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感想・レビュー・書評
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ああ、もっと頭が良くて物理とか得意だったらよかったなあ…!!とつくづく思ったけど、よくわからないなりに楽しめた。同じ著者が原作の映画『メッセージ』終盤で、壮大で圧倒的な何かに突如包まれ、謎の啓示を得たようでなぜだか涙があふれだす(…まあ、あそこまではいかないけどそれに近い)感覚が再現される瞬間が幾度があった。好きなのは後半の「偽りのない事実、偽りのない気持ち」、「不安は自由のめまい」あたり。尻上がりにチューニングできてきた感じか。コニーウィリスの時も思ったけど、大森望さんの訳は賢くて凛々しく、でもダメなところもあってキュートな女性の描写が巧いなと思う。以下、備忘録。
「商人と錬金術師の門」:アラビアンナイト風寓話。
「息吹」:私はなんでか人間が機械の肺を持つようになった未来の物語かと思い込んで読んでしまった。静寂の空間で金属の薄片がそよいでいる不思議なイメージは印象的だが、いまいちよくわからず、あんまりはまれなかった。無念。
「予期される未来」:他の短篇にも出てくる自由意思のお話。オチがショートショートっぽくてほっとした。
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」:設定や世界観もろもろは好きなのだが、ちょっと長すぎ?SFは長編より短編、という自分の好みを再確認。ここ1,2年で、平野啓一郎の『本心』、パワーズ『オーバーストーリー』など、VRやゲーム、アバターが小説の中で重要な役割を果たすものを続けて読み「これからはそういう時代か!」とか神妙に思ってたけど、単に自分が無知だっただけで、2010年時点ですでにそういう世界が鮮やかに描かれていたのだった。あと、『クララとお日さま』などのAI物を読んでもどこか「機械は機械じゃん」と身もふたもない感想を持ってしまいがちだったのだが、これ読んでちょっと考え変わったかも。
「デイシー式全自動ナニー」:カタログ記載の紹介文、というていの堅い文体。こういうの混ざってると楽しい。実は父と息子の物語だが、キモとなるはずの台詞が何度読んでも意味がわからず、とあるブログの解釈に助けられた。
「偽りのない事実…」:個人のライフログを検索して過去の出来事を視界の片隅に表示できる「リメン」という新しいツールの導入と、アフリカのティヴ族における口承→記録という、新旧ふたつの技術革新の過渡期が並行して語られる構造が巧い。断絶した父と娘の物語でもあるのだが、たしかに子どもが小さい頃の記憶って、何度も見返したお気に入りの写真とかによって上書きされて、何が真実だったかもはやわからないようなところあるよな。デジタルの力を借りてすべきことは「正しかった」と証明するのではななく、「まちがっていた」と認めること。追及より寛容。正しい「ミミ」と正確な「ヴォウ」。
「大いなる沈黙」:オウムのやつ。
「オムファロス」:「若い地球説」とか全然知らなかったけど、この短篇集のなかでは比較的わかりやすかったかも?これも自由意思の話。
「不安は自由のめまい」:プリズムのしくみ、いまいち理解できてない気がするけど(自分もパラセルフのひとつなのか、起点だから別格なのか)、犯罪?ミステリー?要素もあるし、主人公ナットの造形もよくて、面白く読めた。分岐されていく並行世界のどこか(いくつか)で、結局自分が悪しき選択をしていたとしたら、今ここの自分が善き選択をしても無意味ではないか?などさまざまな問いを投げかけられる。これと「オムファロス」を続けて読むことで、日頃空しさの沼に浸かって生きてるような自分でも、ひとりの人間としてこの世界に存在する意味に手を伸ばせたような、うっすら前向きになれる不思議な力があった。 -
「息吹」(テッド・チャン:大森望 訳)を読んだ。
うーん、(まったく別ジャンルの「遺伝子」や「ライフスパン」あるいは「ホモデウス」なんかを読んだ時に感じたんだけれど)この先人類が向かう先にはある意味においてヤバイ世界が待っていて、この短編集はそれへの警鐘ではないのかと私には思える。 -
話の仕組みが高度で、読むのが難しかった。「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」がとても面白かった。人間がAIのことを動物と同じようにペットして認識し、それがだんだんと対等的な立場になっていくのが良い。アナのティジェントのプラットフォームが終わる時、潰れる動物園と同じ気持ちになったいうのが印象に残った。
恋愛、ビジネス、SF. 、人間関係が縦断的に盛り込められていて、傑作。
ティジェントの選択という話も心に残った。彼らは経験を積んでことで成長していくが、いつ彼らの選択権を認めるのか、そしてそれは倫理的に危ういけど、いいのか。重要な問題点だと思う。
最後にアナはティジェント達を選び、デレクはアナのことを選んだというのはこの話の面白いところだと思う。機械といくら仲良くなっても、最後には人間を選んでしまう人も多いだろう。 -
どの話も面白かったけど、個人的に気に入ったのは、「商人と錬金術師の門」、「偽りのない事実、偽りのない気持ち」、「不安は自由のめまい」です。登場人物みんなが、テクノロジーに翻弄されているような感じですが、人として本当に大事な部分、本質的な部分は、もっと人間っぽいところにある。テクノロジーが進んでも、本質は変わらないような気がしました。
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「息吹」の章は読み終えた後に静かな感動がある。短いストーリーの中で、いずれ死ぬのに生まれてくることに何の意味があるのか?という問いに対する、一つの美しい回答を出していると思う。エントロピー増大則に基づいたアイディア、謎の解明のために自らを解剖するという筋書きが斬新で面白い。二回読んだ。
でも自分はテッド・チャンの本は少なくとも数年は読まないだろうと思う。SF慣れしていないせいもあるだろうが、どの章も細かい描写で具体的に何が起きているのかとても想像しづらい、映像で説明してほしいと何度も思ってしまった。映画化したら面白そう。 -
どれも面白いし、一捻りふた捻りある。
短編でも、しっかり読み応えがあって、
とっても楽しかった。 -
17年振りって、余りに待たせ過ぎですが、期待を裏切らずの作品でした。短編SF集ながら、ひとつひとつのテーマが深遠。個人的には、「あなたの人生の物語」は超えていないと思いますが、それでもやはり流石。
バーチャルで育成した子供が感情を持つようになり、さらにAIBOみたいなロボットにその魂を移植できる世界。
人生の分岐点で別の選択肢をとった場合の自分と、コミュ二ケーションできる機械が発明されたあとの人々の行動。
ありえないような設定が、読み進めるうちに現実感を帯びてきて、空恐ろしくなる発想と筆力は、この作家ならではです。
私は全然詳しくないですが、すこし...
私は全然詳しくないですが、すこし先の未来を描いている感があって、意外と世界観をイメージしやすい作品が多いです。(巻頭2作品はちょっと難しかったかも)
3年後に読んだら、また現実との距離感が大きく変わっていて、感想が違いそうです。
個人的には、気になったタイミングで、是非おすすめしたいです。