mRNAワクチンの衝撃 コロナ制圧と医療の未来 [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 多くの人が接種したであろう、ファイザー製新型コロナワクチンの予防接種。本書はそのファイザー製ワクチン開発に携わった二人の科学者が、構想から治験を経て全世界にワクチンを届けるまでを辿ったノンフィクションです。本書後半で詳しく述べられていますが、世界規模で医薬品を流通、販売するには製薬大手企業の協力は不可避で、それを担ったのがファイザーなのですが、このワクチンの構想、開発を主導したのは本書の主人公、ウール・シャフィン、エズレム・テュレジという二人のドイツ人科学者夫婦と、二人が起業したビオンテックという医療ベンチャー企業です。
    二人は癌をワクチンで治療することを目指していました。ここにmRNAを利用することを研究しており、癌ワクチン応用への目処が立っていた時に新型コロナのパンデミックが発生したのでした。夫妻は、自分たちが持っている技術を用いれば、新型コロナに対する有効なワクチンが開発可能であることを確信します。そこから、ビオンテックに投資を募る活動と研究とを平行して進め、そして流通・販売のためにファイザーとの提携を決断します。
    本書はワクチンの科学的な解説は抑えめで、夫婦が立ち上げたベンチャー企業が製薬大手企業との提携を経て、世界中に流通するワクチンを開発、製造するに至るプロセスを詳細に描いています。”感染症ワクチンは儲からない”という定説から大手企業でさえ及び腰であった新型コロナワクチンの開発に、なぜ小さなベンチャー企業のビオンテックが成功し得たのか。多くの偶然や、出会いなどが重なり合っていたことが本書にも詳しく述べられていますが、何より重要なのは起業した夫婦2人の「何とかして多くの人を助けたい」という思いであるように感じます。自分の手の中に世界中の人を助けることができる技術があると知ったとき、それをワクチンという形にして世に送り出そうと懸命に活動されている様子は、使命感に突き動かされているような印象でした。おそらくはこのワクチンの成功で、莫大な富を獲得した二人ですが、二人はそんな事よりも、本来の癌ワクチンの開発に今はエネルギーを傾注しているそうです。「儲けたい」が先ではなくて、「世の中の役に立ちたい」という思いに、対価として富がついてくるという、研究や起業に携わる中で、忘れてはいけない大事な部分を再認識させられる1冊でした。

  • ドイツのバイオベンチャー会社ビオンテックの挑戦を、行き詰まるようなスピード感で描く。パンデミックの爆発的な流行を早期に予測し、複数のワクチンを同時に開発するプロジェクト「ライトスピード」で物凄いスピードで開発を進めていく。
    何となく大手製薬メーカーであるファイザーが主体的となってこのワクチンを開発していたものと思っていたが、がん治療の研究を続けていたビオンテック社の貢献が世界を一変する結果をもたらしたことが分かった。

  • ビオンテック社の共同創業者夫妻とその仲間達が如何にして驚異的なスピードで世界初のmRNAワクチンを開発して普及に成功させたのかを語るドキュメンタリー。最後まで臨場感があり楽しめた。

    ウール・エズレム夫妻が科学者や経営者としてだけでなく人格者や家庭人としても非常に優れていることがよく伝わってくる。ワクチン開発だけでなくプライベートのエピソードも豊富に紹介されている。特にウールが幼い頃に父本人が自力で正しい判断に辿り着くことが唯一の効果的な説得の道だと悟って辛抱強く説得をすることを学んだ、というエピソードが好き。

    大量のmRNAを製造する上ので最大の課題が加圧された純粋なエタノールの使用(脂質の活性成分を溶かしておくため)であったことは初耳かつ意外であった。またワクチンに関し抗体依存性感染増強やサイトカインストームといった現象が起こる可能性があることを知れてよかった。

    真面目なドキュメンタリーだが付録の章の「ワクチンに入っていないもの」の項目にしれっと超小型電子機器や半導体ナノワイヤがリストアップされていることに遊び心(とちょっとした反科学者への揶揄)を感じた。

  • BioNTechによる革命
    1. メッセンジャー(m)RNAでできたワクチンの開発
    2. ワクチン開発から供給までのプロセス

    他にも、規制当局との応酬やPfizerとの息詰まる交渉など、ビジネスや政治的動きなどが事細かに書かれている。

    ドイツの田舎町の小資本バイオ企業が、いかにして資金を調達し、常識外のスピードで世界初の新型コロナワクチンの開発を成功させたのか。熾烈なワクチン開発競争の内幕に迫るドキュメント。

    発明から改善され、普及するまでのプロセスが、イノベーションであることを再認識。

  • 自分が接種したワクチンの開発経緯を読むなんて、なかなか体験出来ないことなので最初から最後まで面白かった。あの頃「こんなに直ぐに開発されたワクチンは信用できない」「どんな影響があるか分からない」等々言っていた全てのひと達に読ませてあげたい。

  • 新型コロナウイルスのパンデミックから半年程でワクチンの臨床試験のニュースを見て「早すぎないか?大丈夫?」と思ったものだが、この本はを読んで早い理由に納得できました。

    1秒でも早く世界にワクチンを届けようとした人々の奮闘には、頭が下がります。

  • BionTechのコロナワクチン開発の経緯をつづった本。頭の良さももちろんだが、その胆力にしびれる。

  • Covid19が吹き荒れた裏側の感染症創薬が部隊。
    創薬の投資とリターン、進むか止まるか、自らやり遂げるのか誰かと一緒にやり遂げるのか、博打のような判断の難しさ。
    さらにmRNAという未知なる科学、医学。
    とても素晴らしい経験を垣間見ました。

  • 詳細は美化されているだろうけど、こんなに早い段階からワクチン開発が動いているとは知らなかった。人類史に残る出来事の裏側で全てを投げ打って成功に導いた経営者の判断力に敬服する。

  • "――大手企業と提携すると、訴訟からもある程度身を守ることができる。特にアメリカでは、裁判で負けた場合には費用を請求しない弁護士が、不満を持つ少数の患者を言いくるめ、新薬をつくる会社、とりわけ新技術を用いる会社に対して必ず訴訟を起こさせるからだ。" P.214
    さすがアメリカ、自由の国。司法と医療診断ははやいとこAIにリプレイスして欲しい。

    " エズレムはさらに、治験を加速するもう一つの方法を見つけていた。パンデミックが発生していない状況で行われる大半の治験では、二回目の投与は、一回目の投与から少なくとも二八日間のインターバルを置いたのちに実施される。一回目の投与で刺激を受けた免疫系に、活動する時間を与えるためだ。そして二回目の投与を終えたら、それからさらに一四日間待ったのちに、抗体やT細胞の存在を確認する。つまり、血液サンプルを採取するまでに四二日間を要することになる。だがエズレムらは、この新型コロナワクチンの治験では、一回目の投与と二回目の投与との間の期間を二一日間とし、二回目の投与から七日後に免疫反応のテストを実施することにした。そうすれば、プロセス全体にかかる時間を一四日分縮められる。" P.273
    危機に際して規制を更新するというのは東日本大震災時にも明らかである。だが、それは国家が主導した。いい加減なもんだと思いもしたが、建前をつけた。
    本件の場合、基準をテストする側が決定しているようにみえる。薬品の使用方法だから、作り手が決められるということなのか?

    "――二〇〇〇年にはダボスでの世界経済フォーラムで、ウィルスの流行に対し「世界が連帯して」対応するための戦略が策定され、二〇一七年にはそれが更新されていた。ところが、地政学的な現実にさらされたとたん、そのような戦略は崩壊してしまった。" P.295

    " 三月十五日、ドイツのワクチン開発業者に対するEUの支援が、突如として大きな話題になる事件があった。日曜新聞《ヴェルト・アム・ゾンターク》の第一面に、ほんの数日前まで新型コロナウィルスは「間もなく消える」と豪語していたドナルド・トランプが、ドイツのmRNA開発企業キュアバックに甘い話をもちかけているとの記事が掲載された。実際、三月二日にホワイトハウスで開催され、テレビ放映もされた会議には、キュアバックの最高経営責任者も出席していた。記事によると、その会議のあとでトランプ大統領は、同社が提供する新型コロナワクチンをアメリカが独占的に確保するという条件で、テュービンゲンに本社を置くこの企業に、最大一〇億ドルの資金提供を申し出たという。このニュースには、アンゲラ・メルケル政権も驚愕した。" P.303
    『七人のイヴ』では物語が突発的に方針転換したと感じられたものだが、その一つが、人類存亡の危機にあってアメリカ大統領がエゴをむき出しにするという展開があった。「あるかもな」と思いつつ、フィクションであることを笑ったものだったが、こういうケースを目の当たりにすると笑うどころではなかったと思う。

    ノンフィクションをうたいつつも、ノリを重視して筆致が滑っているように感じることがある。本書にもそれはあり、書いてあることを確かめるすべを持たぬ者としては、そういうものとして読むしかない。
    1~2年前のことでも、ニュースで一瞥した限りの時事は忘れている。そういうことを思い出すよすがとしては、非常に役立った。

    となれば、本書の最大の問題は邦題である。
    原題"The Vaccine --Inside the Race to Conquer the COVID-19 Pandemic--"。レースという単語は一見して、学際的というよりはゴシップ的であろう。ゆえに、邦題に使用したくなかったのかもしれない。だが、誰との、なにとのレースなのかを考えさせる内容でもあるとするならば、この言葉を省いたことは罪深い。

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