姫君を喰う話―宇能鴻一郎傑作短編集―(新潮文庫) [Kindle]

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  • 官能小説の大家として有名な著者の、官能小説ではない短編集。
    とは言っても、表題作、「ズロース挽歌」および「リソペディオンの呪い」は少々エロチックな内容。
    一方、「鯨神」は1962年の芥川賞を受賞した官能ともエロチックとも無縁な文芸路線で、著者の作風の幅広さを感じられた。

    一定年齢以上の男性であれば、著者の一人称を使った独特の官能小説を一度くらいは読んだことがあるのではないだろうか。
    また、作品の多くは、当時日活ロマンポルノとして実写化もされているので、本は読んだとこはなくとも、映画で著者の作品に触れた男性も多いのでは。

    そのような方々には、ぜひ本書を手に取っていただき、官能小説以外の著者の文芸者としての幅広さ、奥行きの深さを感じていただければ、と思った。

    あと、著者はとっくに逝去されていたものと思い込んでいたが、2021年9月現在まだご存命でした(御年87歳の模様)。大変失礼いたしました。

  • 『鯨神』を目当てに手にとる。宇能鴻一郎の芥川賞受賞作。巨大な鯨を倒すことに取り憑かれた浦の人々の物語。野太い迫力。
    映画もUNEXTにあった。紀州男が勝新太郎、トヨが江波杏子、エイが藤村志保。

    表題作他もなかなかすごい。女性一人称の軽妙な官能小説家という認識にとどまっていたのはもったいなかった。他のものも読んでみたい。

    小桜はかわいい。

  • 日本文学の淫靡で残酷な要素を凝縮した短編集。
    人間の生に纏わりつく性や食が濃密な文章で展開される。作中では眉を顰めたくなるような猥褻で下品な行為や思想が登場人物によって披露されるが、読んでいるうちにかえって人間の根源的な欲望に対峙しているというような感覚になる。また文章の緩急が上手く、強烈な衝動に突き動かされる場面と嵐が過ぎ去ったかのような静寂の場面のメリハリがあって読みやすい。物語の面白さもそれに一役勝っている。


    p351
    「巨大な男根を誇示しつつ、のしかかってゆくのは、快楽の種類に奥行きがなくてつまらない。(中略)あまりに通俗すぎ、荒っぽすぎる。こんなことでいい気持ちになるおとこは、よっぽど官能の素質を欠いている人間だろう」

  • 「姫君を喰う話」
    食と性を結びつけて語る気持ち悪い前半に期待したものの、タイトルのくだりはあっさりだった。

    「鯨神」
    鯨漁の話は好き。鯨神に挑む若者という筋でも、闘いだけを書いていない。閉鎖的な空間、野生的なエネルギー、人物たちの覚悟、ラスト、「実にしばらしかはなしじゃ」

    「ズロース挽歌」
    ズロースって言葉の響きが笑えちゃう。ズロースね、ははは。黄金の汁をしたたらせ、そそり立たせた大胆不適な男がすげえ。ぶはははは。

    「リソペディオンの呪い」
    これもよかった。地蔵の呪いや鍾乳洞のようにオカルトや神秘的な雰囲気と、ストリップ劇場のような俗な人間模様が描かれる。そして母の体内に戻る。悲喜劇。

    フェティシズムや性的倒錯は谷崎潤一郎に通ずるものがあるな。特に足か。権威に挑んだり、美しいものを低俗な位置に引き下ろす物語を書いているな。

    カバー装画の九鬼匡規。調べると脚をチラ見せしてる作品が何点もある。宇能小説に合う作家を選んだな。

  • 筒井康隆の「乱調文学大辞典」で「女子高生=ズロース趣味をSF作家に植え付けた元凶」みたいな書かれ方をしていたので、かなり前から作家の名前は知っていたが、作品には手をつけていなかった。どれも官能小説テイストの話である。全編足を舐める描写があるのが作家の特徴か。

  • タイトルから、ホラーかと思いきや・・・まさかの官能小説だった・・・

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著者プロフィール

宇能鴻一郎(うの こういちろう)
1934年、北海道札幌市生まれ。本名鵜野広澄。家族4人で、東京、山口、福岡、満洲国(現中国東北部)撫順、長野県坂城と移り住み、満洲国奉天にて終戦を迎える。福岡県立修猷館高校から東京大学教養学部文科二類に入学。修士課程在学中の1961年、仲間たちと創刊した同人誌『螺旋』掲載の「光りの飢え」が『文學界』に転載され、これが芥川賞候補となる。次作の「鯨神」が翌年1月に芥川賞を受賞。以後おもに性を主題として新しい文学を切り開くが、文壇では正当に評価されず、1971年から徐々に女性告白体の官能小説に軸足を移した。歴史小説、ハードボイルド、推理小説でも独自の世界を築いている。
 主な著書に『密戯・不倫』『楽欲(ぎょうよく)』『痺楽』『肉の壁』『黄金姦鬼』『お菓子の家の魔女』『切腹願望』『金髪』『斬殺集団』などがある。

「2022年 『甘美な牢獄』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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