- Amazon.co.jp ・電子書籍 (200ページ)
感想・レビュー・書評
-
少し前に旧作『マザリアン』を読んで、すっかり気に入ってしまったマンガ家・岡田索雲(さくも)。その最新作である。
本日発売のこの第3巻が最終巻となる。
この『メイコの遊び場』もとても面白いのだが、面白さを説明しにくいマンガである。
1973~74年の大阪・釜ヶ崎を舞台に、不思議な能力を持つ少女(推定10歳)・メイコの活躍を描く、一話完結のファンタジー。
……というふうに説明しても間違いではないが、メイコの持つ能力が尋常ではない。
いつも眼帯をしている彼女が眼帯を外して左眼を見せると、それを見た者は彼女の心の中の世界に引きずり込まれ、心を壊されてしまうのだ。
彼女はその能力をヤクザ組織に切り売りし、父と2人の生計を立てている。殺し屋ならぬ「壊し屋」。
メイコが裏社会の人間をターゲットに行う「壊し」のシーンが、毎回のクライマックスになる。
「遊び場」というタイトルのとおり、メイコが釜ヶ崎の子どもたちと行うさまざまな「遊び」(釘倒し・松葉相撲・鬼ごっこ・石けりなどの古い遊びが中心)が、印象的に描かれる。
そして、毎回のメイコの「壊し」は、その回に登場した遊びがモチーフになる。
ノスタルジックな子どもの遊びとグロテスクな「壊し」が重なり合って、毎回、不思議な読後感を残す。
……というふうに説明しても、まだ「それのどこが面白いの?」と思うかもしれない。実際に読まないことには伝わらない面白さである。
作者はつげ義春から強い影響を受けているようで、メイコの遊び仲間の一人「ヨシハル」は、つげの代表作「ねじ式」の主人公そのまんまの顔をしている。
全体も、「つげ義春が大阪を舞台に一話完結のファンタジー・シリーズを描いたとしたら、こんな作品になるかも」と思わせる。
もっとも、この巻のあとがきで作者が明かしたところによると、本作は日活ロマンポルノの傑作『㊙色情メス市場』(釜ヶ崎が舞台)と、平山夢明の短編小説「恐怖症(フォビア)召喚」に強くインスパイアされたものだという。
「恐怖症召喚」(短編集『他人事』収録)は、人を発狂させる超能力を持った少女の話で、言われてみれば本作に似ている。
メイコと遊ぶ子どもたちがみな貧しく、それぞれ複雑で陰惨な家庭の事情を抱えているあたりも、「ほのぼのファンタジー」とは一線を画している。
ただし、最底辺の荒涼たる世界を描きながらも、全体の印象はあたたかい。差別される側、社会から疎外された側の人々に向ける作者のまなざしがあたたかいからだ。
版元がつけた本作のキャッチコピーは、「兇悪ビルドゥングス・ロマン」というもの。何だかよくわからないが、そんなふうにしか表現できない独創的な面白さではある。
「ビルドゥングス・ロマン」という言葉が用いられているように、本作はメイコの成長を描く物語とも言える。
父親に命じられるまま、「壊し」を続けてきたメイコは、同世代の子どもたちと仲良くなることを通じて、少しずつ普通の子どもに戻っていくのだ。
73~74年が舞台で主人公たちが10歳くらいということは、1964年生まれの私と同世代ということになる。
そのため、作中に登場する流行や出来事(ツチノコ、石油ショック、仮面ライダー・ブーム、ノストラダムス・ブームなど)がみな私には懐かしく、その点も魅力的だった。
何より、絵がとても味わい深く、何気ない場面を何度もくり返し楽しめる作品だ。
そして、本作も前作『マザリアン』も、「いかにも『漫画アクション』連載作だなァ」と思わせる。
メイコたちが釜ヶ崎のホルモン屋で飲み食いする場面は、かつて『アクション』から生まれた大ヒット作『じゃりン子チエ』を彷彿とさせる(当然、意識して描いているはず)。
それ以外にも、〝『アクション』らしさ〟が随所に感じられる。
『スピリッツ』や『ヤンマガ』や『モーニング』からは、このような作品は生まれないだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ちょこちょこ入る小ネタがおもしろかったのに…完結なのは残念
-
完結。とてもよかった。平山夢明の短編が元ネタになっているのか。読んでいるはずだがまったく覚えがない。