくべき、という提言は非常に重要だと考える。

  • 就業の形態を時系列あるいは国別に比較しつつ現在日本の実態を明らかにする好著。
    高度成長期以前の日本や諸外国は、上級職員(命令、管理、企画)、下級職員(事務、中級技術、定型業務)、現場労働者(工場や現場などいわゆるブルーカラー)に明確に分かる三層構造となっているが、現在日本では正社員という形ではとくに階層構造にはなっていない。
    ただしこの一見民主的な形態が逆に企業を越えた横断基準の不在に繋がり、非正規や女性差別につながっている。また、大学での専攻等ではなく大学名だけを選考やその後の処遇に用いていることなどから大学院なども評価されないため、ある意味低学歴化していることも憂慮すべき事態としている。
    このあたりの構造を中根千枝の「タテ社会の人間関係」を引用して、専門性よりもその場所(会社や地域など)に参加した年次でヒラエルキーが決まるのが日本社会の特徴として説明し、更にはその場は一度所属すると抜けられないし、また二つ以上に所属することもないとのこと、これじゃ淀むはずです。

  • 題名となっている「日本社会のしくみ」を中心に本書に書かれていることを簡単におさらいすると・・・

    ・「大企業型」・「地元型」・「残余型」の三類型の存在と、それぞれの類型の経年変化

    ・官僚制の移植と企業を超えた横断的基準の不在

    ・戦後の労働運動と民主化によって、長期雇用や年功賃金が現場労働者レベルにまで敷衍された

    ・中小企業において賃金が平準化されなかった理由は大企業への水平移動が起きなかったから

    ・日本の人事制度に何よりも必要なことは透明性の向上

    私個人の意見としては、職務給へと移行しなければもはや日本の未来はないとまで感じている。


  • 氷上

  • ‘生きて帰ってきた男(戦争から)‘ を書いた、小熊英二 が描く、日本社会のしくみ、なかなか奥の深い論考では、と思います。
    最後に出てくる、シングルマザーのパートの方からの質問、‘若い高校生と子供を抱えて生活の為に働いている私の賃金は、なぜ同じ水準なの?‘、という問いは、重たいですね。賃金以外の支援等を含めて(子育て支援的な)、色々な答えがあると思いますが、その辺りについて、あれこれ考えたく思います、★四つです。

  • 序章に「本書が対象としているのは、日本社会を規定している慣習の束である」とあります。
    さまざまな意見はあろうかと思いますが、著者による慣習の束の分析から導き出される「大企業型」「地元型」「残余型」の類型はある程度妥当性がある分類であり、現在の日本社会の成り立ちを概観するには良い分類体系ではないでしょうか。
    第1章と終章がポイントで、他は論を展開するのに必要だと思うものの冗長だと感じました。

  • 雇用慣行の歴史を中心に膨大な参考文献を参照しながら、客観的に論じた良書。

    日本社会のしくみを「大企業型」「地元型」「残余型」の三層構造であるとし、それが形成された歴史的背景を紐解いていく。

    日本と欧米の雇用慣行を比較する際に、一般的に使われる言葉として欧米は「ジョブ型」で日本は「メンバーシップ型」であるという区別があるが、著者はこれを労働組合の特徴の違いであるとし、上記の区分とは違い、欧米を「職務のメンバーシップ」日本を「企業のメンバーシップ」と定義する。

    そして雇用慣行をそれぞれの国ごとに類型化するのではなく、上記2つに「制度化された自由労働市場」を加えた3つの社会的機能で類型化している。

    それぞれの章の冒頭には要約があり理解を助ける。文章も分かりやすく書かれており読みやすい。

    「ルールは合理的だから導入されたのではない。そもそも何が合理的で、何が効率的かは、ルールができたあとに決まる。ルールが変われば何が合理的かも変わるのだ。」というくだりは、私が本書で最も印象に残った部分である。

    最後の結論については弱いと言わざるをえないが、著者も言うように本書は政策提言書ではない。社会の「しくみ」を変えるのは何よりも我々自身がどう考え、どう行動するかによって決まるのである。

  • 終身雇用、新卒一括採用、定年制、正規・非正規、大学の役割など、社会を作るしくみや雇用慣行の起源について丁寧に論じた良書。色々な疑問を解消できた。

  • いい本でした。

    筆者は、①何を学んだかが重要でない学歴重視、②一つの組織での勤続年数の重視、という二つが、「日本社会のしくみ」を構成する原理の重要な要素と考え、それが成立した歴史的経緯を豊富な資料をもとに解き明かします。(そう言うわけで、注釈や参考文献が多いです)

    それは日本文化の特色などではなく、明治以降の日本が置かれた環境のなかで積み重ねられた偶然の蓄積によって生まれたものなのです。

    「日本社会のしくみ」が成立していく過程を描く中で筆者が紹介するエピソードの数々は、初めて知る話が多くて、そう言うことだったのか、と膝を打つことが何度もありました。

    個人的には、
    ・大学を卒業してから何十年もたったおじさんが、学生時代の成績にこだわる理由
    ・日本のお役所が7月に人事異動する理由
    ・大阪圏からの人口流出が1970年代から始まっていたという事実
    が、目から鱗なポイントです。

    本書は日本の雇用慣行が成立した経緯を解き明かした本ですが、副題は「雇用・教育・福祉の歴史社会学」となっています。雇用について書いた本が教育や福祉とどうつながるのか、それはネタバレになるので、是非本書をお読みください。

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著者プロフィール

慶應義塾大学総合政策学部教授。
専門分野:歴史社会学。

「2023年 『総合政策学の方法論的展開』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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