評判がすこぶる悪かったので、つまらなかったら途中でやめようと思ったのですが、文章力があるので、退屈しないで読めました。
文体というのかタッチは「最後のひと」に似てますし、松井さんの感性や観察力はキチンとしてると思います。他の本が出ても読めそうです。
『燿子のほうは、いつもひとりでする買い物を、今日は二人でしていることに、心浮き立っていた。』といったどうということのないエピソードがありそうなことばかりで、退屈しません。文章に緊張感があります。
一番よかったのは前半の前の夫と別れる経緯などかな。松井さんの実体験をストレートに書いてるのだろうかというリアリティで読ませます。
恋人ができてからは、この恋人像が女性から見た理想像みたいで男性からはピンときません。
夏目漱石の「それから」を読む鳶職という、知的肉体派といった設定や、彼女を愛してるということを能弁に語るんですね。ときに涙して。白馬の騎士につぐ理想的男子ではありませんか。
女性のほうはとまどいながら次第に惹かれていくって、なんだか昔の恋愛小説のパターンのような気がします。
女心をわきまえスマートで、情熱的でクールで、そんなヤツおらんやろと思ってしまいます。
別に小説はリアルな必要はなく、夢に出てくるような男性の夢物語を読みたいってことでいいんだろうけど。読者層は女性ってことですね。
「最後のひと」の教授は受け入れられます。「最後のひと」は章ごとに主人公を替えたのもよかった。「疼くひと」でそれは出来ないんじゃないですかね。薄っぺらで。
55歳の男性が70歳の女性を好きになる動機をリアルにするために、小さい時の中年女性との性体験が出てきます。
これは昔は性におおらかだったのに今は閉鎖的、だから高齢者の性も色眼鏡で見ることになるといった意味合いも出てきていて、必要だったのでしょう。
ただ興味は全くない話で、ないと彼の言動が不可解になるのでしょうがない。
55歳と70歳の恋愛だと、普通は母親がわりというマザコンを動機にするしかなく、それではまずいですからね。
ただ小さい頃のいびつな性体験がないと55歳の男性と70歳の女性の恋愛は成立しないというのはまずい気がします。普遍的な恋愛ではない、特殊な恋愛ってなりますね。これがこの小説の一番の弱点かと。
「恋愛は年齢に関係ない」って視点では書き切れなかった想像力か筆力のなさですね。実際は年齢にひどくこだわってるように読めます。
展開として、会うとすぐにホテルに行ってしまうのも性急(文字通り)すぎる気がします。順当なら会うことを何度か重ねるというプロセスが入ると思うのですが。
オシッコについては、なぜこれを入れたんだろ。ポルノ小説にありがちな設定なんだろうか。不可解です。性癖は非難すべきではないですが。
主人公は普通の人より自分へのこだわり、プライドが強すぎます。エリート意識がある知識階級の人というイメージがありますね。好きになるタイプではない。これは松井さんの意識の反映でしょうね。
最後はもっと不可解です。
別れのMailを出した後に事故死しているということは、自殺という読み方でいいんだろうか。
恋愛ドラマにありがちな「出会いと別れ」というようには描きたくなかったのか唐突感がありますね。