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感想・レビュー・書評
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20210908、amazonレビュー済
この作品は、創作であるか作者本人であるかは明白にされていないのだが、中国で1984年に生まれた女性、のこれまでの半生を、その家族や周りの社会、を緻密に描きながら我々に伝えてくれる作品である、と私は感じた。
その視点は常に主人公の女性であるのだが、何故か本人が生まれた時の父母の葛藤、その直後に訪れた別れ、を描いているというような点で、どこか現実的でない、空想科学小説であるかのような印象を受けた。解説によると作者はもともと中国のSF小説家であり、その分野での数々の賞を受賞していると聞き、腑に落ちたような気がした。
さきに私が書いたように、緻密でまたかつ繊細な描写は(中国人以外の)読む者に、かの国の近代の歴史、通俗習慣、またそれら社会環境によって形成されたのであろう同世代の者たちの考え、希望、思想…のようなものを伝えてくれる。個人的な感想ではあるが、それらこれまで見聞きしたことのないさまざまな事柄は、あたかも異文化に触れたときのような、新鮮な驚きを持って私の好奇心を刺激してくれ、時間はかかったが飽きずに読み進めることが出来た。
また、表題が示す通り、ジョージ・オーウェルの傑作「1984年」への、作者(すなわち主人公)のさまざまな思い入れとともに引用がなされており、主人公、ひいては作者(主人公)をとりまく中国国家への極めて「核心に触れないレベルでの皮肉」を伝えているようにも私は感じた。
長編ではあるが、科学者でもある作者(博士号を取得していると聞く)による(繰り返しにはなるが)丁寧な文体と、緻密な人物描写、情景描写により私たちの多くが知らないであろう(1984年頃を起点とした)近代中国のこれまでの発展の歴史を多感な主人公の眼を通して、追体験することのできる作品である。コロナ過で外出、旅行もできない中、中国近代史を歴史書ではなく実体験した者の視点から、学ぶこともできるのではないかと思われる本書を、ぜひお勧めしたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本の自由論に励まされた。自由とは、誰かに与えられた役割に自分を押し込むことではない。自由とは、自己の拡張である。自分がどう見られたかより、自分が何を見届けたかが大事である。自由のために、世の声から逃げる必要はない。それを引き受けて処理できることが自由である。
個人の普遍的な悩みと、中国の現代史が重なっている。たくさんの中国語の登場人物の名前を覚えるのは大変な一方で楽しくもあった。 -
折りたたみ北京の郝景芳さんの自伝体小説。1984年に中国に生まれた作者(と似た境遇の人)と父母世代が遭遇したであろう事件(文化大革命に家族が巻き込まれる、90年代初期の思想的転換、21世紀初めの労働力の大移動)を踏まえ、主人公である軽雲の心の動きをつづる。自己肯定に悩むさまは中国の若者も日本の若者も同じ。軽雲の友人(1984年生まれだから、2010年には26歳前後)の様々な暮らしぶり(結婚していたり、独身だけど貧乏だったり金持ちだったり)の対比は現代中国での格差をうかがわせる。文化大革命の爪痕はまだ生々しく、日本の太平洋戦争のように風化するには時間がかかりそうだ。
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1984年に生まれた主人公が自由を見つけられない生きづらさを抱えて生きていく姿を描いた一冊。主人公の父母、祖父のエピソードも多く、中国の大躍進、文化大革命、天安門事件といった歴史的出来事が一市民の目線から捉えられている。
主人公にまったく共感できなかったため、どちらかと言えば時代に翻弄されて苦労した主人公の父、祖父のエピソードの方が面白かった。本の中盤では主人公が彼氏に依存して精神を病んでいくのだが、鬱々とした文章が続くのでしんどかった。
訳者のあとがきを読むと、著者がSF小説家ということもあり、随分各所に有名SF作品のオマージュがあったようである。SF好きでそういった部分が理解できれば、この本をもっと楽しめたかもしれない。