さいはての家 (集英社文芸単行本) [Kindle]

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  • 人生からドロップアウトした人達が住み着いた"家"を巡る連作短編集。
    現状から逃げ出したくて、流れ着いた「さいはての家」。
    郊外にひっそりと佇むその古い借家は、人生を諦めた負け犬達を癒すオアシスとなるのか。
    それとも新しい人生をやり直す復活の場となるのか。

    面倒くさい現状を一時でも忘れさせてくれる"逃げ場"は、誰もが求めている"必要な場"なのだと思った。
    例え一時であっても、鬱々とした気持ちをリセットしてくれるはずだから。
    自分で自分を追い込んでがんじがらめにならないで。
    逃げて生き延びることも必要なことなのだと思った。
    逃げたっていいんだよ、きっと他にも道はあるよ、と彩瀬さんから優しく慰められた気持ちになった。

  • さまざまな事情を抱えた人がひととき過ごしていくその古い家をめぐる連作短編集です。
    彼ら彼女は世間に人々に追われ、それでも「家」を求めてこの古く傷み庭に緑生い茂る家へとたどり着く。救いが訪れるわけでもないけれど、この家での暮らしの中で、何かを掴み、何かに気づいて、彼らはまた別の場所へと移ろっていく。それが希望を抱えたものとは言い切れなくとも、彼らにはこの「家」が与える時間、空間が必要なものだったことは確かだった。
    長い人生のあいだには、ひとときでも寄り道する場所、少し道しるべを与えてくれる時間が必要なときがある。その時間を、きっかけを与えてくれるこの家のような居場所を、見つけられていたらいい、この先見つけることができたらいいな、とそう思いました。

  • 全体的に暗い話が多いけど、読みやすいし、ストーリーには入りやすい。

    1番好きだったのは最後の「かざあな」。
    仕事や単身赴任で残してきた妻と幼い子供から逃げる話。不動産の営業のアフロ頭・中岡くんがめちゃくちゃいい人だなぁ。

    あと「ゆすらうめ」で小さい頃に親にあんまりかまってもらえなくて、大きくなって親の介護をしている話。
    自分が昔してほしかったことを誰かにすると、昔の自分がしてもらったような気がして楽になるんだ、ってところが好きだった。

  • *家族を捨てて駆け落ちした不倫カップル(「はねつき」)。逃亡中のヒットマンと、事情を知らない元同級生(「ゆすらうめ」)。新興宗教の元教祖だった老婦人(「ひかり」)。親の決めた結婚から逃げてきた女とその妹(「ままごと」)。子育てに戸惑い、仕事を言い訳に家から逃げた男(「かざあな」)。行き詰まった人々が、ひととき住み着く「家」を巡る連作短編集*

    様々な影を抱えた人々が、人生のひとときの逃げ場に選んだのは・・・古くてボロだけれど、日当たりのいい庭があって、何故か入居希望者が途切れない一軒家。陰が影を呼ぶのか、住民たちは見事にその「家」の昏さに馴染み、一時羽を休めて、また旅立っていく。連作なだけあって、「家」の存在がどんどん増していく様もいい。
    その作品もしっぽりと読みましたが、特に良かったのが「ままごと」。天然な姉と温厚な恋人、だったはずの二人に対する世界観の反転っぷりがお見事!そうしてひととき避難させてもらった「家」の屋根裏に何かを置いていこうかな、と呟くラストも良し。

  • 追い詰められた人々が逃げてきてはひととき暮らす、地方都市にある古びた「さいはての家」に暮らす訳ありの人々を描く連作短編集。
    駆け落ちしてきた男女、チンピラとその幼馴染、謎の高齢女性、家出した姉妹、育児休業明けに地方へ出向させられた男が入れ替わり立ち替わりと移り住んでくる。彼らの人生の断片の切り取り方が見事だし、各話が少しずつリンクしているのもよかった。彩瀬まるさんの繊細な表現力はますます磨きをかけてきている気がする。
    最終話「かざあな」で、逃げていた主人公が解決への一歩を踏み出したので読後感はよかった。

  • 怖すぎる

  • 現実にはできない逃避行。憧れちゃう。

    この手のジャンル大好物でございます。

    どの章も面白かった。
    とくに「ゆすらうめ」が好き。

  • 小さな町の古い一軒家(庭付き)
    わけあって越してきた住人
    屋根裏には段ボール、中には脈絡ない道具たち 、幾人かの住人の記憶?
    ここでのひとときを経て生活があらたまる
    行き詰まった時にはこの一軒家に住まいたいなぁ

    「ままごと」が良かったなぁ

  • 古いが庭がある不思議な一軒家に、何かから逃げたい人々が代わる代わる住む、短編連作。真綿で首を締められるような、ジリジリと傷つくような、なんとも言えない読了感。でも、最後の章の大家さんの、逃げて生き延びた自分を褒める、という言葉がささる。

  • 初出 2015〜19年「小説すばる」

    自分が抱えているものから逃げてきた5人(組)が次々たどり着く築40年過ぎの家。その天井裏には前の住人の物が入った段ボールが置かれたまま。

    5話は執筆順に並べられているが、物語の時系列は違うようだ。
    最初は治癒の霊能のある老いた女性教祖。儀式で死んだ信者の遺体遺棄事件で警察に追われて来てひっそり住んだが、隣りの老人ホームの入居者の生き霊と話し(幻覚?)、衰弱して庭で死ぬ。
    次は認知症の母親を老人ホームに入れて隣に住んだ男の元に、その小学校の友人で殺人を犯して逃走中のチンピラが同居する。一時帰宅した母親には前の住人が見えた。チンピラは老人ホームの介護職員の若い女性をだまして金を貢がせ、自暴自棄から脱出できず更に逃げる。
    製菓会社社長の娘二人。姉は父の決めた有能な社員との婚約から逃れて来て、老人ホームの栄養士として生き生き働く。大学生の妹は父親に能力を認められていると思っていたが、姉の元婚約者と結婚させようとする親の意図を知って激怒し、ストーカーからも逃れて姉と同居するが、ストーカに突き止められる。
    駆け落ちしてきた年の差カップルは、男は家にこもって本を読み、女がホームセンターで働く。読み聞かせてもらった小説を女が吸収して人生を考えるようになり、男が捨てずに持っている子供が作った折り鶴を見て、自分が捨てられると予感し殺意を覚える。
    最後は育休をとったために子会社に左遷されて来た男で、家族から離れて安らぎを感じてしまう。子会社の不正に巻き込まれて更に飛ばされて退職するが、妻には言えず音信不通になる。幻覚なのかホラーっぽくなり、家に蛇が入り込んで、天井から人間の手が伸びてきて男に語りかける。自分の中の自分を否定する言葉だと男は気づく。「逃げるのは悪いことじゃない、逃げ延びて生きろ」と大家に言われて、男は放置していた携帯電話を手にする。
    最後の話が一番深くて心に残る。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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