「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略 (東京堂出版) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • ロシアがなぜウクライナに侵攻したのか、その理由がよく分かる一冊。
    ロシアが言っていることが本気なのだと気付かされた。
    要塞の住人からの立場に立って見ないと見えない景色がある。
    この国を含めた主権国家とどう向き合っていくのか、今後も問われ続けるだろう。その時、私たちは誰に託すのか、今からも考え続けたい。

  • まるでナンセンスと思われたロシアのウクライナ侵攻にも、ロシアなりの理由が、というか考え方があるのだということがわかる。ロシアの考える国境はきっぱりとした線ではなく「浸透膜」のようなものだとか、主権が及ぶ範囲は「グラデーション状」なのだとか、そもそも「主権」を持つことができるのはロシアやアメリカといった大国だけだとか……それはロシア人のリクツであって他では通じないだろうと言っても仕方ない。「ロシア人はそう思っているのだ」と考えると、いろいろとつじつまが合うのだ。このところニュースで毎日聞く、プーチンの荒唐無稽な主張が、たんなる詭弁ではなく「ほんとうにそう思っているのだ」ということを実感できる読書だった。

  •  著者の問題意識は「復活したロシアの脅威」にあるようだ。脅威の根底には独特なロシアの国家観──浸透的な国境、制限された「主権国家」(ドイツも入らない。中規模以下の国のほとんどは入らない)──にある。これが手前勝手な好戦性につながっていると見ている。
     しかし評者の見るところでは非常に重要な要素である「アメリカからの脅威」をほとんど語っていない。実は一個所触れているのだが。以下引用。

      さらにプーチン大統領はここで、「戦争に見えない戦争」が行われているという認識を示唆している。米国の覇権に従おうとしない国に対しては「軍事力の行使、経済およびプロパガンダの圧力、内政干渉、そして『超法規的な正統性』アピール」が行われ、「何人もの指導者に対する違法な脅迫」が加えられるという。プーチン大統領によれば、米国はこのような方法により、一極世界に楯突く不都合な体制を公式の戦争に訴えずして転覆させてきた。
      こうした陰謀論的な世界観は、ロシアの政治的言説においては決して珍しいものではない。たとえば2000年代半ばの旧ソ連諸国では、グルジアのバラ革命(2003年)、ウクライナのオレンジ革命(2004年)、キルギスタンのチューリップ革命(2005年)によって、権威主義的な体制が民衆の反抗により相次いで打倒された。コロンビア大学のミッチェルが指摘するように、こうした民主化革命を担った政治勢力への米国の支援は「重要だが小規模」なものであり、これらの運動が米国によって操られていたという性質のものではない。(p74)

    「陰謀論」とは、西側主流メディアがその内容にかかわらず異端に貼り付けるレッテルだが、ミッチェル氏は民主化勢力への米国の支援があったと言っているわけだから、内容は単なる事実のようだ。「重要だが小規模」という表現は、「黒だけど真っ黒ではない」みたいな話だろうか。
     ただし小規模かどうかについても評者には疑問がある。アメリカ政府の「ウクライナ担当」であるヌーランドは自ら「1991年のウクライナ独立後、米国は50億ドル以上を投資してきた」と語っている。ウクライナは人口が約4000万人で、一人当たりGDPが3000ドル前後の貧しい国だが、50億ドルは一人当たりにすれば120ドル以上の金額になる。もちろん全国民にばらまく必要はないわけで、仮に一部に武器の形でばらまくと大変なことになる。
     著者がプーチン大統領発言が実態と異なるものと否定したければ、わざわざミッチェル氏の指摘を付け加える必要はないわけだから、実は著者は指摘したい部分をプーチン大統領の口を借りて述べた、ということかも知れない。しかし立場上はプーチン発言から距離を置かざるを得ないので「陰謀論」というレッテルを貼り付けておいたのかも。
     プラウダを裏読みするような書評になっているが、「政治学者もつらいよ」というところだろうか。

  • 読みやすく面白い。小泉悠先生はTVで見てても分かりやすく説明してくれる人だと思っていたけど、書籍はさらに良いですね。

    2022年のロシアによるウクライナ侵攻の3年前に出された本だが、出てくる主張がほぼ地続きで現在に繋がるのでとても強い説得力があります。

  • 2019年に発行された本著であるが、現在のウクライナ戦争を理解するには非常に重要な本である。

  • ウクライナ戦争以降一気にの著名度が増した小泉悠氏の著作。発行時はウクライナ戦争前であったが、本作を読むとロシアの行動のみならずそれに対するバルト三国の反応も納得が行くものであった。豊富な取材と調査に基づき説得力もあった。

  • ロシアについて概括する本
    主張のポイントは良く判らず

  • 最近のロシアの様子がわかります。もっと勉強したいと思います。

  •  本書の著者は今や時の人となった小泉悠氏である。本書はロシアの国家戦略について、「主権」と「勢力圏」に関するロシア独自の考え方を踏まえたうえで考察するものである。筆者は本書を「ロシアの「境界」をめぐる物語」と言い表している。

     第一章ではロシアにおける地政学の系譜と存在感を説明し、特にドイツ地政学に近い考え方が支持を得ていると指摘する。そのうえで冷戦後ロシアに在った三つの潮流、則ち「西欧志向」「帝国志向」「大国志向」を概説し、現在のロシアが「大国志向」に落ち着いていると指摘する。

     第二章では「主権」と「勢力圏」に関するロシア独特の考え方が説明される。ロシアは一部の大国しか主権国家と見做さない。そしてロシアは、基本的にはウェストファリア的秩序を強力に支持し、R2P(保護する責任)論を糾弾する一方で、旧ソ連圏の諸国に対してはむしろ積極的にR2Pを振りかざすという、矛盾した態度をとっていると指摘する。この背景には少数の主権国家たる大国がそれぞれの勢力圏を持つというロシアの考え方があると指摘する。しかし筆者は、武力介入に頼るロシアの姿勢はむしろその勢力圏崩壊を早めていると述べる。
     
     第三章から第七章では、ロシアが第一章・第二章で説明されたような思考法に基づき、実際にどのような対外政策を推進しているのかを説明する。第三章ではグルジア(ジョージア)とバルト三国をとりあげ、ロシアと隣接諸国の間での葛藤を描き出す。第四章ではロシアとウクライナの関係が説明される。旧ソ連第二位の規模を持つウクライナの去就は、ロシアの「勢力圏」維持にとって死活問題だという。第五章ではロシアの中東介入が説明される。第六章は北方領土をめぐる日米中露関係が主題であり、ロシアは日本を半主権国家と見做し、本当に北方領土に米軍基地がおかれないのか大いに疑問視していると指摘する。第七章は北極をめぐるロシアの政策を取り上げる。
     
     ロシアがウクライナ侵略という暴挙に出た今、ロシアの「思考法」を知っておく必要はかつてなく高まっている。侵略者の理屈など理解したくないという向きもあるだろうが、理解と支持は同義ではないことに注意せねばならない。相手の思考法を知らなければ、対処を誤る危険性がある。

     筆者は言わずと知れたロシア通であり、ロシア語に堪能であり、ロシア人と結婚した。従ってロシア国家とロシア人がどのように考えてどのような行動をとるのか、非常によく知っている。しかしロシアの代弁者では決してなく、ロシアの侵略を擁護する傾向は全く見受けられない。ロシアの侵略を国際秩序への挑戦、そして時代錯誤の戦争と見做す点で、多くの研究者と軌を一にしており、ロシア軍事研究の立場から積極的な発信を続けている。このような稀有な存在である筆者の視点から描き出されたロシアの思考法は、極めて貴重であるといえる。

     もともとは物書きであった筆者にふさわしく、本書は非常に読みやすく書かれている。現下の情勢に関心を持つすべての人に推薦する。
    (文科三類・2年)(1)

    【学内URL】
    https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000094396

    【学外からの利用方法】
    https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/literacy/user-guide/campus/offcampus

  • ロシアによるウクライナ侵攻において、ロシア側の論理を知るために手に取った。

    これまで、どこかロシアもまたヨーロッパの中の国であり、西側諸国と大きく違わない形で動いているんだろうと思っていたが、本書を通読してその誤解に気づいた。

    ロシア帝国からソ連、そしてソ連崩壊後のロシアという国家において、そのアイデンティティは民族と外敵との戦いという部分が強く、だからこそ「ロシア系住民の保護」や「旧ソ連構成国への介入」が正当化されうるんだなという感想。

    東欧における武力抗争などについての前提知識はあまりなかったが、近年の出来事などの解説も入るのでとっつきやすい。

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著者プロフィール

小泉 悠(こいずみ・ゆう):1982年千葉県生まれ。早稲田大学社会科学部、同大学院政治学研究科修了。政治学修士。民間企業勤務、外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所客員研究員を経て、現在は東京大学先端科学技術研究センター(グローバルセキュリティ・宗教分野)専任講師。専門はロシアの軍事・安全保障。著書に『「帝国」ロシアの地政学──「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(東京堂出版、2019年、サントリー学芸賞受賞)、『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書、2021年)、『ロシア点描』(PHP研究所、2022年)、『ウクライナ戦争の200日』(文春新書、2022年)等。

「2022年 『ウクライナ戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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