多様性の科学 [Kindle]

  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
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感想・レビュー・書評

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  • 数々の実例を基に、"多様性" がもたらす恩恵と多様性欠如に起因する深刻なリスクを科学した書。

    多様性には、「人口統計学的多様性(人種・性別・階級などの違い)と認知的多様性(ものの見方や考え方の違い)」がある。この両者、重なることが多いが同じてはなく、勿論大切なのは認知的多様性の方だ。

    多様性確保がとても重要であることは論を待たないし、自分自身肝に銘じていることではあるが、「CIAの大失態、エベレスト山頂でのロブ・ホールの勇敢な行動、キャスター付きのスーツケースの数奇な歴史、政治的なエコーチェンバー現象」、「1940年代末の米空軍における航空機事故」、欠点だらけの「標準化された食事療法」等々、本書で多様性欠如の失敗例をこれでもかという程突きつけられると、その致命的な重要性、再認識せざるを得ないな。

    中でも、CIA大失態のエピソードは衝撃的だった。CIAは、911テロに繋がる情報を多数得ていたにもかかわらず過小評価してしまい、危機を察知して適切な対策を立てることができなかった。同じ人種・性別・バックグラウンドのエリートばかり採用していたため、思考が画一化し、盲点に気付かず機能不全に陥っていたのだ。「CIAは多様性のゴールを達成していません。アメリカの国家安全を守る組織が、たった1つの世界観でものを見る人間ばかりで組織されていては、敵を把握して何を計画しているか予測することなどできません」。「CIAの歴史を振り返れば9・11以前にも同様の失敗が繰り返されていたことがわかる」、「キューバ危機やイラン革命はその典型だろう。旧ソ連の崩壊を予見できなかったのもそうだ」というから、CIAは創設以来ずっと、その最も重要な役割を果たしてこなかったことになる。驚いたな、こりゃ。


    「多様性」以外の本書のキーワードは、「クローン錯誤」、「集団脳」、「集合知」、「心理的安全性」、「融合のイノベーション」=「アイデアのセックス」、「ネットワーク理論」等々。

    「第七 Ⅱ 人間は本当に他の生物に優っているのか?」では、ジョセフ・ヘンリックの「文化がヒトを進化させた」が多数引用されていて嬉しい。「いわば人類は、多様性という土台の上に築き上げられた。さまざまな知恵やアイデア、経験、幸運な発見、融合のイノベーションが社会的ネットワークの中で生まれ、共有されて、集合知が高まり、自然淘汰の軌道を変えていった。多様性こそが我々の知能を高めたと言っていい」(by著者)。「文化がヒトを進化させた」は本書と併せて読むべき書です、はい。

  • 多様性の科学で書かれていて今後の考え方に取り入れたいことが3つあった。
    エコーチェンバー現象は、反対意見の信用を貶める空間だ。そのため外部の情報が次々に流れ込んでくる状態でも存在し得る。そとのメディアに触れることは一歳禁じられていない。反対意見の信用を落とすメカニズムがうまく働いている限り、外の情報に多く触れれば触れるほど、逆に内部の人間の忠誠心を高められるからだ。

    多様性は、単に集合知を高める要素というばかりでなく、独自の進化を導く要素にもなる。ヘンリックの言葉を借りれば、「人類に成功をもたらすカギ」なのだ。

    ジョンスチュワートミルも多様性の価値を雄弁に語った
    我々の人間的な進歩が滞っている今、自分とは異なる人々と接し、馴染みのない考えかた行動に触れる価値がかつてないほど高まっている。こうした交流は常に、現代においてとりわけ、進歩をもたらす大きな力となる。

    それと多様性をどう取り入れるかについてオーケストラの採用にカーテンで目隠しして審査すると女性の採用率が3〜40%上昇したのは面白い。
    多様性の欠落した存在としてCIAの採用が最初と終わりに書かれて、少しずつ良い方へ変わっている様子が描かれて未来に希望を持ちたくなる良いエンディングで締めてあった。

  • 何でもかんでも「多様性」の一言で片付けて、考えたフリをしてしまう時代だからこそ、多様ってどういうこと?を突き詰めるお供としてオススメの一冊。
    敬意ベースのリーダーシップを浸透させた会議だからこそ、「反逆のアイデア」が生まれて、盲目的な結論に陥らずにすむ。異分野と異分野のアイデアのセックスで、非連続な成長の資源を得る。などなど。感覚的に議論されがちな論点に、データや小話を導入して、しっかり吟味してくれる。

    鍵となる研究が『Humankindー希望の歴史』と一部被っていることもあり、併読すると、より深まる。

  • 印象深いところ
    ・飛行機事故の教訓
    ・政治思想の変化
    ・個人で違う栄養学
    ・大勢の空間が自分と近いひとを集めがち
    また読もう

  • よく聞くようになった多様性。
    流行りの配慮たけじゃなくメリットがある、重要な視点となることについての事例と解説。
    差別視点より、このような説明があるほうが受け入られやすいと思う。
    最初はいいが、だんだんと無駄に長くなる感じが、失敗の科学と似てる。

  • なぜ組織には多様性が必要なのか、様々な研究や逸話を用いて説明する本。多様なバックグラウンドは多様な視点から問題を見ることにつながる。そうすることで死角が減り、よりよい解決策が生み出されるのである。

    本書はアファーマティブ・アクションと能力主義の戦いに一石を投じる。もちろんアファーマティブ・アクションを有利にする側である。能力主義は一見すると理にかなっているように思えるが、それでメンバーが均質化してしまうと、チームの総合力の観点では合理的とは言えない。なぜならメンバーの均質化は視点や意見の均質化を招くためである。そうすると、収穫逓減の法則のごとく、同じようなタイプの追加メンバーはチームの総合力をアップさせることにつながらない。それよりも例え個人単位で見たら劣っていても、新しい視点を導入してくれる人の方が全体としてプラスになるのだ。

    前著の『失敗の科学』に引き続き、本書もいい本なのだが、一つ気になる点がある。最後の方で人類進化の話が出てきており、その内容がおかしい。本書では「集団内での交流 → 知恵やアイディアの蓄積 → 脳の容量が増加」という説を唱えている。一方で、協力しあうホモ・サピエンスと違って、ネアンデルタール人は個人主義的であり、だから生存競争で敗れたとしている。

    しかし、ネアンデルタール人は現生人類より大きな脳を持っていたとされている。これでは脳の容量の増加に集団内での交流が必須ではない。本書では「人類の祖先はネアンデルタール人以下の脳の容量しか持っていなかった」と書いてあるが、祖先どころか今もそうである。本書は「人類の祖先 (いわゆるホモ・サピエンス)」と書く一方で、「過去200万年から20万年前の間に人類の脳は拡大した」と書いている。本来ホモ・サピエンスとは現生人類のことを指し、諸説あるがおよそ25万年前に登場したということを考えると、この説明はいろいろとおかしい。

    せっかく良いことが書いてあっても、一部に明らかな間違いがあると、他の記述にも疑いの目を向けることになるから困る。

  • 非常に面白かった。

    自己啓発本って、読んでも「うんうん、そうだよね〜(でも、いったいどう活用すれば?)」という感じで、頭の中をスルーしていってしまうものが多い気がしているのだけれど(まぁ、あまり読まないしね)、この本では、「多様性を持たなかったために失敗した例」が数多く紹介されていて、最初から最後まで興味深く読むことができました。

    9.11同時多発テロを予見できなかったCIA。支配型ヒエラルキーによって多くの死者を出してしまったエベレスト登頂隊。知の共有がなされずに文化的に発展しなかった離島。標準化、平均値による不利益。などの数多くの例を挙げ、私たちが陥りやすい「居心地がいいが多様性のない」社会に対して警鐘を鳴らしてくれていました。

    言葉で概念的なことを並べられたら、きっと「ふーん」で終わってしまったのだろうけれど、過去の例を挙げながらの構成はとても読みやすく、本当に面白い本でした。


    実際、エベレストの事故に関しては、気になりすぎて、この本を読んでいる途中に、その時の登頂隊に参加していたジャーナリストさんの書いた本「空へ」を先に読んじゃったりしてましたし、それ以外にも気になる例がいくつかありました。


    私はビジネスをやっているわけではないので、仕事に活かせる、というわけではないけれど、生活全般において、頭の片隅に入れておいていい情報ばかりでした。

    KindleUnlimitedで借りた本なのですが、もしかしたら書い直したりするかも。何度でも読み返したい本でした。

  • 「多様性」を認知多様性から捉え直し、複雑な問題に対する予測や解決のために不可欠なものと提案する。
    第1章では、一人一人は優秀でも画一的集団になると「死角」が生じることをCIAの失敗を例に説明する。
    第2章では、一見ある問題の専門家ではない「反逆者」のアイデアが問題解決の突破口になることを、スポーツや町議会、科学研究、暗号解読を例に説明し、必ずしも属性的な意味でない多様性のあるメンバーを集めることの意義を強調する。
    第3章では、たとえ多様性のあるメンバーがいたとしても、自然とできてしまうヒエラルキーや権威主義によってコミュニケーション不全が起こり、多様な意見が語られないことを、航空機事故や登山事故、Goolgeの失敗例から説明する。そして、「尊敬型ヒエラルキー」や「心理的安全性」といったマネジメントの概念と接続する。
    第4章では、イノベーションと多様性の関係を主題とする。「融合のイノベーション」の比重が高まっていること、ベテランだからこそ気づけない新しい技術の可能性に「第三者のマインドセット」で「概念的距離をとること」によって気付くこと、「積極的開放性」や「前提逆転発想法」、「情報のスピルオーバー効果」といった概念と接続する。特に、「情報のスピルオーバー効果」は、個人よりも人的ネットワークによる集団脳が、「情報の水平伝播」によってアイデアを連結させ、イノベーションによって重要であるという論点へと繋がる。
    第5章では、多様な意見の効用を無効にする「エコチャンバー現象」を取り上げる。白人至上主義から転向した青年の物語を例に、集団の人数が増えると狭いネットワークを作ること、エコチャンバーの中で自分と反対の意見に触れたとしても信念が変わらない仕組みを論じる。
    第6章では、「平均値」で考える危険性を、ダイエットなどの健康法や飛行機のコックピットの形状、職場のデスクにおける個人の裁量を例に論じる。特に、エラン・シーガルの研究を引用し、平均値だけで考えることが人間の多様性を覆い隠してしまうこと、逆に人間の多様性をきちんと測定することで個々人で異なる体質などに適した健康指導ができることを紹介する。また、明示的には触れられていないが、周辺分布の積を同時分布と同一視することの危険性が通底している。さらに、平均値とは逆に、教育や職場で個々人に合ったカリキュラムや行動を認めることで、個人が力を伸ばせることを、ケーススタディや脳地図の話から説明する。要は「全ての人に最適なものは無い」ということである。
    第7章では、集団脳と個人主義を対置して、人類学へと論を広げる。すなわち、人類の進化は、個体の知能が高かったことよりも、「社会的学習能力」が高く、集団脳によってアイデアの交換や共有、発展が起こったことが寄与していたという説について、発汗機能や識字能力などを例に紹介する。さらに、現代社会の様々な問題を解決するためには、知識のネットワークを拡大させることが必要であり、だからこそ構造的なバイアスを解体して多様性を確保することが重要であると説く。具体的な方策として、「陰の理事会」や「ギバー」、外部の人に意見を求める態度などが挙げられている。

  • ・答えが明確にないようなタスクを行う上では、多様性が重要。
     画一的な「優秀な人間」が集まっても、考え方が同じであれば
     カバーできる領域は広がらない(網羅性がない)
    ・メンバがいても心理的安全性が高くないと十分なナレッジは共有されない。
     例)飛行機の例だと機長が絶対的な権限をもっているせいで
       乗組員は上司に意見するより(意図せず)死を選ぶようなケースもあった
    ・集団が画一的であるとエコーチェンバーのような現象もありえる。
    ・インターネットのような広大な世界や、大きい総合大学のような場所だと
     多様な人とコミュニケーションがとれそうであるが、そうでもない。
     つきあう人間・コミュニティを自分で選択できるために、自分と同質なコミュニティに属しがち。
     (多様なコミュニティは必ずしも快適ではなくストレスも付属するため)

  • 多様性がなぜ大事なのかがハッキリと分かった。

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著者プロフィール

作家、英『タイムズ』紙コラムニスト。オックスフォード大学哲学政治経済学部を首席で卒業。卓球選手として活躍しオリンピックにも2度出場。著書に世界的ベストセラー『失敗の科学』『多様性の科学』他。

「2022年 『才能の科学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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