流浪の月 (創元文芸文庫) [Kindle]

著者 :
  • 東京創元社
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感想・レビュー・書評

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  • 評価3.8
    audible 10時間21分
    kindle 336ページ
     仲のいい両親と女の子の家族の描写から始まる。両親は少し変わってるかもしれないが、崩壊しそうには見えず娘が一人になる理由は最初は明かされない。
     伯母の家での生活を余儀なくされるが、わいせつ従兄の存在もあり彼女の居場所はなくなっていく。ただ、この時点では公園で読書をしているだけの男がロリコン野郎と呼ばれるのはちょっと可哀想。
     でも小学生の女の子を家に連れて帰るのはさすがにだめだろう。それは誘拐だしそれこそロリコンだ。少なくとも危機管理がなさすぎて先行きに不安しかない。誘拐事件として操作対象となるのは当然の成り行きとなる。
     透明度の高い感情豊かな物語の一方で、振り返るとサラサの周りにはろくなのがいない。子供を捨てる母親(これが一番罪深い)、従兄のタカノリ、悪気はなくても少女誘拐犯、DV男など。この手の感情豊かな物語は常に普通ではない設定を要求するのはどうにかならないのだろうか。ありがちな設定にやや嫌気はさしたが頑張って読み続ける。
     ただ、いびつとも言える関係で先行きも不安ではあったが物語の終着点は意外な程に心地よい。やっぱりハッピーエンドはいい。非常識感満載のリカの母親があっけらかんといい人であったことにも救われた。最終的に"ロリコン"の最大の理解者が少女2人だという事実がこの物語を総括している。

  • 目に見える事が真実とは限らない。
    人の心はその人にしかわからない。

  • 更紗の孤独、文の成長障害、愛に飢え、承認欲求、色んなものがある。
    なんだろ、読みやすい文章なのに、すごく難しい感情が渦巻いている。
    小児性愛の話か、ジェンダーの話か。恋愛?
    いやいや、誰かに定義されるのを待っている自由な二人って感じ。二人はカギのかかっていない牢屋で生きていくんだろうか。決してハッピーエンディングでもない。

    母親に捨てられた更紗に、親の期待に応えることが出来なった文。
    二人の織り成す人間模様。過去の事件は二人の人生に大きな影を落とすことになる。

    両親を失い親戚の家で暮らす少女更紗は、公園でいつも少女を見つめる文と出会う。少女は雨の中、文に誘われるまま誘拐された。奇妙な生活だが、互いに無いものを埋め合い暮らした2か月間。
    長くは続かない。文は逮捕。更紗は施設へ。

    大人になっても心の底から互いに惹き合う二人の出会いは必然か。文は決して小児性愛ではない。ただただ、自分の体について、悩み苦しんでいた。
    痛みを分かち合い、だれかの批評に晒されながら二人は共に生きる道を選んだ。

    しかしDVについてはムカムカする。

    読了。

  •  更紗が、叔母さんの家でのこと、文のこと、はっきり言えば良かったんだ、はじめはそう思っていたが、仮に真実を訴えたとしても、結局は理解されないのかもしれないな、、、と思うようになった。
     世の中は、力があったり、多数派である方が生きやすい。逆に、生まれながらにして生き辛さを抱えている人はどうすればよいのだろう。周りは彼らをどう見ていて、そんな周りを彼らはどう思っているのだろう。そういう一つ一つが丁寧に描かれていて、胸に沁みる作品だった。救いのあるラストで、ホッとした。

  • 日常に置き換えるとこういったことは常に起こっていると感じる内容でした。

    事実が全てではないし、正しいわけじゃない。
    それでもメディアはネタにしてお金を稼ぐ
    それは生業なんだから仕方ない
    一方で被害者側は被害者であることを尊重し続けて悲劇のヒロインを気取り続けていたい気持ちもある。

    日常流れてくるニュースの裏をしっかりと見極めなければならない。
    何が正しいとかないのかもしれないけど、
    見過ごすのではなく、自分ごとに置き換えて何を感じたのかを知る必要があると知らせてくれる小説です。

    • Peach さん
      小説読むなんて珍しいですね!
      同じ作家さんの「汝、星のごとく」も面白かったです。
      また、同じような内容の面白さで、朝井リョウさんの「正欲」が...
      小説読むなんて珍しいですね!
      同じ作家さんの「汝、星のごとく」も面白かったです。
      また、同じような内容の面白さで、朝井リョウさんの「正欲」がおすすめです!!!
      2024/02/11
    • NAMIさん
      @peach

      お、そうなのね!
      読んでみるよ❗️
      @peach

      お、そうなのね!
      読んでみるよ❗️
      2024/02/15
  • この2人にただ幸せをあげたい

    彼が本当に悪だったのかどうかは、彼と彼女にしか分からない

    この言葉に救われた

  • 著者は作中、本作のテーマを短く的確に書いている。「事実と真実は違う」と。
    最近は情報の伝達速度が速くなり、それにつれて事実を認定するまでの時間も短くなっている。それは、「隠れた事実」から目を背ける姿勢でもあり、その結果、真実と事実の距離もますます乖離してゆく。
    事実と真実が隔たっていることに起因して、当事者にもたらされる事態は、映画で観ることでさらによく分かった気がする。視覚的に事態を見せられることで、直感的に当事者の思いとはまったく異なる次元で事実認定されてしまうことが肌から伝わってくる気がしたからである。しかし、その内面に潜む当事者の苦悩や諦念といったものは、やはりテキストを読むことでより深まった。映画化された作品を観て、かつその原作を読むことの楽しみは、こうしたことにある。

    著者が「事実と真実は違う」のだという、シンプルで深いメッセージを突きつけたとき、それがいかに恐ろしい事態であるかをあらためて振り返るとともに、そうした事例が我々が生きている「今」のそこここに存在することに驚愕する。
    「常識を疑え」と言った人がいたが、人によって見えている断面が異なり、その視野においてのみ存在する「事実」はもはや多面性を持ちすぎている。そこから真実を見出すことは不可能に近い。『流浪の月』を読むとそうした「不都合な真実」があることがよく理解できる。見えている事実が人によって大きく異なる現在の状況では、常識もまた人それぞれになってしまう。常識という言葉の意味さえ、曖昧に思えてくる。

    事実と真実が違うものであるというテーゼを掲げて、著者はそのテーゼが生み出す悲劇を静かな語り口で紡いでゆく。加害者たる大衆が、おのが目に見えている「事実」だけで勝手に被害者を仕立て上げ、その罪を決めつける。あらゆるメディア、とりわけネットメディアが伝達する情報のスピードは、真実を見抜いているかもしれないサイレントマジョリティの声など、瞬時にかき消すだろう。そして、「真実」に手が届くかもしれなかった人びとの目の前にある「事実」を、洪水のように押し寄せる情報が上書きしてしまう。
    二人の当事者が互いに共有している「真実」は、もはや二人以外の場には跡形もない。二人に許されるのは孤立だけである。片や警察権力に確保され、片や施設に送還されてしまう。本来警察は事実を積み上げて、真実を読み解くことが任務であるはずだが、事実自体が歪んでしまっているので、事実は事実として機能しない。当事者は大いなる当惑を抱え込むこととなるが、当事者を除く「その他大勢」に囲まれてなすすべもない。
    この悲劇を映画で観て、本で読み、事実という名の嘘に恐ろしさを覚えると同時に、自身も日々こうした「事実」に踊らされているかもしれないということに気づいた。

    救いがあるとすれば、当事者は二人であるということだ。一人だったらつらい。二人の当事者が互いに「真実」を共有していたという「事実」がせめてもの救済である。
    彼らを取り巻く者たちには、彼らととても近いところにいるにもかかわらず「真実」は見えていない。自分たちが「事実」と思い込んでいるものだけをおのが判断の依拠とする。そして、その判断こそが(彼らにとっての)「真実」だと思いこむ。こうして、「事実」はかりそめの「真実」へと姿を変える。本当の真実は、いくつものかりそめの真実に隠蔽され、誰の目にも留まらない片隅へと追いやられる。
    このような我々の身近にある疑うべき「真実」を描こうとしたときに、やはり著者は叫ばずにいられなかったのではないかと思う。だから、著者は静謐な物語の中に静かなる叫びを織り込んでいる。
    「事実と真実は違う」と。

  • p145
    『けれどわたしは、自分がなにに幸せを感じるのかよく分からない。様々に降りかかる嫌なことから心を守っているうちに、わたしは自分の輪郭をどんどんぼやけさせてしまった。自分が何に傷つき、なにに歓び、なにに悲しみ、なにに怒るのか。』

    p175
    『哀願は、暴力とは別の場所を殴りつけてくる。優しさや寛容という、人の脆い部分に訴えてくるやり方はずるい。わたしは悪くない。わたしは悪くないんだと言い聞かせる。』

  • 読み終わって思うのは、この作品を更に凌駕する小説をすぐさま書いて本屋大賞を連続受賞する、ということの凄まじさ。

    それくらいこの物語には衝撃を受けた。

    小児性愛とかDVとか、それだけで心が重苦しくなるような辛い環境が舞台。
    家族、両親の偏った愛情ゆえの苦しみ。
    セックスを度外視した、他人には理解が及ばないような男女の関係。こういういわば過酷な状況に置かれた登場人物たちを実に見事に描いていく。

    個人的に最高に大好きな映画「トゥルー・ロマンス」が小さく無い位置を占めていて、また久しぶりに見返したくなった。

  • 世の中の普通は時として人を苦しめる。
    それは何も知らぬ他者だけでなく、自らをも知らぬ間に苦しめてしまう。
    本当の幸せってなんなんだろう?
    私たちは正論でその人なりの幸せを奪っていないか?
    そんなことを感じるストーリーでした。
    更紗と文、其々が抱える背景や苦しみを秘め、男女を超えた魂と魂とが自然と互いを求め、すれ違い、再び巡り合い、傷つき、乗り越え、彼らなりに生きていこうとする。
    重苦しいシーンの先に達観したふたりの世界が広がり、最後は不思議な安堵感を覚えました。
    色んな生き方があっていい。
    当たり前や普通で人を括ってはいけない。
    寛容さや色んな角度で世界を見れたら。
    多様性な生き方を尊重できる社会に。
    ふたりがふたりなりの幸せを生きていって欲しい。
    そう願いながら読み終えたお話しです。

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著者プロフィール

1973年生まれ、京都市在住。2007年、BLジャンルの初著書が刊行され、デビュー。17年『神さまのビオトープ』を刊行し、高い支持を得る。19年『流浪の月』と『わたしの美しい庭』を刊行。20年『流浪の月』で「本屋大賞」を受賞する。同作は、22年に実写映画化された。20年『滅びの前のシャングリラ』で、2年連続「本屋大賞」ノミネート。22年『汝、星のごとく』で、第168回「直木賞」候補、「2022王様のブランチBOOK大賞」「キノベス!2023」第1位に選ばれ、話題を呼ぶ。翌年、同作の続編にあたる『星を編む』を刊行した。

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