ナラティブカンパニー―企業を変革する「物語」の力 [Kindle]

著者 :
  • 東洋経済新報社
3.92
  • (4)
  • (4)
  • (3)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 60
感想 : 5
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (298ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 最近よく聞く「ナラティブ」とは何かを知るために読んだ。大企業が変革の背景にあるだけではなくて、ベンチャーやスタートアップもナラティブカンパニーであることが重要になっているとますます感じる一冊。特に「共創」「共体験」が鍵だと思う。有名企業の事例が多数紹介されていてそれを読むだけでも面白い。

    ・そこに「物語」はあるか?
    ・それは「共創」されているか?
    ・それは「構造」として機能しているか?

    ナラティブとは「物語的な共創構造」である。

  • 面白かった。個人的には採用活動しているときにスラスラと口説きができるとき、あれはナラティブを語ってたんだな (共創に誘い込んでる) というのが読後に一番最初に思ったこと。主語は誰か、舞台はどこか、時制はいつか、余白はあるか。常に自分に問いかけていろんな活動をしていきたい。

  • 近年、ビジネスの世界で注目を集める「ナラティブ」。予測できない変化が起こるニューノーマル時代、企業が成長し、飛躍する上で重要な、この概念について説く書籍。

    ナラティブとは、「物語的な共創構造」のこと。
    ナラティブを生み出し、消費者や取引先などをその物語の「当事者」として巻き込んでいく企業を「ナラティブカンパニー」という。

    ナラティブに似た業界用語に「ストーリー」がある。しかし両者は、次の3つの要素が決定的に違う。
    ①「演者」の違い:
    ストーリーの主役は「企業、ブランド」だが、ナラティブでは「あなた(生活者)」が主役である。
    ②「時間」の違い:
    ストーリーには「始まり」と「終わり」があるが、ナラティブは常に「現在進行形」で終わりがない。
    ③「舞台」の違い:
    ストーリーの舞台は「その企業が属する業界や競合環境」だが、ナラティブの舞台は「社会全体」だ。

    ここ数年、企業と社会の関係性において、次の「3つの変化」が起きている。ナラティブは、企業がこれらの大きな変化に対応するための答えとなる。
    ・変化①:「共体験」価値の高まり
    共体験とは、集団やグループ内で同じ体験価値を共有すること。SNSの浸透で、この共体験価値が高まっている。
    ・変化②:「社会的距離」の見極め
    SNSの普及で、企業が生活者と直に接点を持てるようになった。その一方で、「リアルの価値」も上がっている。
    ・変化③:「自分らしさ」が問われる
    企業の「信念と行動の一貫性」、そして「自分たちの持ち場(企業がビジネスをしている領域や、やらなければならないこと)で、それができているか」が重要になる。

  • ナラティブとストーリー
    「演者」の違い  主人公は「あなた」
    「時間」の違い  終わりがない
    「舞台」の違い  社会全体が舞台

    ナラティブ=物語的な共創構造

    ナラティブが重要になる3つの理由
    「共体験」価値の高まり
    「社会的距離」の見極め
    「自分らしさ」が問われる

    パーパス
    自分たちって結局何者だっけ?
    そもそも何をしたいのだっけ?
    パーパスは世の中にあるわけでなく、自分たちの中にしか存在しない

    ベネフィット市場を意識する
    サンリオ キャラクター→社会貢献 キティちゃん 思いやり(compassion)
    サウスウェスト航空 航空サービス→自由

    ナラティブスクリプトの作成
    1.ナラティブのタイトルを決める
    2.範囲を決め、余白を残す
    3.未来のステークホルダー体験を組み込む

    ナラティブは共創するもの
    マルチ化が鍵
    ターゲットのマルチ化
    メッセージのマルチ化
    タッチポイントのマルチ化

  • ナラティブとは「物語的な共創構造」。
    共感ではなく、共体験。

    ナラティブカンパニー企業を変革する「物語」の力

    ・一つだけ確信を持って言えることは、「ナラティブ」はこれからの時代に極めて重要な概念であり、それを理解し実践することは企業価値に直結するということだ。「物語」の力が企業を変革し企業の価値を高めていくのである。
    ・ナラティブとは「物語的な共創構造」である。何らかのストーリー性をはらんだ構造の中で、企業活動(広告やマーケティングはもちろん、商品開発や人材採用に至るまで)が行われる。物語的な構造には、消費者やユーザーはもちろん、従業員や取引先や株主などのあらゆるステークホルダーが巻き込まれる。物語の「聴衆」としてではないその「当事者」として、だ。1984年のアップルの CM がこれほどまでの成功を収めたのは、CM =広告作品としてのクオリティもさることながら、そこにナラティブ=物語的な構造があり、その中で世に放たれたからなのだ。 
    ・ナラティブの特徴の一つは「終わりのない物語」だとこと、起承転結があって最後に「THE END」を迎えるストーリーとは違って、物語的な構造であるナラティブに終わりはない。常に現在進行形なのだ。

    ■「同じ空間で、同じ時間に、同じことをする」という体験。「共体験」価値の高まり
    ・「共体験」とは、ある集団内・あるグループ内で同じ体験価値を共有することだ。
    ・スポーツ観戦を思い起こして欲しい。スタジアムで観戦しているとどこからともなく観客が WAVE を起こし、それが次々に他の観客に伝播していってスタジアム全体に一体感が生まれることがある。これが「共体験」だ。「同じ空間で、同じ時間に、同じことをする」ということがポイントだ。音楽フェスなどで同じ音楽でみんなでダンスをすることも共体験。そういう意味では盆踊りも共体験である。こういう話をすると、では「共感」と何が違うのかという質問をいただくことがある。僕は「共体験」と「共感」の決定的な違いはそこに「価値共有」があるかないかだと思っている。
    ・「共体験」は「価値を共有する」ことがポイントで、集団内でのある種の価値やアイデンティティという要素が入ってくる。深くて持続的な結びつきにつながる体験である。そしてこれからは同じ体験、同じ価値を共有する「共体験」が重要になってくる。

    ■SNSによって高まる「共体験」価値
    ・この「共体験」と SNS には深い結びつきがある。なぜなら「共体験」は同じ関心や興味を持っている人達から始まるケースが多いからだ。そして SNS は同じ興味・関心を持つ人たちが集まりやすく、強く結びつく手段でもある。この数年におけるSNSの浸透、普及が「共体験」価値の高まりに関係している。
    ・つまりここで言いたいのは、特定の興味や関心を持つ人たちの多層化、ミルフィーユ化は日本だけではなくアメリカなど世界中で起こっているということだ。 SNS などで特定関心層がたくさんでき、それがミルフィーユのように多層構造となり、その関心層の中で、様々な「共体験」が生まれていたのである。

    ■企業やブランドも「共体験」の一員になるべき
    ・「共体験」を見つけるだけでなく「共体験」自体をデザインしていくことも必要になるだろう。どういうことかと言うと、どんな価値で人を集めればいいかというところから考えて、企業やブランドが一歩通行で偉そうにしているのではなく、自らも共体験者の一人となって、「共体験」の輪に入って行かなければならないということだ。

    ■パーパスの設定:実践の3つのポイント
    ・パーパスの策定は、ナラティブカンパニーの起点となる。パーパスを定めるにあたっての実践は三つのポイントがある。
    ・1.内在する暗黙知を可視化する
    ・2.ベネフィット市場を意識する
    ・3.設定のオーナーシップを維持する

    ●1.内在する暗黙知を可視化する
    ・パーパスは結局のところ「自分達の中」にしか存在しない。創業時の思いは時が経つにつれて企業の暗黙知となる。企業の成長とともに、起点が DNA と化したとすればそれも素晴らしいことではあるが、企業の新陳代謝や外向けの発信を考えれば、その暗黙知を可視化することが求められる。ソニーやサンリオもそのプロセスを「外注」することなく社内で徹底的にヒアリングすることでパーパスを可視化していった。
    ●2.ベネフィット市場を意識する
    ・パーパスを定めることが、時としてその企業やブランドの差別化に直結することがある。そこで意識すべきなのが、いわゆる「ベネフィット市場」だ。ハローキティのベネフィット市場は「キャラクター」ではなく「社会貢献」であったし、サウスウエスト空港のベネフィット市場は「航空サービス」ではなく「自由」であった。またそれは安易にブルーオーシャンを目指すということでもない。既に実装されている、ブランドのベネフィットありきだからだ。そのブランドが「長期的かつ独占的」に保有できることが重要なのだ。
    ●3.設定のオーナーシップを維持する
    ・パーパスはその企業に内在しているものだから、設定のプロセスでは比較的大勢にヒアリングしたり、広く意見を募ったりする必要がある。つまり「密室」で決めることはできない性質のものだ。 

    ■メルカリもジントニックも、認識を変えて成功した
    ・日本を代表するメガベンチャーとなったフリーマーケットアプリのメルカリ。東証マザーズ上場前の2017年、世の中のメルカリのパーセプションは「ポッと出のイケイケな急成長ベンチャー」だった。当時の認知度はほぼ90%。大きな注目を浴びていたが「違法な商品の売買の場として利用されているといったネガティブリスク」が顕在化し、メルカリは「法令遵守意識の低い自社利益を追求する企業」だという認識が生まれつつあった。
    ・これを 「CtoC マーケットのインフラを担う応援すべきテクノロジー企業」というパーセプションへと変容させることがメルカリの広報に与えられたミッションだった。
    ・ 洋酒メーカーのバカルディジャパンはジントニックというカテゴリーの パーセプションをカクテルの一種から大衆的なアルコール飲料へと変化させることを狙った。 戦略のキーワードは「食べ合わせ」。 AI を用いた科学的分析で「ジントニックと相性の良い食べ物は何か?」という実証を行い、その結果導き出されたのが「カレー」だった。ジントニックとカレーは「味」という部分で補完関係にあり、スパイスがシナジー効果を作る非常に相性の良い組み合わせだった。
    ・ 2019年10月バカルディジャパンは「ジントニックとカレーは、赤ワインと肉以上に相性がいい」というプレスリリースを発表。この意外な組み合わせは、 SNS 上でも「試したことはないけど気になる」「まさかの面白いことを全力で研究している」といった反響を呼んだ。同社はその後もカレーフェスとのコラボやカレー業界への啓蒙も積極的に行い、「カレーにはジントニック」という新たなパーセプションを獲得していった。ジントニックにフォーカスしたした施策によってボンベイサファイアの出荷数は2015年から5年間で1.7倍の6万ケースにまで成長。カレーとの組み合わせなど新しい飲用シーンの提案によって市場が徐々に拡大している。

    ■ナラティブは企業価値に直結する
    ・ナラティブは企業価値を最大化し企業を成長させる。
    ・経営の視点から企業成長とナラティブの関係を整理してみよう。ポイントは3つに集約できるだろう。まずは「価値の共有」。ナラティブがあることでその企業が本来持っている DNA やパーパスがより可視化される。その価値が世の中に明確に提示され、ステークホルダーの間で共有されている企業は強い。
    ・ 2つ目のポイントは「判断」だ。企業の成長にはスピーディかつ正しい判断が欠かせない。やるべきことは何で、やる必要がないことは何なのか。ナラティブがあれば、その判断は容易になる。物語的な構造は、将来起こること(起こすべきこと)も含めて世の中における企業やブランドの立ち位置を明確にしてくれる。
    ・そして最後に「人材」。結局のところ、企業は人の集まりであり、人が企業を成長させる。ナラティブによる共体験は従業員の結束を高め、「自分はなぜこの企業に属するのか?」という理由を強固にさせる。優秀な人材も、「自分もそのナラティブに参加したい」というわけで集まってくる。

    ■スタートアップにこそ必要なナラティブ
    ・スタートアップにとって、自社やプロダクトに対する世の中のパーセプション形成が重要となる局面がある。スタートアップは、そもそも社会に存在しなかったサービスやプロダクトを生み出している。となれば、自社を知ってもらうこと(認知)に加えて、どういうパーセプション(認識)を持ってもらうか、は重要な目的になり得る。正しく認識されていないものを過度に宣伝しても意味がない。ナラティブは好ましいパーセプションを形成するという目的のためにも機能する。スタートアップにこそ戦略的なナラティブスクリプトが必要なのだ。

    ■「ナラティブかどうか?」という価値基準
    ●1.そこに物語はあるか?
    ・ネイティブの大前提は「物語性」だ。単なる企業情報や商品スペックは、現代社会においては大きな意味を持たない。一方、我々はストーリーには惹かれ、記憶し、関与する。心が動いたり、そこに何らかの意味を見つけたりすれば、率先して人に話したくなる・それが物語の持つパワーだ。
    ●2.それは「共創」されているか?
    ・ナラティブでは物語は「共創」されていなければならない。物語の主役が企業やブランド(=ブランドストーリー)ではなく、「複数の集団共有ストーリー」である必要がある。ナラティブには、ユーザーや生活者、その他のステークホルダーが関与できる「余白」が用意されていなければならない。
    ●3.それは「構造」として機能しているか?
    ・ナラティブは立体的かつ継続性を持った「構造」である。どれだけストーリー性があっても、単独の広告やパブリシティはナラティブではない。例えれば、ナラティブという建築物の中で、広告や PR 商品開発や採用などの企業活動が営まれる。ワンショットではなく、現在進行形で続いていく構造がナラティブだ。

全5件中 1 - 5件を表示

著者プロフィール

本田事務所代表/PRストラテジスト「世界でもっとも影響力のあるPR プロフェッショナル 300 人」に 『PRWEEK』 誌によって選出されたPR専門家。1999年に世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードに入社。2006年にブルーカレントを設立し代表に就任。09年に「戦略PR」(アスキー新書)を上梓。P&G、花王、ユニリーバ、サントリー、トヨタ、資生堂、ロッテ、味の素など国内外の企業との実績多数。19年より株式会社本田事務所としての活動を開始。著書に「戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力」(東洋経済新報社)など多数。国連機関や外務省のアドバイザー、Jリーグのマーケティング委員などを歴任。海外での活動も多岐にわたり、世界最大の広告祭カンヌライオンズでは、公式スピーカーや審査員を務めている。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)理事。

「2022年 『パーセプション 市場をつくる新発想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

本田哲也の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×